デンマークの強さの裏側を探る
最近よくフィールドワークで訪れている国デンマーク。
2022年11月、2023年6月、2024年1月と3回訪れました。
デンマーク🇩🇰フィールドワークの学びを文章にまとめておきたいと思います。
デンマークはどんな国?
・16時にみんな帰宅する
・幸福度が高い
・産業競争力ランキングでも1位
など、すごい国だと日本でも紹介されることが増えてきています。
最近、こちらの書籍「デンマーク人はなぜ4時に帰っても成果を出せるのか」が話題になっていますね。
デンマークの何がすごいのかは、様々な方が、様々な視点で語られているので…
このnoteでは、マーケティングを生業とする自分がデンマークに惹かれ、研究する中で、考えた「デンマークの強さの裏側」について書いてみたいと思います。
デンマークは高い戦略性と生産性を追求している国
デンマークは幸福度の高さから優しくゆったり暮らしてしる国というイメージをもたれている方が多いのではないでしょうか。
訪れてみて感じたのは、確かにデンマーク人は、自分たちのリズムを大切に暮らしている印象は受けました。
一方で、ビジネスや働き方の視点ではとても戦略的という印象を受けました。
デンマークの幸福度が高い裏側には、合理的に強い戦略をつくる仕組みがあると思っています。
ポイントはこの2つです。
詳細を書いていきます。
他の国のモノマネをしない、競争をしない→利益率を高める
デンマークを訪れた際に印象に残ったのは
「自分たちはアメリカのモノマネはしない」
という言葉。
こちらはデンマークデザインセンターの元トップを務めていたクリスチャン・ベイソンさんの言葉。
現地で産業戦略を考えている方から話を聞くと、独自の方針を、自分たち(国民全員)が考え抜いて創れることがデンマークの強みだと自信をもって話されました。
こう自信をもって言えるのすごいな…と率直に思いました。
この発言の裏側に何があるのか、整理していきたいと思います。
独自の戦略にこだわるデンマーク
戦略には、2つの選択肢があると言われています。
これは戦略論で有名なポーターの考え方があります。
1. ライバルと同じ活動をより優れて行う
2. ライバルと異なる活動を行う
デンマークは国として2. ライバルと異なる活動を行うを選択して成果を出しています。
具体的な動きを見ていきましょう。
独自のサステナビリティ戦略
デンマークはサステナビリティ先進国として評価が高い国です。
このサステナビリティの取り組みがとてもユニークなのです。
1. 自転車中心の交通インフラ変革
交通インフラを自動車→自転車に切り替えて、CO2排出量を削減する戦略は、デンマーク独自の仕掛けの代表例です。
最初にデンマーク人は自転車が大好きな国民なんだな…平和だな…と漠然と眺めていたのですが、調べていくとサステナビリティ戦略の重点施策として取り組まれていることに気づきました。
人が自転車に乗るように、自動車の購入に高い税金をかけたり、雪かきも自転車専用レーンから…という話を聞いた時は、徹底度合いに驚きました。
首都コペンハーゲンの観光戦略も、この自転車のサステナブルな暮らしを体験してもらいたいから「脱観光宣言」を出しています。
2. 強いクリーンテック産業を育てる
続いて産業視点で見ていきます。
デンマークは、風力発電を中心としたクリーンテック領域が国の注力産業になっています。
デンマークは、風力発電の領域では世界的なシェアを獲得しています。
代表的なメーカーであるベスタスを中心に、サステナビリティ産業のクラスター(集積地帯)を国内につくり競争力を生み出しています。
世界的に市場シェアが高く、利益率も高い産業カテゴリーを育てています。
サステナビリティ関連のデータを確認してみても、経済成長(高いGDP成長率)と高い生活水準を維持しながら、エネルギー消費と炭素排出を短期間で抜本的に改善できていることが示されています。
幸福の大前提は、戦略的に競争優位を確立すること
デンマークは福祉国家であり、だから幸福度が高いと説明された記事を多く見かけます。
福祉国家で格差が少ない社会だから、全体的な幸福度が高いのは事実だと思います。
しかし、福祉国家の側面だけではなく、デンマークが幸福度が高い背景には、戦略的に競争優位を確立していると自分は考えるようになりました。
競争優位を築いているポイントをまとめると、
小さい国だからこその強みを活かして、人・知識を集中して集めて、独自のノウハウを進化させる
です。
デンマークの場合は、サステナビリティというカテゴリー選択が戦略的に行われていることがわかります。
続いて2つ目のデンマークの強さを支えるポイントについてです。
やらないことを決める→付加価値を生む仕事を見極め集中
2つ目のポイントは、やらないことを決める、捨てるといった意思決定の上手さです。
デンマークは、変化をつくる時に、以前やっていたことはバッサバッサと捨てています。
国全体のDX化は典型例です。
デジタルに切り替えるとなったら、中途半端にアナログを残さない。
100%に切り替えにいくために、入念に仕組みが設計されています。
戦略や方針の考え方としては、小さい国だからこそ、
・独自に取り組むことを見極める
・限られた資源を、どこに配分をするかの取捨選択をしている
ことがわかります。
先ほどに紹介した観光コンセプト「脱観光宣言」も、捨てることを明確にして、自分たちの独自性を研ぎ澄ますことに集中するアプローチをとっていると整理できます。
戦略を考えるときに使うPoint of Xの考え方で図解しています。
戦略を考える際は、
1. 攻めの視点:差別化要素
2. 守りの視点:同質化要素
3. 捨ての視点:捨て要素
の3つの視点で考えることが大事という考え方です。
捨てることを決めているから、コペンハーゲン(都市)のど真ん中でこのような風景が生まれていたりします。
でも、デンマーク人って、何で捨てること上手なの?
