【スポーツ留学】#2 スポーツ経営学を学ぶ意義を考えてみた
久々の投稿となりましたが、ようやく最初の学期が終わり、時間的にも落ち着いたこともあり、「スポーツ産業で働く上でのスポーツ経営学を学ぶ是非」についてふと感じたことがあったので、ブログに落とし込んでみたいと思います。
日本ではスポーツは身近にあっても、スポーツをビジネスとして体系的に学んだりする機会が余り多くなかったり、スポーツ業界で働くという選択肢が一般的でなかったり、
文化的な背景もありますが、日本の中でスポーツの産業化は道半ばといった様子です。
アメリカでは、それを後押し・補完する役割としてスポーツ経営学という学問が広く存在していますが、
果たして、スポーツに特化した学問は必要なのか?スポーツ業界で働くならば学んだ方が良いのか?等の問いが少なからずあるかと思います。
そこで、アメリカの大学院でスポーツビジネスを学ぶ身として、スポーツ経営学を学ぶ是非について現時点で見えている解釈をお伝えし、
これからスポーツ業界でのキャリアを考えていらっしゃる方の参考に少しでもなれば幸いですし、
今後日本のスポーツ産業を発展させていく文脈中で、スポーツ経営学をどう捉えるべきかの議論のキッカケとなればこの上なく嬉しいというものです。
一学期しか勉強してない上に、スポーツ業界で大して働いたこともない奴がしのごの言ってんじゃねぇという感じではありますが、感じたことを文字化せずにはいられず、大変生意気な内容ではありますが、お付き合い頂けると幸いです(笑)
念の為ではありますが、当ブログの記載内容は、あくまで私の通うプログラムでの経験や私のキャリアを通じた持論ですので、一般論ではない点は予めご承知置き頂けると幸いです。
さて、結論から申し上げると、「スポーツ産業で働く上でスポーツ経営学を学ぶ意義は大いにあると考えるが、必要条件であっても十分条件ではない」というのが私の現時点での考えです。
詳細は追って説明しますが、主に以下三点について説明します。ちなみに、スポーツビジネスとスポーツ経営学が混同するかもしれませんが、前者はスポーツ関連のビジネス全般、後者はそれを体系的に学ぶ学問、を指すものとご理解頂ければと思います。
スポーツ経営学に対する期待事項のBefore / After
スポーツ経営学のPros. Cons.
自分なりに考えるスポーツ経営学のススメ
1. スポーツ経営学に対する期待事項のBefore / After
プログラム入学前に私が抱いていたスポーツ経営学に対する期待事項に対する現時点でのレビューは以下の通りです。詳細コメントも後述してますが、面倒であれば読み飛ばして頂いても結構です。
(A) より深い産業理解が得られる → ○
スポーツビジネスの「ス」の字も知らない自身にとっては、スポーツビジネスの興り、各スポーツが置かれる現状、スポーツの将来等、スポーツビジネスに係る「包括的な」内容を「集中的に」学べる機会は非常に有難いものでした。
これは個々人の意識次第では勉強できる部分かもしれませんが、私のプログラムの場合、一年半〜二年を掛けて中々のボリュームでスポーツビジネスの幅広い分野に触れ、産業理解を構築します。
例えば、スポーツビジネスだとスポンサーシップやマーケティング等が注目されがちですが、スポーツに特化したリーダーシップ(組織判断、多様性への対応等)、法律、スタジアム運営、ファイナンス・会計等、
一般的に余り意識されない部分もプログラムの中でカバーされるため、いずれスポーツビジネスのどの分野で働こうが「知っていると役立つもの」が学ぶことが可能です。
前学期の授業でいえば、スポーツ組織におけるリーダーシップついての課題があり、私は2014年のNBAロサンゼルス・クリッパーズの当時オーナーであったドナルド・スターリングが黒人選手に対する差別的な発言によりNBAから追放措置を受けたケースで、当時NBAコミッショナーに就任直後のアダム・シルバーのリーダーシッププロセスを取り上げました。
当初は正直リーダーシップなど余り興味なかったのですが、授業でなければこのようなケースに対して考えを及ばすことなどなかったでしょうし、将来的に同様のケースに自身が遭遇した際に非常に有用であろうことからも、表面的なノウハウではなく産業の本質的な部分を学べるのは非常に良いと感じました。
(B) 一線級のインサイトにアクセスできる → ◎
講師陣並びにゲストスピーカーを通じ、スポーツビジネスの第一線で活躍する(orしていた)方々の経験やインサイトに触れられるのは非常にメリットであると思います。
