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アイヌ民族と共に生きた1日

思い出深い『阿寒湖』という場所

 道東生まれ道東育ちの私が好きな場所の1つ、阿寒湖。
「阿寒湖と言えばマリモ」
「マリモと言えば羊羹」
「羊羹と言えばマリモ」(これは言い過ぎ)
てな具合に、泣く子も黙る「マリモ」というパワーワードで言わずと知れた観光地「阿寒湖」。

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▲2019年10月の写真。

 阿寒湖と言えば個人的に行くたびに色んなことを思い出す場所。
あぁ、昔小学生の時研修旅行できたなぁ。なんもわかってなかったなぁ。
あぁ、遊覧船に乗せてもらったっけなぁ。
あぁ、よくわからず養殖マリモのキーホルダー買ったなぁ。
あぁ、今は亡き母ちゃんにニポポ買ってもらったなぁ。
あぁ、札幌方面から帰省する度に寄る場所だったなぁ。
あぁ、一人で夜中から山登ったなぁ。怖かったっけなぁ。
・・・などなど阿寒湖の温泉街を歩くだけで過去の思い出がフラッシュバックし、少し目頭が熱くなる。自分にとってそんな場所。阿寒湖。

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▲2018年の写真


「アイヌ民族」に1日身も心もを寄せてみる

 話を戻して・・・さて先日、そんな阿寒湖をどっぷり満喫する機会をいただいたので、せっかくだからその満喫具合を、個人的想いもベッタリ乗せて自慢したいのであります。

満喫する機会というのがコチラ↓

 私が今暮らしているのは屈斜路湖。普段ガイドや撮影などを中心に活動させていただいています。ちなみに屈斜路湖は阿寒湖と同じ『阿寒摩周国立公園』の中。すぐご近所さんなわけだが、このような動き?取り組み?体験の提案?は全く知らなかった・・・。実は情報というのは不思議と山1つ隔てるだけでそんなもんなのです。(もしくはただの私の情報不足)

 はてさてこれを知った経緯はちょいと端折るが、中身を見てみるとまぁ素敵ではありませんか。何がいいって「人・体験・すべてが本物」であること。地元民の自分が見ても素直に「すげ〜」となった。よくぞ意識も人も束ねてデザインも加えて実行まで進めたなぁと。

ひとまず何をしてきてどう思ったか結論から。

アイヌ民族の地で
オハウをすすり(ヒンナ)
アイヌ文様の意味とアイヌ民族の女性の想いを知り(感動)
ムックリを作り、奏で(一度折った笑)
アイヌ民族の自然観を学び自然に抱かれ(お外大好き)
アイヌ民族と深く繋がることができた(人の繋がり大切)

 上にも書いたが、屈斜路湖でカヌーなどメインにガイドさせていただいている自分としては、きっと一般の人より幾らかばかりアイヌ文化について触れる機会が多かったり、少し勉強もしているわけだが「1日、終日アイヌ文化に心と身体を寄せる」このことが普段なかなかできず、そしていかに貴重な時間であることに改めて気付かされた。たった1日、されど1日。今までにない情報、学び、体験、新たな視点を得ることができた。細かな内容については写真メインで超個人的に勝手に紹介させていただく。


これでもか!アイヌ料理のフルラインナップ

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まず腹ごしらえ。訪れたのはアイヌ料理の店『民芸喫茶ポロンノ』さん。

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見よ。このアイヌ料理のフルコース。詳細はコチラをご覧いただきたい。

 この内容で3,300円。ちょっとお高いか?と一瞬思うが、きっと想像しやすい「アイヌ料理」がほぼ網羅されている。一度で全て味わえることを思ったら決して高くないと思うのが個人的感想。中でも特筆すべきは『ヒメマスのルイベ』(写真左)。口の中でスッととろける・・・。ちなみに説明不要かとは思うが一応、『ルイベ』とは一度冷凍した刺身のことを言う。保存がきくのはもちろん寄生虫なども死滅するというメリットがある北海道、アイヌ民族ならではの食文化だ。ちなみに屈斜路湖でもヒメマス釣ったらルイベにして北の勝(根室の地酒)もしくは福司(釧路の地酒)と一杯やるのは当たり前なのだ。

 それから『ユックオハウ(鹿肉入りの汁物)』(写真右)。行者にんにくも入っているのが嬉しい。味付けは昆布と塩のみ!本当に旨かった・・・。素材の味が引き出されている。素材を、生き物を大切に共存してきたアイヌ文化がこの料理に表現されている・・・。と目を閉じ汁をすするのだ。あぁ。ヒンナ。

