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オーストラリアの遺贈寄付者のリサーチから見える傾向とインサイト:Include a Charity Virtual Conferenceセッションレポート①

2024年7月31日に開催された、オーストラリアの遺贈寄付推進キャンペーンInlude a Charityのオンラインカンファレンスに参加しました。

本記事では、同イベントのセッション「From first gift to a lasting legacy: The life and times of a gift in Will donor」にて紹介されたオーストラリアの遺贈寄付者の傾向とそれにもとづいた非営利団体が打てる施策についてまとめています。

登壇者は、オーストラリアのファンドレイジング協会Fundraising Institute Australiaのリサーチパートナーでもあり、ファンドレイジング分野を中心としたリサーチとその分析にもとづく提案を行っているmore strategicのKaren Armstrong氏とMegan Maya氏。

(セッション映像より)

セッションで共有された3つの切り口(スライド資料より)

本セッションでは、寄付を検討していたり、寄付を既にしている人達など約15万人の情報が含まれているSupporter Viewと呼ばれるデータセットと、more strategicの独自調査によって得られたインサイトが、「Gifts in Wills(遺贈寄付)のスウィートスポット」「検討中から実行に移す」「ライフイベント」という3つの切り口から共有されました。

オーストラリアの遺贈寄付者の概況

回答者のセグメント(スライド資料より)

まず、4,100人の回答を、4つのセグメントに分けて、55歳以上の人数と過去12か月間に20豪ドル以上の寄付を行ったことがある人数がそれぞれ記載されています。4つのセグメントの内容は、遺言を作成して非営利団体への寄付を確定させているCONFIRMED、遺贈寄付を検討しているCONSIDER、中立的なNEUTRAL、回答時点で遺贈寄付を予定していないREJECTでした。

恣意的な印象もありますが、年齢を「55歳以上」で区切ったのは、遺贈寄付を行う可能性が高い層だったからだそうです。

4つのグループ毎の昨年比での寄付額の増減状況(スライド資料より)

「昨年と比べて、今年のチャリティへの寄付は増えたか、減ったか、ほぼ同額か?」という設問に対して、CONFIRMEDの38%、CONSIDERの36%が「(昨年比で)寄付を増やした」と回答し、統計的に高いと言える結果だとArmstrong氏は語ります。一方で、NEUTRALとREJECTはそれぞれ18%と10%の人達しか寄付を増額しておらず、寄付が減ったと答えたのもこの2つの層が非常に多い結果となっています。

次に、「Donated less(寄付を減らした)」と答えたグループの中で、2つの理由がピックアップされました。

Donated lessの回答者の中からピックアップされた「理由」(スライド資料より)

「生活費が上がっているので、今は寄付にお金を使う余裕がない」を寄付を減らした理由に挙げたのは、CONFIRMEDが50%、CONSIDERが64%、NEUTRALが80%、REJECTが79%となっています。また、29%のCONFIRMEDの人達が「寄付依頼が多過ぎて圧倒されている」と答えていたことが紹介されました。

オーストラリアの一般の寄付者にとっても、近年の生活コストの増加が負担となり、チャリティへの寄付を止める要因となっていること分かるデータと言えます。また、既存の支援者やつながりへの寄付依頼は、ファンドレイジングの基本のアプローチでもあることから、CONFIRMEDの多くの人達は非営利団体と今まで接点がありコンタクトリストに載っている人が多いことが考えられるので、寄付依頼の連絡を頻繁に受け取って「圧倒されている」と言う人が多い結果につながっているのかもしれないと思いました。

Armstrong氏によると、CONFIRMEDの60%が生涯で5,000豪ドル以上(約485,000円以上)を寄付しているため、非営利団体にとって非常に高価値のサポーターで貴重な存在であるそうです。

4つの見通し(スライド資料より)

ここで、経済的な見通しに対する回答が、4つの要素に分けて紹介されました。「Economy」では経済状況に対する見通しはどうか、経済が良くなると感じているのか、悪くなると感じているのか、それとも同じくらいだと感じているのかが表されています。
「Personal」では個人的な財務状況はどうなるかについて、「Giving」は(自身の)寄付行動はどうなるかについて、「No. Orgs」はどのくらいの組織に寄付するつもりかについて、各グループの人達がどういう見通しを持っているかがデータに表されています。

これは今後12ヶ月間に何が起こるのかに関する現時点での回答者の将来予測です。ここでも、CONFIRMEDとCONSIDERの人達には、ポジティブで楽観的な人達が多いことが分かります。

次に、まだ遺贈寄付に関する決断をしていないNEUTRALの人達は経済状況についてはあまり楽観的ではないが、個人的な状況には楽観的な人達が比較的いる結果となっています。REJECTの人達を見てみると、全体的に悲観的で、特に経済状況に対して否定的な意見が40%もいる結果となりました。

Armstrong氏は、寄付者の楽観主義と遺贈寄付の可能性との間には非常に強い相関関係があると言っています。

55歳以上と未満の層ごとにみる4つの見通し(スライド資料より)

さらに、4つのグループそれぞれを55歳以上と未満に分けたデータが共有されました。年齢別で見てみると、楽観主義を牽引しているのは55歳未満の若い年齢層であるということが分かります。

そこで、55歳以上と未満の層に対して異なる戦略が必要になるとArmstrong氏は言います。

55歳未満の人物像(スライド資料より)

