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梅壺物語

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梅田桃子さんとの撮影時に生まれた物語がふくらみ、時代を越えてひとつの壺を受け継いでいった女性たちの、一連の物語となりました。 章立ては以下のようになっています。 0. 『梅壺…
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2022年4月の記事一覧

『梅壺物語』「梅の段」(あらすじ)

『梅壺物語』「梅の段」(あらすじ)

 東京のある繊維問屋の娘として生まれた梅子は、母親から厳しく躾けられて育った。幼い時から三味線や常磐津を習い、成長するにつれて近所でも評判の美少女と呼ばれるようになった。しかし母親による過剰なまでの束縛に、梅子は窮屈さと生き辛さを覚えていた。
 そうした梅子にとって、家の中で心を許せる相手は叔母であった。叔母は家業の経営の実質的な責任者であり、家長としての厳しい面も持っていたが、梅子に対しては優し

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『梅壺物語』プロローグ

『梅壺物語』プロローグ

 「ユウ、いま片付けてるから、あと三分だけ待って」ドアの向こうから桃が答える声を聞きながら、ユウはアパートの廊下でしばし待ちぼうけすることとなった。駅に着いてからもショートメールを送っているのだが、ユウが桃の部屋に待たずに入れたことはこれまでない。
 ちょうど三分たってから、「ごめんね、いつも待たせて」と言う桃がドアを開けた。キャミソール一枚の格好で、化粧はしていない。そのかすかにそばかすが浮いた

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『梅壺物語』エピローグ

『梅壺物語』エピローグ

 「雨もあがって、よかったね・・・・・・」雲間から差し込む日の光に照らされて、緑の葉が輝く梅の古木を眺めながら桃は言った。その日は朝から雨だったが、この縁側に座って休んでいる間に、雨は上がって空も明るくなってきた。
 庭の梅の木は横に広く枝を伸ばした大樹で、何百年も前からそこにあったような堂々としたたたずまいであった。しかし梅の木の寿命は百年程度とのことなので、この木も最初に植えられたものから何代

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