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横の席に居合わせたお二人さま。「え!?何ですかそのメニュー?頼みたい・・・」。となっていましたが、実はこのフルコースメニュー、「Anytime,Ainutime!」のオプションメニュー。以降に紹介する体験など含め、各プログラムに参加してこそいただけるメニューなのだ。各体験と合わせて事前予約必須だ。(なのでお隣さまは、ルイベを単品注文可能とのことで追加注文されてました)

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 見た目以上に満腹となった。オカズ過多なので思わず「ご飯おかわり!」と叫びたくなるが、トータルでお腹一杯になるはずなのでフライングおかわりは厳禁だ。帰りには満腹のお腹をポンポンさせながら顔はめフレームでの記念撮影をお忘れなく。


刺繍とアイヌ民族の女性たちの想い

 場所を移してアイヌ文様の刺繍体験。「なぜこんなに凝った刺繍を?」と、いつも疑問だった。そんな疑問も一瞬で解消。「百聞は一見に如かず」だ。西田さんがお話してくれた「刺繍の意味」と「アイヌ民族の女性の想い」に感動した。

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「刺繍はそもそも『線』を用いて、ここから悪いものを入れないと言う意味なの。昔は1本の線やシンプルな模様だけど、だんだんともっと複雑に。ウチの旦那さんにはより複雑な強い線で悪いものから守ってもらいたいな。そんな気持ちからアイウシ(トゲ模様)を用いたんじゃないかなぁ。」と代表的な文様について説明してくれた西田さん

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実際に使用した道具。

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 コレ、実際に体験してわかるが、とても地道で大変な作業。今回はコースターだが、本来ならこれらの文様を衣服全体に刺繍するわけだ・・・。よほど旦那さんや家族に対する愛情が強くないとできないなぁ。てことは昔もひょっとすると「旦那さんに対しての愛の大きさ」で刺繍のクオリティに差があったくらいにして?男どうし模様を見て「お前は愛されてるなぁ・・・ウチなんてこうだぜ」みたいなのあったのかなぁ。そりゃ複雑だ。・・・なんて実際はどうか知らないが、過去に想いを馳せながらひと針ひと針縫った。当たり前だが「見るのとやるのでは大違い」。貴重な時間だった。

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 西田さんが着けていたマタンプシ(額当て)。この刺繍・・・。刺繍が2重だ!実際に体験するからこの大変さと価値がわかるというもの!今の時代忘れかけている「手作り」「手作業」「1点もの」というのはそういうものなんだ。

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見よ。この西田さんの羽織の刺繍を!この刺繍を施すのに一体何日かかるんだ・・・。最後は記念撮影。一緒に体験した、阿寒町でゲストハウスコケコッコーを運営しているデザイナーのちひろちゃんと(ちひろちゃんとも色々話したかったので話せてよかった〜)。刺繍体験の詳細はコチラ

ムックリを作り森へ。自然とアイヌ民族の共存共生とは?

 さて、お次は自分でムックリを作り、湖畔までの森の中を歩き、湖畔でムックリを奏でるという何ともストーリー仕立てな体験を。自作ムックリで湖畔で「ミヨンミヨン(ムックリの音)」できるのか・・・そら、たまらんではないか。

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 制作から森歩きまでガイドしてくれたのはケンゴさん。アイヌ民族である母と、阿寒湖の木彫作家・三代巨匠のひとり瀧口政満氏(あかん遊久の里鶴雅内にある木彫のギャラリーはきっと見たことある人も多いはず)の血をひく男。こんな方がガイドしてくれて、じっくりお話できるだけで、相当貴重な時間である。

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 まずはムックリを作る。作ると言ってもほぼ完成品で、音を鳴らす部分の「最後の一手」を削るのだ。

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 と言ってもコレがまた絶妙な薄さにするのが難しい。

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 試しに何度か音を鳴らす。しっかり薄くしないといい音は鳴らない。が、薄くしすぎると折れてしまう・・・。

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 これを・・・

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 こうやって・・・。「ミヨン(ムックリの音)」。
「おお!!」。どれどれ・・・。

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 てなわけで私・・・破壊。薄くしすぎたようだ(泣)。

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 そこですかさずケンゴさんの温かいフォロー。「この言葉を見てください!天から役割なくこの世におろされたものは何1つないのです。つまりこの折れたムックリにも役割があったのです。音を鳴らすコツをつかませてくれたわけですから。大事にとっておいてくださいね。」

 ・・・なんと温かい言葉!
というわけで急遽新しい完成品のムックリをいただき、いざ森へ。

 さて、ここからの森歩き。はっきり言いますが、とてもたくさんのアイヌ文化のお話をしていただけます。本当に深く面白い。屈斜路湖でガイドしている私、本当に勉強になりました。森の中を歩いてこそわかるアイヌ民族の自然との暮らし。感動しました。書ききれませんのでざっくり匂わす感じとしてお楽しみください。やはり実際に体験しなくちゃこの興奮は伝わりません。

