教会の敷地に設けられた簡易宿泊施設のベッドに腰掛けていたシスター・オノケリスは、 「ふぅ……初っぱなの情報収集としては、こんなトコか……」 と、独り言をつぶや…
脚本チェックに対する演劇部メンバー全員の期待がということもあり、針太朗は、台本のコピーをもらってから帰宅することにした。 今日は、このあとの活動の予定がない…
保健医の幽子から伝えられた言葉に従って、針太朗は、演劇部の部室に向かうことにした。 上級生の奈緒には、小さなぬいぐるみをプレゼントすることで、弓道の射会を観…
週が明けた月曜日の放課後――――――。 針太朗は、週末の報告と今後の対応策の相談のために、またまた保健室を訪れていた。 「なるほど……私の助言がどれだけ効果…
店舗特製のフレンチトーストを奈緒と二人で、あっという間に食べ終えた針太朗は、紙ナプキンで念入りに口元を拭いたあと、自分の舌を満足させてくれたことに感謝を込めて…
下級生のストレートな質問に、東山奈緒は、「ふむ……」と、しばし考え込んだあと、記憶をたどるように、慎重に答える。 「私が、キミを求めるのは――――――そうだな…
リリムの私が、こんなことを言うと……。 針太朗には、彼女が、たしかに、そう言ったように聞こえた。 (会長さんは、ボクが、リリムの女子たちを警戒していることを…
上級生と同級生、二人の女子生徒から、武道場の入り口付近で、観光客風の外国人女性に目を向けていたことを咎められた針太朗は、針のムシロに座る想いで、すでに飲み干し…
針太朗の言葉に、驚くような表情を見せた真中仁美だったが、幸か不幸か、 「女子との会話が得意でない = 異性の感情の変化に対して察しが悪い」 という例から漏れて…
坂瀬川駅前のショッピングセンター・アペアの1階にある喫茶店・珈琲専科ロアロアに入店し、案内された席について注文を行うと、真中仁美は、真っ先に口を開いた。 「針…
放たれた矢は、28メートル先の的の中央付近に、見事に突き刺さった。 「おぉ〜」 針太朗の隣に座る仁美が、競技の妨げにならないように、微かに声をあげて、小さ…
東山奈緒が参加する弓道の立が行われる当日は、天気にも恵まれた。 大会が行われる市内のスポーツセンターは、ひばりヶ丘学院の最寄り駅である花屋敷駅からターミナル…
(弓道の試合を観に行くのに、真中さんに一緒に来てもらったりしたら、会長は嫌がったりしないかな……?) 養護教諭の幽子の提案を受けた針太朗は、そんなことを気にか…
その日の放課後――――――。 針本針太朗は、グッタリとした表情で、保健室の椅子に座っていた。 親しげに名前を呼ぶ隣のクラスの委員長の存在に色めき立ったクラ…
始業5分前のチャイムが鳴ったことで、乾貴志の 「おっと、そろそろ教室に戻らないと、だね」 という一言にうながされ、男子生徒3名の一行は、人気の少ない踊り場をあ…
針太朗の逆質問に、放送メディア研究部に所属し、校内の情報通を自称する貴志が応じた。 「僕らに聞きたいことって、なんだい?」 興味深そうに問い返す、自称・情報…
Tomohito_Asuma
2024年6月29日 15:23
教会の敷地に設けられた簡易宿泊施設のベッドに腰掛けていたシスター・オノケリスは、「ふぅ……初っぱなの情報収集としては、こんなトコか……」と、独り言をつぶやいたあと、まとめられた資料の束を無造作に投げ捨て、身体を寝台に預けた。 散らばった資料には、ひばりヶ丘学院の五名の生徒の年齢や家族構成などの詳細なプロフィールと彼女たちの日常の行動範囲などが記されている。「まったく……教会の連中
2024年6月28日 15:25
脚本チェックに対する演劇部メンバー全員の期待がということもあり、針太朗は、台本のコピーをもらってから帰宅することにした。 今日は、このあとの活動の予定がないという仁美も、彼と行動をともにする。 花屋敷駅に続く学院専用の通学路は、下校時間より少し遅めの時間のためか、生徒の姿はまばらだった。「仲良く帰るんだよ〜!」 という上級生部員たちの言葉を受け流した彼女に、針太朗は、「なんだか
2024年6月27日 16:06
保健医の幽子から伝えられた言葉に従って、針太朗は、演劇部の部室に向かうことにした。 上級生の奈緒には、小さなぬいぐるみをプレゼントすることで、弓道の射会を観覧させてもらったことと喫茶店でごちそうになったことに関するお返しを終えていたが、同じ学年の仁美には、休日に射会の観賞に付き合ってもらったことの返礼ができていない。 それになにより、入学式からこれまで、お世話になりっぱなしだった彼女から
2024年6月26日 16:30
週が明けた月曜日の放課後――――――。 針太朗は、週末の報告と今後の対応策の相談のために、またまた保健室を訪れていた。「なるほど……私の助言がどれだけ効果を発揮したかは別にして、ともかく、無事に帰ってこられたようで、何よりだ」 養護教諭の安心院幽子は、男子生徒からの報告を聞き終え、返答したあと、何かを考えるような仕草で、つぶやくように漏らす。「しかし、気になることがあるな……射会
2024年6月25日 16:07
店舗特製のフレンチトーストを奈緒と二人で、あっという間に食べ終えた針太朗は、紙ナプキンで念入りに口元を拭いたあと、自分の舌を満足させてくれたことに感謝を込めて、「ごちそうさまでした!」と、両手を合わせて丁寧に食後の言葉を述べた。 その様子を眺めていたカフェのオーナーのナミが、穏やかな表情で「お口に合ったかしら?」と、彼にたずねる。「はい、スゴく美味しかったです! こんなに美味しい
