樹智花

他のSNSでは「たまさか」(まっつー)です。 推理小説同好会(KSD)/SF研OB。 …

樹智花

他のSNSでは「たまさか」(まっつー)です。 推理小説同好会(KSD)/SF研OB。 翻訳ミステリと海外文芸をよく読みます。

最近の記事

【第四回】海外ミステリ情報通信~「ハードボイルド」と「ノワール」と

 日本版Wikipediaの「ハードボイルド」の項目に目を通された方もおられるでしょうが、そこでは「ハードボイルド」を「暴力的・反道徳的な内容を、批判を加えず、客観的で簡潔な描写で記述する手法・文体」が使われた文学として定めています。  では、英語版Wikipediaではどう定められているかというと、以下の通りで 要するに、「ハードボイルド」とは「ある種の登場人物が出てくるものや犯罪小説(特に私立探偵小説やノワール)」であり、その「ある種類の登場人物」とは すなわち「(

    • 【第三回】海外ミステリ情報通信~ジャン=パトリック・マンシェットについていくつかのことを

      ・はじめに    今回はフランスのロマン・ノワールの作家、ジャン・=パトリック・マンシェット(Jean-Patrick Manchette)について取り上げたいと思います。  「ロマン・ノワール」とは一般的に「暗黒小説」「ノワール小説」と日本では呼ばれますが、実はミステリにおけるひとつのサブジャンルでもあります。  また、ご存知の方もおられるかと思いますが、ジャン=パトリック・マンシェットはそのロマン・ノワールの作家のなかでも「ネオ・ポラールの法王」との呼び名もあるミ

      • 【第二回】海外ミステリ情報通信~CWA賞(英国推理作家協会賞、ダガー賞)の新しい部門

        ・長い前置き  今回はCWA賞(英国推理作家協会賞)に新たに設立された部門について書きたいと思います。  まずCWAの軽い説明から入ると、「CWA」とは"The Crime Writers' Association"の略称です。日本では「英国推理作家協会」と呼ばれています。  イギリスでは、ジャンルとしての「ミステリ」を指す言葉として、"crime"や"crime fiction"などを使うのが通例のようです("mystery"も使うようですが)。用例のすべてを「犯罪小説

        • 【第一回】海外ミステリ情報通信~ジェイムズ・エルロイによる桐野夏生『OUT』評

          ・はじめに  これから、海外ミステリに関する情報を月に一度程度の頻度で、私の興味がおもむくままに発信していこうと考えています。  第一回の内容としては、以下の記事の内容に合わせて、ジェイムズ・エルロイが桐野夏生さんの『OUT』という作品に寄せた序文について書いていきたいと思います。 ・桐野夏生さんの『OUT』とエルロイの評価  桐野夏生さんの『OUT』は、少なくともアメリカではもっとも有名な日本産の犯罪小説といってもよいでしょう。ご存知の方も多いでしょうが、一九九八年に

        【第四回】海外ミステリ情報通信~「ハードボイルド」と「ノワール」と

        • 【第三回】海外ミステリ情報通信~ジャン=パトリック・マンシェットについていくつかのことを

        • 【第二回】海外ミステリ情報通信~CWA賞(英国推理作家協会賞、ダガー賞)の新しい部門

        • 【第一回】海外ミステリ情報通信~ジェイムズ・エルロイによる桐野夏生『OUT』評

          ジェイムズ・エルロイによるハメット、チャンドラー、ロス・マクドナルドの簡潔な評価

          ・はじめに  アメリカで出版されている、「ブラック・リザード叢書」という犯罪小説専門の叢書があります。ジム・トンプスンやデイヴィッド・グーディスらの再評価に貢献した叢書としても知られていますが、2022年には、厳選された7冊の作品の記念バージョンを発刊しました。  その7冊とは、ダシール・ハメット『マルタの鷹』、レイモンド・チャンドラー『大いなる眠り』、ロス・マクドナルド『さむけ』、ジェイムズ・M・ケイン『郵便配達は二度ベルを鳴らす』、チェスター・ハイムズ『イマベルへの

          ジェイムズ・エルロイによるハメット、チャンドラー、ロス・マクドナルドの簡潔な評価

          対偶を取ることはなぜ元の命題と同じなのかの軽い雑記

          「対偶を取る」とは、「$${A}$$ならば$${B}$$」を「$${B}$$でないならば$${A}$$でない」と言い換えることで、これは数学的に同じことを言っています。 これを別の言い方をすれば、「$${{A}\Longrightarrow{B}}$$と$${\neg{B}\Longrightarrow\neg{A}}$$は論理的に同値である」と書き換えられます。 ではなぜそう言えるのでしょうか? ここで「真理表」というものを使って考えてみたいと思います。 命題が真のとき$

          対偶を取ることはなぜ元の命題と同じなのかの軽い雑記

          最近解いた数学の問題

          そもそも、$${\zeta(2)=\dfrac{{\pi}^{2}}{6}}$$であり、$${{\pi}^{2}}$$は$${12}$$より小さいので、与式の$${n}$$を無限大にしても$${2}$$より小さくなります。 ここで、$${1^{2}+\dfrac{1}{1*2}+\dfrac{1}{2*3}+\dfrac{1}{3*4}+\dots+\dfrac{1}{(n-1)*n)}}$$を考えます。この式を①とします。 (与式)$${<}$$①ですが、①は$${1+(

