Tomohito_Asuma

自作の小説などを公開させてもらっています。 今後の創作活動のために、コメント・ご感想な…

Tomohito_Asuma

自作の小説などを公開させてもらっています。 今後の創作活動のために、コメント・ご感想などいただけると嬉しいです。

最近の記事

吸潔少女~ディアボリック・ガールズ~第2章〜恋の中にある死角は下心〜⑭

 週が明けた月曜日の放課後――――――。  針太朗は、週末の報告と今後の対応策の相談のために、またまた保健室を訪れていた。 「なるほど……私の助言がどれだけ効果を発揮したかは別にして、ともかく、無事に帰ってこられたようで、何よりだ」  養護教諭の安心院幽子は、男子生徒からの報告を聞き終え、返答したあと、何かを考えるような仕草で、つぶやくように漏らす。 「しかし、気になることがあるな……射会の会場にあらわれたという外国人女性は、東山や仁美に目を向けていた、というのは確実

    • 吸潔少女〜ディアボリック・ガールズ〜第2章〜恋の中にある死角は下心〜⑬

       店舗特製のフレンチトーストを奈緒と二人で、あっという間に食べ終えた針太朗は、紙ナプキンで念入りに口元を拭いたあと、自分の舌を満足させてくれたことに感謝を込めて、 「ごちそうさまでした!」 と、両手を合わせて丁寧に食後の言葉を述べた。  その様子を眺めていたカフェのオーナーのナミが、穏やかな表情で「お口に合ったかしら?」と、彼にたずねる。 「はい、スゴく美味しかったです! こんなに美味しいフレンチトーストを食べたのは、初めてです!」  針太朗が、率直に感想を述べると

      • 吸潔少女〜ディアボリック・ガールズ〜第2章〜恋の中にある死角は下心〜⑫

         下級生のストレートな質問に、東山奈緒は、「ふむ……」と、しばし考え込んだあと、記憶をたどるように、慎重に答える。 「私が、キミを求めるのは――――――そうだな、あえて言えば、最初にあった時のニオイに、惹かれたからかな?」 「ニオイですか?」  どんなことでも、理路整然とした受け答えをすることが多い彼女としては珍しく、漠然とした返答を意外に感じた針太朗は、釈然としないまま応じ、その様子は、対面の相手にも伝わったようだ。 「いや、曖昧な答えになってしまって、申し訳ないと

        • 吸潔少女〜ディアボリック・ガールズ〜第2章〜恋の中にある死角は下心〜⑪

           リリムの私が、こんなことを言うと……。  針太朗には、彼女が、たしかに、そう言ったように聞こえた。 (会長さんは、ボクが、リリムの女子たちを警戒していることを知っているのか――――――?)  その唐突な質問に、困惑と警戒心から、つい身体がこわばって身構える針太朗に対して、奈緒は、穏やかな笑みを浮かべて、彼の訝しむ気持ちをなごませようとする。 「すまない、針本くん。そう身構えないでくれ……キミが、入学式の日以来、私たちの行動に対して警戒心を抱いているのは、理解している

        吸潔少女~ディアボリック・ガールズ~第2章〜恋の中にある死角は下心〜⑭

        • 吸潔少女〜ディアボリック・ガールズ〜第2章〜恋の中にある死角は下心〜⑬

        • 吸潔少女〜ディアボリック・ガールズ〜第2章〜恋の中にある死角は下心〜⑫

        • 吸潔少女〜ディアボリック・ガールズ〜第2章〜恋の中にある死角は下心〜⑪

          吸潔少女〜ディアボリック・ガールズ〜第2章〜恋の中にある死角は下心〜⑩

           上級生と同級生、二人の女子生徒から、武道場の入り口付近で、観光客風の外国人女性に目を向けていたことを咎められた針太朗は、針のムシロに座る想いで、すでに飲み干していたコーヒーカップを見つめる。  その視線に気付いた奈緒が、そのカップに目をやりながら、カウンターの向こうに声を掛ける。 「済まない! 私としたことが、キミたちがコーヒーを飲み終えていたことに気が付かなかったとは……ナミさん、二人におかわりを頼む」  店主と知り合いらしい生徒会長の一言に、先に反応したのは、仁美

