2023年7月28日~8月30日 ここひと月のこと

・近況
 体調はなんとか安定してきた。あとは睡眠をどうにかすればいいかな。本は最近なかなか読めていない。読んでも再読が多い。同人誌に向けての再読も多いけど、どれ以外の読書でも再読が多め。もっと自分にとって新しい作品に出会いたい気持ちはある。
 コーマック・マッカーシーの未訳の遺作を購入する。早川書房が版権を買ったのは知っているけれど、装丁の素敵さと待ち切れなさで我慢が出来なくなる。
 ここのところ、買う小説の内容はクラシック・ミステリが多くなっていることに気づく。国書刊行会の世界探偵小説全集だったり、密室系の海外ミステリアンソロジーだったり、ポケミスのクラシック・ミステリだったり。

・再読(一部)
 P・D・ジェイムズ『女には向かない職業』を再読。タイトルもいいけれど、内容も素敵。とても読みやすいとはいえない、描写が細かすぎたり翻訳がその時代の標準であるけれど、そのぶん現代ではとっつきにくかったりする小説だけど、読んで損はないと思う(翻訳の小泉喜美子はミステリ作家で、いろんな海外ミステリ作品の翻訳を手掛けたプロだけれど)。
 主人公のコーデリア・グレイって、この作品と『皮膚の下の頭蓋骨』しか登場しないのに、これだけオマージュやパロディされているってことは、それだけキャラクターが魅力的で印象的ということなのかなぁ。ちなみに『名探偵コナン』の灰原哀や『ミルキィホームズ』のコーデリア・グラウカはここからですね(灰原哀はV・I・ウォーショースキーも入っているけれど)。
 コーデリアの高潔で純朴、そして意志の強いキャラクター造形は素晴らしい。だけど、再読してみて「やはりこれはアダム・ダルグリッシュもののスピンオフだな」という思いは強くなった。

 ジェイムズ・エルロイ『わが母なる暗黒』を再読。改めて、エルロイの文体のすさまじさを思う。自分や自分の母親について書いているのに、ここまで冷徹で冷静な視線で文章をつづるのはとても難しいのでは? 馳星周も言ってたけど、副詞や形容詞を削るのは、心情描写(内面描写)を減らす有効な手段なのだけれど、ここまで徹底されたら何も言えない。しかも、その文体によって、本当にところどころにエルロイがどう思っていたかが挟まれる部分が効果を増している。それぞれの章の最初にあるポエティックな文章も、この本の中では異色であり胸をうつものになっている。
 ロベルト・ボラーニョはこの自伝的作品を大絶賛したみたいだけど、それも頷けるなぁ。ノンフィクション的な私小説というか、私小説的なノンフィクションというか。

 桜庭一樹『小説という毒を浴びる』を再読。良いエッセイ集だと思う。桜庭一樹作品の読者層の人が、読書の幅を広げたいと思ったときにとても参考になると思う。読書日記はほぼ読んだけど、やはり桜庭一樹の読書エッセイは肩の力が抜けていて、かつ要点を突いているので読んでいて心地よい。
 あといろんなところで感想を見て思ったのが、エッセイとは関係のないところなのだけれど、「海外小説に興味はないが」「苦手」「普段は手に取らない」などというものがかなり目についたこと(エッセイでは多数の海外小説に触れているので)。別に趣味だし好きなものを読めばいいと思うけど、ここまで「自分はマニアックでマイノリティーな読書傾向の人と思われる可能性があるのか……?」と自省するとは思わなかった。感覚がわかっていないので反省してしまった。
 自分が、作品それ自体が好きなのではなく、「マニアックな評価軸でマニアックな作品を読むのが好きな自分」に耽溺した、「作品を読めた気になっている自分」も大好きな存在になるべくならないように心がけたいですね。


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