私のプログラムや選択した授業の講師陣は実務出身者がほとんどで、彼らの経験に基づく授業やディスカッションは、生徒の視座を大いに高め、必然的に要求水準も同時に高めてくれるものでした。
前学期の講師陣でいえば、ヤンキースの現役財務ディレクターだったり、元スタジアムマネージャー連盟会長で現在もNFLニューヨーク・ジャイアンツのイベントマネジメントのコンサルタントだったり、アメリカの中でも一流のチーム・スタジアムのノウハウに触れることができ、自身のマインドが幾度となく高まりました。
「ヤンキースの投資判断はどのように行っているか?」「メットライフスタジアムでのスポンサーシップのポリシーは?」等の質問が気軽にでき、即座に答えてもらえる環境は、経験値の蓄積としてどれ程有難いことか痛感します。
(C) スポーツビジネスに特化した高度な知識・スキルが身につく → △
プログラムにより違いはあると思いますが、少なくとも私のプログラムでは、高度な知識・スキル面に関しては余り期待できないというのが正直な感想です。
特に私のようにある一定のビジネスバックグラウンドがある者からすると、ビジネスの観点で真新しいものはそこまで多くなく、授業も知識・スキルの習得というよりかは、どちらかというと上述(A)に傾倒していることからも、余り期待できるものではなさそうです。
ただ、スポーツビジネスに全く経験がない者としては、「スポーツに特化した」文脈の知識・スキルに触れられるのは非常に有難く、
例として、ファイナンスの授業において、スター選手を獲得したことによる球団への定量的インパクトを算出の上、投資判断を提言するケーススタディは、普段行うモデリングといってもスポーツに特化したもので、これは実践的で非常に有用な課題でした。
(D) スポーツビジネスにおける実践的な経験が得られる → ○/△
これはプログラム内容及び個人の頑張り次第ですが、いずれかが上手くいけば、かなり実践的な経験が得られると思います。
授業によっては実際のスポーツチームや企業と協業するものもありますし(私のプログラムではブンデスリーガのバイエルン・ミュンヘンと共同研究する授業もあります)、インターンシップを単位として認めているものもあります。
プログラム側も教養と実践のバランスを重視しているため、生徒に対しても積極的に外へ出ていくことを推奨されます。私の場合も、アメリカの学生スポーツシステムを実践的に学びたい、大学のスポーツ局でインターンシップしたい、という希望を入試時から伝えていたこともあり、プログラム側からサポートをしてもらい、前学期の序盤から勤務させて頂いています。
正直仕事自体は下っ端中の下っ端で地味ですが、当初の狙いの通り授業では見えない現場のリアルが見え、ビジネスの解像度がグッと増すこともあり、教養⇄実践のサイクルでより学びが深まっている実感はあります。
(E) 産業内でのネットワークが構築できる → ◎
ネットワーキングはこのプログラムの恩恵を大いに受けており、この点はプログラムに入学し特にメリットとして感じる部分でした。
もちろんネットワーキングには学生側の能動的な姿勢が不可欠ではありますが、プログラムや教授陣は学生とスポーツ業界の橋渡しに非常に協力的で、学生が興味のある分野や特定の人物と繋げてくれる機会が多く、学生が学外の第一線のスポーツビジネス人材に触れることを強く推奨しています。
プログラムでは学ぶことのできないインサイトを得られることに加え、得られたネットワークが今後の仕事の選択肢にもなり得る等、プログラムの効果を大いにブーストさせる役割があります。
私も以前から気になっていたスタートアップのFounderと何とか繋がれないかとダメもとで教授に聞いたところ、「知り合いだから繋ぐよ」と、授業のゲストスピーカーに呼んでくれたり、その後個人的に紹介してくれたりと、私のような留学生でもどんどん広がって来ています。
アメリカといえども、スポーツ業界は狭いので、ネットワークは築いたもの勝ち、繋がりたければ言ったもの勝ち的な雰囲気なので、プロアクティブに動いた分だけリターンとして返ってくるといった感じです。
(F) スポーツビジネス人材としての市場価値を高められる → ?
これはまだ就職活動をしていないこともあり、全く持って未知の世界であるためレビューは「?」としています。ただ、これは3.の自分なりに考えるスポーツ経営学のススメ に絡むので、そちらで少し触れたいと思います。
2. スポーツ経営学のPros. Cons.