          吸潔少女〜ディアボリック・ガールズ〜第2章〜恋の中にある死角は下心〜⑩

          吸潔少女〜ディアボリック・ガールズ〜第2章〜恋の中にある死角は下心〜⑨

           針太朗の言葉に、驚くような表情を見せた真中仁美だったが、幸か不幸か、 「女子との会話が得意でない = 異性の感情の変化に対して察しが悪い」 という例から漏れていない彼の鈍感力のおかげで、彼女の言動が気にかけられる様子はなかった。  仁美が、そのことに少しホッとしながら会話を続けると、ほどなくして、二人が注文するコーヒーが運ばれてきた。  さらに、コーヒーの味と香りを楽しみながら、お互いのクラスの雰囲気や中学校時代のことを語り合っていると、あっという間に時が過ぎる。

          吸潔少女〜ディアボリック・ガールズ〜第2章〜恋の中にある死角は下心〜⑨

          吸潔少女〜ディアボリック・ガールズ〜第2章〜恋の中にある死角は下心〜⑧

           坂瀬川駅前のショッピングセンター・アペアの1階にある喫茶店・珈琲専科ロアロアに入店し、案内された席について注文を行うと、真中仁美は、真っ先に口を開いた。 「針本くん! あなたは、いま自分の身が危険にさらされている、っていう自覚はあるの?」  喫茶店のテーブルをはさみ、前のめりになりながら問うてくる彼女の迫力に押されながら、針太朗は、 「う、うん……」 と、うなずく。  彼の曖昧な返答に対して、仁美は訝しげな視線を向けたあと、 「じゃあ、さっきの観光客っぽい外国人の

          吸潔少女〜ディアボリック・ガールズ〜第2章〜恋の中にある死角は下心〜⑧

          吸潔少女〜ディアボリック・ガールズ〜第2章〜恋の中にある死角は下心〜⑦

           放たれた矢は、28メートル先の的の中央付近に、見事に突き刺さった。   「おぉ〜」  針太朗の隣に座る仁美が、競技の妨げにならないように、微かに声をあげて、小さく拍手をする。  彼自身も、奈緒の持つ弓から放たれた矢が的に当たるまでの軌跡を目で追っていたことで、的中の瞬間は、思わず声をあげそうになったのを必死でこらえていた。  ただ、彼らが初手の的中の余韻に浸る間もなく、競技は進む。  五人一組のグループの最後の射手が矢を放つと、奈緒は、「弓がけ」と呼ばれる鹿革製の手袋

          吸潔少女〜ディアボリック・ガールズ〜第2章〜恋の中にある死角は下心〜⑦

          吸潔少女〜ディアボリック・ガールズ〜第2章〜恋の中にある死角は下心〜⑥

           東山奈緒が参加する弓道の立が行われる当日は、天気にも恵まれた。  大会が行われる市内のスポーツセンターは、ひばりヶ丘学院の最寄り駅である花屋敷駅からターミナル駅での乗り換えを経た場所にある。  スポーツセンターの最寄り駅である坂瀬川駅から、徒歩で市役所通りを十五分ほど下ると、川の向こうに、横長の大きな建物が見えてきた。  このスポーツセンターの武道場で、弓道の射会(競技大会)が行われるそうだ。  駅からスポーツセンターに向かう道の途中で、針太朗は、仁美に話しかける。

          吸潔少女〜ディアボリック・ガールズ〜第2章〜恋の中にある死角は下心〜⑥

          吸潔少女〜ディアボリック・ガールズ〜第2章〜恋の中にある死角は下心〜⑤

          (弓道の試合を観に行くのに、真中さんに一緒に来てもらったりしたら、会長は嫌がったりしないかな……?)  養護教諭の幽子の提案を受けた針太朗は、そんなことを気にかけていたのだが――――――。  生徒会長の東山奈緒が参加する弓道審査会の前日、 「そんなに心配なら、私が会長に直接、聞いてみるけど?」 と、口にした真中仁美は、演劇部の稽古の参加が少し遅れることもいとわず、放課後に針太朗を連れ出して、生徒会室に向かう。 「開かれた生徒会を目指す」  という方針のとおり、数日

          吸潔少女〜ディアボリック・ガールズ〜第2章〜恋の中にある死角は下心〜⑤

          吸潔少女〜ディアボリック・ガールズ〜第2章〜恋の中にある死角は下心〜④

           その日の放課後――――――。  針本針太朗は、グッタリとした表情で、保健室の椅子に座っていた。  親しげに名前を呼ぶ隣のクラスの委員長の存在に色めき立ったクラスメートの辰巳良介と乾貴志の二人が、彼と真中仁美の関係を休み時間の度ごとに、執拗に追及してきたからだ。  針太朗は、 「入学式の日に、駅から生徒専用ゲートを使わずに迷いそうになっていたところを彼女に手助けしてもらっただけだ」 ということを何度も語ったのだが、その程度の説明では、二人は、とうてい納得できないよう