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 おおお!テンションの上がる杖(アイヌ語で「クワ」)!(ただの演出ではなく意味があります)

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 キムンカムイ(ヒグマ)とイオマンテ(熊の霊送り)の話・・深く、考えらさる。

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 森へ入る前へカムイ(神)へ祈りを捧げる儀式「カムイノミ」。

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 実際に作法も教えてもらえます。貴重・・・。
森へ入ると、ケンゴさんが「木」「植物」そしてそれらに密接に関わる「アイヌ民族の暮らし」について詳しくガイドしてくれます。

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アイヌの人たちは木と共に暮らしていました。
時には繊維にして衣服に。
時には魔除けに、神具に。そして狩猟の道具に。

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 時には夜の灯に。(写真の白樺。樹皮がよく燃えることはご存知でしょうか?自然の着火剤です)
木の特徴によってその役割を使い分けていたのです。
まさに自然と共存共生する民族。尊い。

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 これは良くお正月の時、お雑煮なんかにのせる「三つ葉」。その辺に生えていること、知ってました?食べられる野草。ケンゴさんが教えてくれますよ。この学びはデカい。

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 男性は皆身につけていた「マキリ(小刀)」をそっと見せてくれた。刺繍と同じように文様が彫られている。もうおわかりだろうが「魔除け」の意味だ。他にも人によっては「熊の爪」「鹿の角」などをマキリに付けて神聖な道具として大切に扱っていたそうだ。女性は縫い物の針を・・・男性はマキリ(小刀を)・・・。

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 阿寒湖が見えるところまで歩き・・・

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 出してくれたのは笹のお茶。「香ばしい!」。
その辺に生えている「笹」。煎って煮出すと美味しいの、知ってました?

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 これがヒグマの爪だ。こんなのでやられたらひとたまりもない。

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 異次元ポケットならぬアイヌポケットのケンゴさんの鞄。持っている道具について色々聞いてみよう。全部説明してくれる。

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 「このゴミはあえてここに置きっぱなしにしているんです。」とケンゴさん。ゴミ1つから見える視点や考える話もあるのだ。

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 ちなみにコチラもケンゴさんの父、政満氏の作品。・・・こうして地元の作家が地元で使う作品を創るということ。そして今の世代が当たり前にそれらに触れることができるということ・・・なんて素敵なんだろう。

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景色の良いところにやってきて・・・

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なんと首飾りのプレゼント!嬉しい・・・。

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もちろんケンゴさんとも記念撮影。見よ。このドヤ顔を。

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体験内容の詳細はコチラ


体験に浸りつつ阿寒湖アイヌコタンを練り歩く。

体験後は阿寒湖アイヌコタン散策をお忘れなく。

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今回はケンゴさんにガイドをしていただいたので、そのまままっすぐケンゴさんのお店「イチンゲの店」へ。

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 さっきプレゼントしてくれた首飾りに名前を彫ってくれた。嬉しい!

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 オプションではないし、ケンゴさんがお店にいなければきっとできないことなのでタイミングが重要だが、ガイド中そっと聞いてみてはいかがだろうか。

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 「イチンゲの店」の店内は面白い。あれやこれやとブラ下がっているのだが、単なる装飾ではなく、その全てがケンゴさんの思い出の品々。どんなストーリーがあるか是非直接聞いてみてほしい。そのあと晩御飯を食べ、夜はロストカムイを鑑賞。この旅、「アイヌ民族との1日」を締めくくった。

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まとめ

 あまりに濃密な体験で、つい長くなってしまったが、総じて思ったのは「アイヌ文化に深く関わりのある本物のガイドとの会話」がとても貴重で尊いということ。知りあいづてだったり、地元でもなかなかたどり着けない情報に、とても触れやすい形でプログラミング化、デザイン化されている。そう感じた。これはとてもありがたいこと。

 北海道にいる一体どれくらいの人が「アイヌ文化」について知っているのだろうか、そして興味や関心があるのだろうか。生まれも育ちも北海道の私は、アイヌ文化について触れる度にいつも「ハッ」とする。道外や国外からの観光客はもちろんだが、こんな時代(コロナなど)だからこそ近場を掘り下げるいい機会として、地元の人もまず体験してみてはいかがだろうか。きっと特別な1日、北海道そして阿寒湖がより好きになる1日になるに違いない。そしてアイヌ民族のように自然を知り、自然で学び、自然を想い、自然に優しくなれる人が溢れることを願う。せっかく縁あって北海道に生まれたんだ。先人「アイヌ民族」から多くのことを学びたい。

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