1. を踏まえると、スポーツ経営学のPros. Cons.は以下の通りと考えます。
Pros.は上述1.で挙げたものが中心になりますが、やはりよりスポーツビジネスに踏み込んでいく方には多くのメリットをもたらす学位であると思います。
一方Cons.では、スポーツ経営学は日本のようにスポーツ市場が小さい国において他の学位と比較してマイナーな存在で、学位自体の価値が理解されにくいということもあります。
また、ビジネス軸で見るとスポーツ経営学はスポーツに分野を特定しているだけで、分野的にMBAとさほど変わらないことを学ぶこともあり(プログラムによってはビジネススクール内にスポーツ経営学のコースがあります)、学位の汎用性がなく、私のようにスポーツ産業へ進路を定めていない方にとっては選択肢になりにくくなります。
Cons.は「伸びしろ」でもあるのですが、やはりスポーツという特定の産業に特化してしまっている以上、潰しが効かず「そこまでスポーツに突っ込んでしまって良いのだろうか?」という迷いを生んでしまうのも事実かと思います。
鶏と卵ではありますが、学位を持った人材がもっと活躍し、スポーツ市場を押し上げなければ、いつまで経ってもマイナーな学位であり続けてしまうのではないかと思っています。
3. 自分なりに考えるスポーツ経営学のススメ
入学前のスポーツ経営学への期待事項を振り返り、Pros. Cons.を比較しましたが、これらを踏まえ、自身が考えるスポーツ経営学を学ぶ意義について述べたいと思います。
端的にいえば、スポーツ経営学を学ぶことは「スポーツビジネスにおける基準の引き上げと勘所の獲得によるファンダメンタルの強化」であり、スポーツビジネスの重要な部分を担うものと考えています。
スポーツビジネスには実に幅広いファンクションがあり、それぞれ求められるスキル要件は異なります。マーケティング、メディア、マーチャンダイズ、ファイナンス、法律…
本当に多種多様ですが、どれも独立・完結している訳ではなく、スポーツというものを通じて各分野が密接に絡み合っています。
スポーツ経営学の定義を少し前の論文から引用すると以下の通りで、
スポーツ経営学を学び、スポーツビジネス全てのファンクションの根底をなす「ファンダメンタル」を強化することで、どの分野で働こうとも高い視座と見識を持てるということになります。
つまり、先進例に触れることで要求水準がトップ水準にセットされ、スポーツビジネス全般の理解があることで勘所が育まれる…スポーツ経営学を学ぶことは、上図最下部のスポーツビジネスの根幹をなすManagement部分の強化であり、
以下の二軸のように、縦(基準)と横(カバー範囲)の強化により面積を最大化するものであると考えます。更に言えば、ネットワークの構築により面積の広がりの速さを加速化させるのではないかと思います。
現時点で様々なバックグラウンドをお持ちの方が既にスポーツ産業でご活躍されていますが、 縦に施策を打ち出すレベルの高さと、横への広い勘所を兼ね備えたスポーツ特化型人材「も」必要ということであり、
先述Cons.の「スポーツ経営学は日本のようにスポーツ市場が小さい国において学位自体の価値が理解されにくく、潰しが効かない」は、裏を返せば「スポーツに特化できるからこそ市場をスケールさせる側になれる」ことでもあるため、
今後スポーツビジネスに足を踏み入れ、産業をリードしていきたいと考える方にとっては、アドバンテージをもたらす学位ではないかと思います。
尚、先述のスポーツ経営学の学位を持つと、スポーツビジネス人材として市場価値があるのか?というレビューに対しては、上記考察と私の市場理解度を踏まえると、本音ベース「あって然るべき」、現実ベース「あるはず」、悲観ベース「ないと困る」という感じかなと思っています(笑)
さいごに
上記で述べたスポーツ経営学を学ぶことを再整理すると、
学位の適用範囲はほぼスポーツに限定される
スポーツ内であれば、どの分野でも活用可能な基礎能力を具備できる
スポーツビジネス内の特定分野を学ぶものではないため専門性に乏しい
ということになり、最初に申し上げた通り「スポーツ産業で働く上でスポーツ経営学を学ぶ意義は大いにあると考えるが、必要条件であっても十分条件ではない」という結論に至りました。
ん?これではまるでスポーツ経営学は余り重要ではないみたいではないか?と問われれば、自分で言うのはなんですが、残念ながら「現状はそうかもしれない」と答えざるを得ません。
というのも、Pros. / Cons.でも少し触れましたが、スポーツ経営学の重要性はその国のスポーツ市場規模次第で位置づけが異なるため、日本だけの話をすれば、重要性が認識され始めるのはこれからの話だと思っています。