2024年6月24日 16:26
下級生のストレートな質問に、東山奈緒は、「ふむ……」と、しばし考え込んだあと、記憶をたどるように、慎重に答える。「私が、キミを求めるのは――――――そうだな、あえて言えば、最初にあった時のニオイに、惹かれたからかな?」「ニオイですか?」 どんなことでも、理路整然とした受け答えをすることが多い彼女としては珍しく、漠然とした返答を意外に感じた針太朗は、釈然としないまま応じ、その様子は、対
2024年6月23日 17:15
リリムの私が、こんなことを言うと……。 針太朗には、彼女が、たしかに、そう言ったように聞こえた。(会長さんは、ボクが、リリムの女子たちを警戒していることを知っているのか――――――?) その唐突な質問に、困惑と警戒心から、つい身体がこわばって身構える針太朗に対して、奈緒は、穏やかな笑みを浮かべて、彼の訝しむ気持ちをなごませようとする。「すまない、針本くん。そう身構えないでくれ……
2024年6月22日 17:49
上級生と同級生、二人の女子生徒から、武道場の入り口付近で、観光客風の外国人女性に目を向けていたことを咎められた針太朗は、針のムシロに座る想いで、すでに飲み干していたコーヒーカップを見つめる。 その視線に気付いた奈緒が、そのカップに目をやりながら、カウンターの向こうに声を掛ける。「済まない! 私としたことが、キミたちがコーヒーを飲み終えていたことに気が付かなかったとは……ナミさん、二人にお
2024年6月21日 16:16
針太朗の言葉に、驚くような表情を見せた真中仁美だったが、幸か不幸か、「女子との会話が得意でない = 異性の感情の変化に対して察しが悪い」という例から漏れていない彼の鈍感力のおかげで、彼女の言動が気にかけられる様子はなかった。 仁美が、そのことに少しホッとしながら会話を続けると、ほどなくして、二人が注文するコーヒーが運ばれてきた。 さらに、コーヒーの味と香りを楽しみながら、お互いのク
2024年6月20日 18:24
坂瀬川駅前のショッピングセンター・アペアの1階にある喫茶店・珈琲専科ロアロアに入店し、案内された席について注文を行うと、真中仁美は、真っ先に口を開いた。「針本くん! あなたは、いま自分の身が危険にさらされている、っていう自覚はあるの?」 喫茶店のテーブルをはさみ、前のめりになりながら問うてくる彼女の迫力に押されながら、針太朗は、「う、うん……」と、うなずく。 彼の曖昧な返答に対
2024年6月19日 18:00
放たれた矢は、28メートル先の的の中央付近に、見事に突き刺さった。 「おぉ〜」 針太朗の隣に座る仁美が、競技の妨げにならないように、微かに声をあげて、小さく拍手をする。 彼自身も、奈緒の持つ弓から放たれた矢が的に当たるまでの軌跡を目で追っていたことで、的中の瞬間は、思わず声をあげそうになったのを必死でこらえていた。 ただ、彼らが初手の的中の余韻に浸る間もなく、競技は進む。 五人
2024年6月18日 18:25
東山奈緒が参加する弓道の立が行われる当日は、天気にも恵まれた。 大会が行われる市内のスポーツセンターは、ひばりヶ丘学院の最寄り駅である花屋敷駅からターミナル駅での乗り換えを経た場所にある。 スポーツセンターの最寄り駅である坂瀬川駅から、徒歩で市役所通りを十五分ほど下ると、川の向こうに、横長の大きな建物が見えてきた。 このスポーツセンターの武道場で、弓道の射会(競技大会)が行われるそう
2024年6月17日 18:30
(弓道の試合を観に行くのに、真中さんに一緒に来てもらったりしたら、会長は嫌がったりしないかな……?) 養護教諭の幽子の提案を受けた針太朗は、そんなことを気にかけていたのだが――――――。 生徒会長の東山奈緒が参加する弓道審査会の前日、「そんなに心配なら、私が会長に直接、聞いてみるけど?」と、口にした真中仁美は、演劇部の稽古の参加が少し遅れることもいとわず、放課後に針太朗を連れ出して
2024年6月16日 14:38
その日の放課後――――――。 針本針太朗は、グッタリとした表情で、保健室の椅子に座っていた。 親しげに名前を呼ぶ隣のクラスの委員長の存在に色めき立ったクラスメートの辰巳良介と乾貴志の二人が、彼と真中仁美の関係を休み時間の度ごとに、執拗に追及してきたからだ。 針太朗は、「入学式の日に、駅から生徒専用ゲートを使わずに迷いそうになっていたところを彼女に手助けしてもらっただけだ」とい
2024年6月15日 18:36
始業5分前のチャイムが鳴ったことで、乾貴志の「おっと、そろそろ教室に戻らないと、だね」という一言にうながされ、男子生徒3名の一行は、人気の少ない踊り場をあとにする。 だが、針太朗には、気がかりなことがあった。 二日前、保健室で目にした映像で、リリムと思われる女子生徒に魂を吸い取られた、自分と同じ学年の男子生徒。 その生徒は、女子生徒に、「ゴメンね、西高くん」と声を掛けられていた
2024年6月14日 16:00
針太朗の逆質問に、放送メディア研究部に所属し、校内の情報通を自称する貴志が応じた。「僕らに聞きたいことって、なんだい?」 興味深そうに問い返す、自称・情報通とその友人に、針太朗はあらためて問いかける。 「うん……ボクは、高等部に入学してきてから、まだ、四日目で、この学院の生徒のことについて、ほとんど知らないんだ……二人の知っている範囲で構わないから、ボクにデートを申し込んできた四人が