「小津安二郎大全」

日本の文化の特色の一つである“無常”ということに強く惹かれた俺だが、邦画では、やっぱり黒澤明よりも小津安二郎が好きだな。

クロサワさんが、主にアメリカで評価が高いのに対して、小津安は圧倒的にヨーロッパというのも、2人の特徴が出てて頷ける。

この大全は、いわゆる“小津組”に参加した俳優やスタッフ、小津安を評価する内外の映画監督や作家、評論家等の寄稿、各種資料・論考で構成されたもので、読み応えがあった。

小津安二郎作品は、我々の日常にとても近くて、ただ納得がいって面白いというだけでなく、そこに必ずや人間の“業”が見えており、言葉で言い表せない、とてつもない感動が、ジワジワと後からでも押し寄せて来ることになるから夢中になれるのだ。

人間が生きる、そして死ぬという絶対的な営みが、シッカリと誤魔化すことなく描かれている。

小津安は、常識的でホントに普通なんだけど、美しいものが美しい、純粋に美しいものがいい、という目をシッカリと持ってる人なのだ。

特徴的なローアングル(畳ショットといわれる)や間・余白を多用する静かな、川のせせらぎのような流れのある展開、カラーでは赤をアクセントにした小物や本格的な絵画などを使った色遣い…、このような映画職人と呼べる、一貫した各種技巧を凝らした映像で、人間の営みが表現されている。

一応、現在、DVDソフトで出てる作品は全て鑑賞済みだが、多分、観る度に何かの発見があると確信している。そして、また、その良さを言葉や文にできずにもどかしい思いをすると思う。映像表現も究極までいくと言葉が追い付かないものだ。

それは、変わらないスタイルで、変わらないテーマを追求して、変わらない表現方法にこだわったからこそでもある。

初期のフィルムが戦災で焼失してるのはつくづく残念だ。まだ未完成の小津安作品も観たかった。

小津自身は、2度徴兵されており、中国戦線にいて軍曹で除隊してる。敗戦までは軍報道部の映画班の一員としてシンガポールにいた。しかし、映画に兵隊が登場することはない。セリフで「戦時は一番嫌だった。物はないし、つまらん奴が威張ってるし」と吐き捨てるように話すシーンはあるけど。

クロサワさんが、周りに、ものすごく厳しい人だったのに対し、小津安は、何回も同じシーンを演じさせたりはするけど、総じて優しくて寛容だったというのも頷ける。

1903(明治36)年に東京で誕生、1963(昭和38)年、満60歳の誕生日12月12日に喉頭癌にて死去。墓石には“無”の一字が刻まれているという。

「何でもないことは流行に従う、重大なことは道徳に従う、芸術のことは自分に従う。」

「豆腐屋は豆腐しか作れない」


脳出血により右片麻痺の二級身体障害者となりました。なんでも書きます。よろしくお願いします。