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一期一会の音楽の力〜アンサンブル・アディ『ふれあいコンサート』〜

アンサンブル・アディさんとの出会いは2003年。

その頃、NPO法人横浜アートプロジェクトという、現在の会社の前身となる団体を運営していました(今は休眠中)。

同団体で主催していた横浜市開港記念会館(国重要文化財)での非営利コンサートシリーズ「伝わるもの」に、ご出演いただいたのが最初でした。

アンサンブル・アディさんの「音の綾取り」シリーズは、その後毎年開催され、2007年にこの「伝わるもの」シリーズ最終回にもご出演いただきました。

「伝わるもの」は、障害の有無や年齢の違い、性別の違いなどを超えて人々がアートを媒介に一堂に会する場を作ることにより、地域を元気にするという目的で、2001年から7年間で72回開催しました。

同シリーズを始めようとしていた2000年初頭は、コンサート等のチケットが決して安くない状況でした。また、未就学児は入場制限があったり、障害のある方が入るにはご自身と介助者のチケット料金を支払わなければならないなど、今よりは「誰もが一堂に会してアートを楽しむ」という状況に対して、ハードルが高かったように記憶しています。

そこで、チケットが一人1,980円、障害のある方と介助者無料、中学生以下無料、学生半額という値段設定で、誰もが親しい人と共に一流の芸術に触れる機会を作ろうという試みでスタートしました。

上述のアディさんはじめ、アンサンブル・タケミツのみなさんや、パーカッションの吉原すみれさん、チェリストの木越洋さん、日本のジャズの草分、原田忠QUARTET の皆さん、ジャズピアニストの佐山雅弘さん率いるマサちゃんズ、小野雅司さん率いるマリンバ・トロピカーナ、クラッシックグループ「風」のみなさん、韓国のインプロの大家、サックスの姜泰煥さん...。などなど、様々なジャンルの錚々たる方々が、趣旨に賛同しご出演くださいました。

手作りコンサート

コンサートの主催などやったことのない夫と私が始めたので、今思えばかなり無茶苦茶だったと思います。

夫は私が独身時代に購入した、perfomaという古いmacを駆使してチラシをデザインし、横浜市内の障害のある方を受け入れる学校や施設などを周り、チラシを置いてもらいました。

私も、2歳になる長女を引き連れて受付をしたり、広報したり、舞台裏でお茶を出したりとやったことのない仕事を必死でこなしていました。

そのうち、手伝ってくださるボランティアさんなどが増え、神奈川県の補助金なども取れるようになり、徐々に余裕ができてきました。

アンサンブル・アディとは

アンサンブル・アディは、大西雄二さん(コントラバス)と大西ますみさん(チェンバロ)という通奏低音をベースとして、バイオリンやフルート、オーボエやファゴットなどを交えて、バロック音楽を中心に各地で演奏してきた音楽ユニットです。

2015年にますみさんが脳出血で入院された後、左手のピアニストとコントラバスのコンビネーションで再出発。その間、雄二さんも癌を患いながらも克服され、新しい形で演奏活動を続けてこられました。

7月23日。一般公開コンサート初日

今年に入ってからお二人から「コンサートを手伝って欲しい」とお声かけいただきました。お二人の演奏を聴くのは本当に久しぶりで、ワクワクしました。

こちらが当日のプログラムです。

アンサンブルアディプログラム_1

アンサンブルアディプログラム_06022_修正

以前からアディのお二人は、音楽の中だけじゃなくて、普段の生活の中でも「出会い」を大切にされているな、と感じる場面が多々ありました。

今回のコンサートも、新生アディの初コンサートを喜んでおられる方がたくさんいらっしゃいました。中には、娘さんが高校生の時に家庭教師をされていた女性(当時大学生)が、お子さんとご主人を連れて聴きにこられたりする等、家族ぐるみで長くお付き合いされてきたことが伺えました。