日本のスポーツ市場規模を余りご存知でない方向けですが、2016年のデータ且つ頻出のチャートで恐縮ですが、下図チャートを見ると日本の世界の中での位置づけが見て取れますし(NFLはコロナ前の2019年時点での売上高は$15Bでした)、
これも頻出ですが、1996年から20年間の英国プレミアムリーグとJリーグの市場規模推移を見ても、いかに日本という市場がスケールしていないかがお分かり頂けると思います。
また、欧米のようにスポーツ市場が成熟した国でさえも、アメリカのトップビジネススクールの卒業後の平均年収USD170,150(U.S. News & World Report 2022)と比較しても、
スポーツ経営学プログラムの卒業後の平均年収USD 84,593(SportBusiness Postgraduate Rankings 2021)は半分以下で、(市場規模やデータ抽出範囲等を考慮する必要はあるも)給与面でスポーツ経営学が見劣りしており、これが日本であれば尚更だと想像がつきます(データがないため推測です)。
上記に鑑み、私の煮え切らない結論の根本的な要因は「日本のスポーツは労働市場において魅力的な産業といえるのか?」という問いに収斂します。
近年日本のプロリーグ(NPB、Jリーグ、Bリーグ)は、IT企業等の資本参入により従来のスポーツ産業外からのヒトが流れてきており、潮目が変わりつつある中にありますが、
今の日本では、優秀な人材を集められる待遇を出せるほどの事業規模になく、彼らの選択肢に中々入りません(例えば、大学生の就職人気ランキングに入るようなものでもない)。これはつまり、わざわざスポーツ経営学の学位まで取って働くべき産業なのか?ということにも繋がっているということです。
大きな市場にはカネ・ヒトが集まり、また成長して…のサイクルとなるのは自然であり、小さな市場が口を開けていても何も変わらないのは自明のことです。
ビジネスとして存在する以上、カネは必要になり、カネがなければ投資が生まれず、投資が生まれなければ成長もありません。
日本と欧米のスポーツに対する価値観は異なれど、日本は元来スポーツを大切にし、世界有数の成功を収めてきた国であり、且つ「まだ」経済大国でもあるので、スポーツビジネスにおいても他国に遅れを取って良い訳がないと思いますが、やはり市場が小さいとヒトが集まらないのは致し方ありません。
やはり、魅力的な産業となるためには、更なる市場成長がマストで、カネを呼び込む仕組みを作る必要がありますが、その仕組みを作るためには少なくともヒトが必要です。
そのためにも、アプローチは様々ありますが、少なくとも産業に特化した横断的な見識と従来のスタンダードを書き換える高い視座を持った人材がもっと必要であると思い、
スポーツにおいては、スポーツビジネスに精通したバックグラウンドを持った人材が一人でも増えることが、日本のスポーツ産業の将来を左右するといっても過言ではないのではないでしょうか。
かなりこじつけていますが、今後はスポーツの産業を推し進める人材がより一層育成・排出され続けなければ、産業としての成長は限定的となると思います。だからこそ、この文脈において、産業の根本的な部分を学ぶことが可能であるスポーツ経営学がその一端を担えるのではないかと考えるものです。
上述結論にて「スポーツ産業で働く上で、スポーツ経営学を学ぶ意義は必要条件であるが十分条件ではない」と申しました。結論は変わりませんが、十分条件でなくとも今後の日本のスポーツ産業を考えると重要性は極めて高い、という点は結論に加えたいと思います。
アメリカのスポーツの事業規模が凄い!といっても、スポーツチーム時価総額ランキング世界1位のNFLダラス・カウボーイズでも時価総額は約6千億円であり、これは大体自動車メーカーのマツダくらいの事業規模で、日本のスポーツが箸にも棒にもかからないという訳では全くないです。
市場を創っていく側はどうしてもハードシップが高くなってしまいますが、一人でも多くの方がスポーツ産業に関心を向け、丸腰ではなくスポーツビジネスを学ぶようなキッカケが少しでも増えれば良いな、と切に願いますし、そういった仲間を増やせていけたらなと考えています。
駄文・長文且つ生意気なブログでしたが、ここまでお読み頂き有難うございました。
あれこれ書きましたが、酸いも甘いも知らない若造が言いたいこと言ってるなという感じで、優しく見守って頂けると幸いです(笑)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?