イギリスで初仕事

希望の大学院にギリギリ進学でき、偶然私を担当してくださったフルートの先生が卒業後の進路等も気にしてくださるタイプの先生だった為(普通、音楽留学の場合は留学前に師事したい先生を決めたり目星をつけてから入試を受けたりすると思いますが、私は運に身を任せました)、最初のレッスンで私の希望に合致する修行先をいくつか教えてくださいました。

その中の一つが、Live Music Now! (https://www.livemusicnow.org.uk/)という若い音楽家のための機関で、こちらに所属すると、イギリス全土の学校、美術館、病院、介護施設等、さまざまな公共機関を舞台にして、コンサートやワークショップを開く機会が与えられ、演奏料をいただきながら、将来音楽家として、ツアーで各地を転々としたり、観客を自分の舞台に巻き込むスキルを付けることができます。

私はもともと、日本の大学時代に「音楽によるアウトリーチ」という地域に根ざした音楽家になるための授業を履修していたため、Live Music Now (私が所属していた時は、「!」が付いていたのですが、先ほどウェブサイトを見たら、!が取れていました)のスタイルと合うなと思い、オーディションを受けてみることにしました。

オーディションが行われる日に、ロンドンの地下鉄テロ(2005年7月7日)が起こってしまい、あららら〜という感じでした。 使う予定だった交通機関が麻痺したため、「テロなので、オーディションに行くことができません」と連絡を入れたところ、快く「ではもう一度別の予定をお知らせするわね〜」とのことだったので、安心していたのですが、後から聞くところによると、テロが原因でキャンセルしたのは私のみだったようで、他の候補者はみんな遅刻しながらもオーディションへ到着できたとのこと。

ただ、その辺りは柔軟なイギリス、嫌味を言われることもなく、普通に再チャレンジ日を設けてくれました。

オーディションは、ただ単に演奏技術を見られるだけではなく、お客さんへのコミュニケーション力、プログラム構成等、いろいろな角度からチェックされます。

再チャレンジ日のオーディションを受けながら、フルートはマズかったなと感じたので、演奏後の面接で「日本人なので、尺八も吹けますが、先日乾燥のために竹が割れ、現在日本から取り寄せているけれども、オーディションに間に合いませんでした」という嘘をつきました(こちらは日本では結構オープンに語っているのですが、いまだにLive Music nowのお世話になった方々には内緒なので、どなたかお知り合いがおられても内密でお願いいたします。ご協力、感謝です)。

私が提示したプログラム案は気に入ってもらえたのですが、案の定フルート自体はやはり技術的にアピールが弱いとのことで、合格できませんでした。
しかしながら、「尺八が手元に来たら、もう一度オーディションしてあげます」というお知らせが。

イギリスは、入試合格発表時に「合格」「不合格」の2択ではなく、「Conditional(条件付き)」というものが発行されることが多く、「今は合格を認められないけれど、ここまで達成できたら合格です」という条件付きの合格をもらうことがあるので、私の場合もそれだったようです。

「尺八吹けます」というのは、嘘だったのですが、とにかく大急ぎで日本から尺八と、DVD付きの教則本を取り寄せ、当時のフラットメイト(音楽は全くかじったことなく、真面目な会社員)等にも音の出し方を見つけてもらい、なんとか宮城道雄の『春の海』の冒頭部だけは演奏できるようにしました。

かなり突貫工事だったため、その後は友人のお父さんが尺八の先生をされていたので、日本に帰るたびに師事することにしました。

そうこうしているうちに、なんとかLive Music Now の合格もいただけ、晴れて演奏者として登録(日本人として初とのことですが、本当かどうかは不明)してもらうことができました。

フルートだけでは技術的に基準に満たなかったものの、尺八の他に篠笛等日本の笛がオーディション突破の鍵となりましたが、それ以外に着物を着て演奏(以前書いた、和食屋さんの配膳バイトのおかげで着付けができます)するということもポイントになった気がします。

とにかく「日本人で得した〜〜〜〜 日本の文化を守ってくださった諸先輩方に感謝!」と、日本での仕事ができないから違う島に逃げてきたのに、日本の恩恵を受けてのスタートとなりました。



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