お手伝いの方々も、お仲間やお弟子筋の音楽関係の方から、近所の映像を学ぶ学生さん、靴修理屋さんなどなど、多彩な顔ぶれ。

当日、私は受付をお手伝いさせていただいたのですが、温泉に浸かっているような、温かいひだまりの輪の中にいるような居心地の良さがありました。

こんなコロナ禍に、なんて贅沢なんだろう...。と改めてありがたく感じました。

「伝わるもの」

そもそも、新生アディさんの初コンサートっていう稀有の機会じゃなく、コロナ禍じゃなかったら、もっと事務的にコンサートの受付をやったのかも知れず、なんというか、人の縁やタイミングって不思議なもんだなぁと。

メッセージ
ひとりひとりに音楽を届けようと思います。
知っている曲も、知らない曲も、
自分なりに感じて聴いてください。
音楽を聴いて何かを思い出すのも良いですね。
不思議な自分に出会えたらステキだと思います。

プログラムのこの言葉も、この状況下で殊更に響きました。

ますみさんの左手の演奏は、両手だったら誰も出せないような素晴らしい何かがありました。「伝わってくるもの」が違うんですよね。全身全霊で一つ一つの音を紡いでいくことが、こんなに伝わるものなんだ、というのをひしひし感じました。

偶然なのか、必然なのか、自分達が初めて主催してアディさんに出演していただいたコンサートシリーズの名称が「伝わるもの」だったことを思い出し、なんだか不思議な気持ちに囚われました。

一期一会の生演奏

演奏者は、演奏によって何かを伝えたいとか、人を感動させたいと思うものなのかも知れません。そして、聴きにくる人も、色々な人生の中で音楽の素晴らしさに触れたい、疲れを癒したいなど、いろんな方がいらっしゃると思います。

しかし、いずれにしてもその日その時、たった1度のこと。演奏者も聴衆も同じメンバーで同じ時間で、というのは2度とありません。

まさに一期一会。だからこそ意義深いし、それぞれの思いを超えて、その一瞬一瞬を生きているという実感が生まれます。

いくら後でyoutubeで見れたとしても、現場に居合わせた人の感覚を再現する手がかりしか見ることはできないと思います。あとは見る人の想像で補っていくしかありません。

音楽の力

今回コンサートをお聴きして、お手伝いさせていただいて感じたのは、自然に立ち上がってくる音楽の力

身体の底から沸々と何かが湧いてくるんです。

小さい頃、毎日の小さな発見も新鮮で、ワクワクして暮らしていたことを思い出しました。

あぁそうか。だから自分は音楽が好きだったんだな。この身体の底から湧いてくる力みたいなものを感じたかったんだなと。

コロナのせいだけじゃない、だんだん歳をとってきてドライになってきていた身体の芯が、久しぶりにぷるぷるん、と目覚めたような、そんな感覚でした。

やはり人と人が触れ合う生の体験に勝るものはありません。
音楽はその最たるもの。お二人の力量や温かい演出を肌で感じながら、身体の中は音楽の力で満たされていきました。

2021年7月23日

7月23日は、東京2020オリンピックの開幕式でしたが、私にとっては一期一会の素晴らしさ、伝わるものの素晴らしさを改めて感じた1日となりました。

アンサンブル・アディさんに、影ながらエールを送り続けたいと思います。ありがとうございました。

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*冒頭で使用している絵は、大西ご夫妻が懇意にされている方の姪御さん(幼稚園児)が描かれたもの。冒頭だと残念ながら観客のお顔が切れてしまうので、もう1度こちらにも!

大西さんから絵の説明をいただきました:

「元住吉にミオスという絵画教室があり、娘が通っていました。代表の小原京美さんとも仲良くなり、彼女が個展を開くと見に行ったりしもしたし、彼女もコンサートを聴きに来てくれました。チラシに子供達の絵を使った事もありました。」






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