ここが気になるところだと思います。
教育で、本質を見極める力クリティカルシンキングを徹底的に学ぶ
教育の段階でも重視されているのが「クリティカルシンキング」だと現地を訪れたときに教えてもらいました。
教育の段階からクリティカルシンキングを磨き、
無駄を見極めたり、付加価値を生む仕事を見極める思考習慣が根付いていることが、生産性の高さにつながっているわけですね。
デンマークはワークマンと似ている?
ここまでデンマークの強さを整理していて、どこかと似ているな…と思っていたのですが、「優れた経営をすることで有名なワークマン」でした。
ワークマンは、成長性・収益性ともに非常に高く、作業服の販売からファッションカテゴリーに進出しているイノベーションへの取り組みも注目を集めています。
ワークマンらしくないこと、付加価値を生まないことには取り組まないことを徹底していることで有名です。
ワークマンが無駄だと辞めている、やらないと決めている要素を整理してみます。
・他社と競争しない
・値引きをしない
・デザインを変えない
・顧客管理をしない
・取引先を変えない
・加盟店は、対面販売をしない
・閉店後にレジを締めない
・ノルマもない。
組織の生産性を高めて、関係者の幸福度が高い状態をつくること。
国と企業で前提は違うにしても、デンマークとワークマンの経営体質は非常に似ており、どちらも優れていると考えています。
幸福度を高めるために目指したい組織状態
国も企業も優れた成果を出す組織は「生産性を高めるパターン」は共通していると感じています。
・独自性を追求して、他社と競争をしない→利益率を高める
・捨てることを決める→付加価値が生まれる仕事を見極めて集中する
デンマークから学ぶマーケティング
幸福度は、強い産業や経営の仕組みがあって成り立つのだと思います。
マーケティングに関わる人の役割は、
・付加価値を生む活動に組織が集中できる状態をつくること
・付加価値が生まれた結果、関わる全ての人が幸福になること
だとデンマークからの学びを踏まえて考えています。
日本とデンマークの組織体質を比較してみる
先日にデンマークと日本の組織体質を比較した図をXに投稿しました。
まだまだ、根本的な体質転換を図ることで、組織の生産性を高めたり、市場に対する付加価値を生み出すことはできるのではないでしょうか…
現地の方と話する中で、デンマーク人がコミュニケーションで意識的に行なっていることとして印象に残っているのは、
・階層をつくらない(コミュニケーションに気を使わない)
・空気で判断しない(事実・データで判断をする)
・何となく必要そうNice to haveな仕事はしない(Must Have絶対必要に集中をする)
といった要素です。
これからを組織内のコミュニケーションに取り入れることで、生産性を高めることに繋げられると考えています。
デンマークの組織づくりや考え方をテーマにイベントをやります(3月31日終了)
今回、デンマーク視察の現地コーディネートしてくださった方が来日されるタイミングで「デンマークの強さの裏側を考える」イベントを開催しました。
小さいのに大きな変化をつくれる国デンマークから学ぶ「変われる組織、地域をつくる」ヒント
デンマークをトレースしての学びを共有させてもらいました。
地域や組織を持続的に成長させていくヒントを学ぶツアー「デンマークフィールドワーク」を企画しています。
ご興味ある方はぜひご一緒しましょう🇩🇰
最後にコペンハーゲンのお気に入り写真を置いておきます。
戦略や生産性をテーマに書いてきましたが、コペンハーゲンの静かで豊かな街並みを歩くのが一番好きです。