          吸潔少女〜ディアボリック・ガールズ〜第2章〜恋の中にある死角は下心〜④

          吸潔少女〜ディアボリック・ガールズ〜第2章〜恋の中にある死角は下心〜③

           始業5分前のチャイムが鳴ったことで、乾貴志の 「おっと、そろそろ教室に戻らないと、だね」 という一言にうながされ、男子生徒3名の一行は、人気の少ない踊り場をあとにする。  だが、針太朗には、気がかりなことがあった。  二日前、保健室で目にした映像で、リリムと思われる女子生徒に魂を吸い取られた、自分と同じ学年の男子生徒。  その生徒は、女子生徒に、「ゴメンね、西高くん」と声を掛けられていたハズだ。  さらに、保健医の安心院幽子によれば、 「私は立場上、教室での生徒

          吸潔少女〜ディアボリック・ガールズ〜第2章〜恋の中にある死角は下心〜③

          吸潔少女〜ディアボリック・ガールズ〜第2章〜恋の中にある死角は下心〜②

           針太朗の逆質問に、放送メディア研究部に所属し、校内の情報通を自称する貴志が応じた。 「僕らに聞きたいことって、なんだい?」  興味深そうに問い返す、自称・情報通とその友人に、針太朗はあらためて問いかける。   「うん……ボクは、高等部に入学してきてから、まだ、四日目で、この学院の生徒のことについて、ほとんど知らないんだ……二人の知っている範囲で構わないから、ボクにデートを申し込んできた四人が、どんなヒトたちなのか、教えてくれないか?」  とっさことでもあったので、彼か

          吸潔少女〜ディアボリック・ガールズ〜第2章〜恋の中にある死角は下心〜②

          吸潔少女〜ディアボリック・ガールズ〜第2章〜恋の中にある死角は下心〜①

           ひばりヶ丘学院の高等部に入学して、わずか三日で、四人の女子生徒から、デートの申込みを受けるという、他人からすれば、羨望と嫉妬の眼差しの集中照射を浴びそうな状態にあった針太朗は、眠れない夜を過ごすことになり、翌日、ゲッソリとした表情で登校してきた。  そこに、前日の放課後、彼が複数の女子生徒と校舎裏に消えていった、という目撃証言を入手していた乾貴志が、人懐っこい笑顔を浮かべて、近寄ってきた。 「ねぇねぇ、針本。キミに、ちょっと聞きたいことがあるんだけど、良いかな?」  

          吸潔少女〜ディアボリック・ガールズ〜第2章〜恋の中にある死角は下心〜①

          吸潔少女〜ディアボリック・ガールズ〜幕間①〜リリムを狩る者たち〜

           人工島のコンテナ・ターミナルに並んだ巨大なガントリークレーンの一機が、比較的サイズの小さなコンテナを丁寧に降ろす。  異例なことに、地面に下ろされた荷物は、コンテナヤードやトラックに移されることはなく、その場で荷解きが行われた。 「ほんとに、アンタが、こいつの受取人なの? アー・ユー・スピーク・ジャパニーズ?」  荷物を点検を行う係員は、1965年型のハーレーダビッドソンを確認しながら、屈強な男性ばかりの港湾現場と届けられた荷物にはあまりにも似つかわしくない姿の人物に、

          吸潔少女〜ディアボリック・ガールズ〜幕間①〜リリムを狩る者たち〜

          吸潔少女〜ディアボリック・ガールズ〜第1章〜初恋の味は少し苦くて、とびきり甘い〜⑮

           普段は、あまり自己主張をしないタイプのように思える同学年の女子生徒の想定外の返答に、針太朗は、少し取り乱しながら、彼女たちにたずねる。 「償いって……いったい、なにをすれば……」  もしも、その対価として、彼の魂を要求されてしまったら……。  保健室で確認した映像を思い出し、針太朗は、震え上がる。  ただ、四人の女子生徒たちの反応は、彼が想像したモノとは異なっていた。 「うむ……私たちには、針本に、損失補てんを要求する権利があるかも知れないな」  生徒会長の東山奈

          吸潔少女〜ディアボリック・ガールズ〜第1章〜初恋の味は少し苦くて、とびきり甘い〜⑮