          最近解いた数学の問題

          最近解いた数学の問題~logの問題~

          1)は基本問題ですね。 $${\log_{10}{5}=\log_{10}{\dfrac{10}{2}}}$$ですので、 $${\log_{10}{\dfrac{10}{2}}=1-\log_{10}{2}}$$、すなわち$${\log_{10}{5}=1-\log_{10}{2}}$$です。 1)の式の両辺を、底を$${10}$$で取ると、 $${m\log_{10}{5}>19}$$ すなわち、$${m(1-\log_{10}{2})>19}$$です。 計算すると、$${

          最近解いた数学の問題~logの問題~

          最近解いた数学の問題~SNSで見かけたもの~

          $${3}$$以上の小さめの自然数を$${n}$$に代入してみれば当然成立しますし、そもそもパッと見て、「自明じゃないか」と思ってしまいそうです。 ここで思い出したいのは、$${a}$$、$${b}$$を実数とし、$${a<{b}}$$であるとき、$${c>0}$$を満たす実数$${c}$$を用いると$${\dfrac{a}{c}<\dfrac{b}{c}}$$が成り立つ、ということです。 ここで$${n}$$は$${3}$$以上の自然数ですので、$${n^{2}+1}$

          最近解いた数学の問題~SNSで見かけたもの~

          気になって調べたこと、その2~MWA賞(アメリカ探偵クラブ作家賞、エドガー賞)の規定~

          ・はじめに    引用した記事の姉妹編として、世界を代表するもうひとつのミステリの賞であるMWA賞(アメリカ探偵クラブ作家賞、エドガー賞)の選考規定も気になりました。  「MWA」は"Mystery Writers of America"の略です。日本では通例として「アメリカ探偵作家クラブ」と呼ばれています。  ちなみに、余談ですが「PWA」、「アメリカ私立探偵作家クラブ」という団体も存在しています。日本で言うところのハードボイルド小説の作家による団体です。「PWA」は、"

          気になって調べたこと、その2~MWA賞(アメリカ探偵クラブ作家賞、エドガー賞)の規定~

          気になって調べたこと~CWA賞(英国推理作家協会賞)の規定~

          ・はじめに    伊坂幸太郎さんの『AX』がCWA賞(英国推理作家協会賞、ダガー賞)のイアン・フレミング・スティール・ダガー賞のショートリスト(最終選考)に残りましたが、ここで私はCWA賞の規定が気になりました。  CWA賞に数ある部門の中で、それらにどのような選考基準があるのか、についてです。  ちなみに、「CWA」とは"The Crime Writers' Association"の略です。イギリスではジャンルとしての「ミステリ」のことを"crime fiction"や"

          気になって調べたこと~CWA賞(英国推理作家協会賞)の規定~

          最近解いた整数の問題

          整数の基礎的な問題ですね。 ちょっとうろ覚えですので条件が抜けているかもしれませんが、ご容赦ください。 $${\dfrac{n}{n-p}}$$を眺めていると、分子が$${p}$$になれば素数という条件より解きやすくなりそうです。 なので、ちょっと与式を変形してみます。 $${\dfrac{n}{n-p}=\dfrac{(n-p)+p}{n-p}}$$ よって(与式)$${=1+\dfrac{p}{n-p}}$$ 分子に$${p}$$が作れましたので、後は簡単です。 $${p

          最近解いた整数の問題

          簡単な幾何の問題

          (図形が汚いことはご容赦ください) 四角形$${ABCD}$$と$${BEFC}$$は平行四辺形より $${AD=BC,BC=EF}$$より$${AD=EF}$$です。 ここで、$${AE=DF}$$が示せれば、対辺がそれぞれ等しく題意が示せます。 なので、$${\triangle{ABE}}$$と$${\triangle{DCF}}$$が合同であることを示しましょう。 四角形$${ABCD}$$は平行四辺形より$${AB=DC}$$……② 同様に、$${BE=CF}$$……

          簡単な幾何の問題

          2023年12月 雑記

          今年からはじめたこと ・洋書を集める、読むようになった ・評論的なエッセイを積極的に書くようになった ・エッセイを書くときは資料に当たる、という当たり前のことをするようになった ・恋活(婚活)を始めた ・考えていることを紙のノートに書きだすようになった ・自己肯定感が上がるかと思い、その日に出来たこと、出来なかったことを書き出すようになった 今年変わったこと ・B型を辞めて就労移行支援にまた通い始めた(お仕事が決まった上で) ・ボランティアで中高生に勉強を教えるようになった

          2023年12月 雑記

          ロベルト・ボラーニョと海外ミステリ

          ・はじめに  先日、ロベルト・ボラーニョの本や執筆に関するエッセイ集"Between Parentheses Esseys, Articles and Speeches"を購入し読んでいたところ、ボラーニョが意外とミステリを読んでいて、なおかつ評価していたので、ひとまず記事にまとめようと思いました。  ボラーニョを通じて「文学」と「ミステリ」、「ストレート・ノベル」と「ジャンル・フィクション」(対立事項ではないですがあえてこのような書き方をします)が邂逅していて面白く、

          ロベルト・ボラーニョと海外ミステリ

          ウィリアム・トレヴァー個人的短篇傑作選

          ・はじめに  ウィリアム・トレヴァーといえば、チェーホフと比べられるほどの短篇小説の名手です。  トレヴァーの作品には、読む価値がないものはひとつもない、といっても過言ではないでしょうが、個人的に好きな作品を列挙していきたいと思います。 ・作品 ・「パラダイスラウンジ」  なんといっても対比構造が綺麗です。ここまでエモーショナルで宝石のような対比構造と、それを破綻なく完璧に書き上げてしまうトレヴァーの手腕には驚かざるを得ませんし、読み終わったあとに訪れる深い余韻が素晴ら

          ウィリアム・トレヴァー個人的短篇傑作選