若くて楽観的なCONFIRMEDやCONSIDEREDの人達は、話好きであり、色々なことを一緒に行える可能性のある相手であると語られました。65%の55歳未満のCONFIRMEDの人達が、「他の人達にチャリティをおススメする」意思があると回答しています。また、「家族、友人、同僚にその非営利組織やブランドをおススメしたことがあるか」という質問にも同様の結果(73%がYes)が出たとシェアされました。

この結果にもとづいて、非営利団体側がアプローチする相手を年齢を考えて、ただ寄付依頼をするだけでなく、遺贈寄付に関するメッセージを団体の代わりに口コミで広めてもらうこと(言わば、エヴァンジェリストになってもらうこと)が、推奨されていました。

(スライド資料より)

次に共有されたデータを見てみると、55歳以上のCONSIDERには遺贈寄付への理解が広がっていることが伺えます。そのうち70%が「誰でも遺言にチャリティ(への寄付)を含めることができる」に同意している一方で、55歳未満のCONSIDERでは33%という結果になっています。そのため、エヴァンジェリストになり得るポテンシャルがあるものの、55歳未満の若い層への遺贈寄付の理解促進が必要であるとArmstrong氏は言います。

本セッションで提示された遺贈寄付の推奨アプローチは、2つのターゲット層それぞれにあわせたキャンペーンを展開すること。そのうえで、非営利団体への信頼を築いていくことが肝要であると語られていました。

Gifts in Wills(遺贈寄付)のスウィートスポットの3つのポイント(スライド資料より)

遺贈寄付の意向を行動に移行させる

次に、オーストラリアの遺贈寄付者が遺言作成ついてどのように考えているのか、遺言を作成する際にどうしているのかについてのインサイトがMaya氏から共有されました。この後の情報は、上述のリサーチとは別のリサーチ結果からのデータにもとづいています。

遺言を作成した年齢(スライド資料より)

遺言をつくった年齢で最も多いのは、55歳~64歳の間で、45歳~54歳の間で約4分の1が確認されたそうです。これは一般的な感覚とも近い結果のように思います。比較的若い年齢で確認が行われてから、生涯にわたってどのように関係を築いていくのが重要なのかが共有されました。

遺言作成状況に関する回答(スライド資料より)

この調査結果では、約50%の人々が遺言を持っていないと回答しており、回答無し(none)を除外した全回答が黄色の部分、遺言作成が確認されたカテゴリが「Confirmed」です。

注目すべき点として、遺言を弁護士と一緒に作成したいと考えている人が多いことを踏まえて、弁護士との連携をより一層推進していく必要があるとMaya氏から言及されました。参考例として、遺言作成を無料で提供するプログラムがあり、対面や電話での弁護士でのアポイントメントが可能なイギリスの事例が簡単に紹介されていました。

また、オンライン遺言作成プラットフォームの立ち上がりに伴い、オーストラリアのファンドレイジング界隈の多くが関わってきたプロモーションが確実に成果を出していると強調されていました。過去に記事にもしてあるので、ご関心のある方はあわせてお読みください。

遺言にいくつのチャリティ団体への寄付を含めているか(スライド資料より)

また、遺言に2~3団体への寄付を含めていることが多いことも明らかになりました。

遺贈寄付のタイプ(スライド資料より)

多くの人々が一定金額の遺贈寄付を行っており、次いで相続財産の何割かを遺贈寄付するという人達が多いという結果になっています。

遺贈寄付のインパクトについて寄付者が思っていること(スライド資料より)

オーストラリアの遺贈寄付において、特に注目されているのがResidual bequest。これは「税金などが支払われ、遺言によって指定された具体的な財産の分配が行われた後に残る財産を遺贈寄付すること」を指します。このResidual bequestが非営利セクターにもっと流れるようにする必要性が、近年では言われています。ちなみに、遺贈寄付の推進を行っている全国レガシーギフト協会にも確認をしたところ、日本ではこれに相当する概念や用語が無いようです。

また、本セッションで興味深い意見がMaya氏からシェアされました。Include a Charityのメンバーからも挙がった意見として、「オーストラリアでは遺贈寄付を表す言葉として、『ギフト(Gifts in Wills )』が使われているが、それは非常に商取引的に感じられ、人々が金銭的な遺贈寄付の方が最も大きなインパクトを持つと捉えるようになっているのではないか」ということでした。それに対して、イギリスでは遺産を与えるというニュアンスを感じるLegacy Givingという言葉を多く使い、商取引的な感じではなく、一度限りの贈り物や特定の金銭額を超えた印象を持つような言葉が使われている違いについて言及されていました。

英語ネイティブにとっての言葉に対する感覚の個人的な勉強になったので、紹介させていただきました。

遺贈寄付者が求めている情報(スライド資料より)

また、彼らが実際に何を求めているのかを理解するために、Confirmedのグループをさらに調査したそうです。上のデータからは、チャリティに関する情報をどのように求めているかがわかります。例えば、団体ウェブサイトを訪れたり、施設を見学したり、戦略プラン・事業計画や年次報告書を確認したりしています。一方で、遺言の作成時に弁護士に相談したり、家族や友人と話し合ったりするのは、情報収集段階での割合が低いことが分かります。

Maya氏は、遺贈寄付に関するページを見つけることが難しいケースがよくあり、オンライン上での導線設計が十分に設計されているかを確認する必要性も指摘されていました。

遺言の更新理由(スライド資料より)

次に、遺言の更新理由についてです。当初の予想は、遺言を更新する理由として重大なライフイベントが影響していると考えていたそうですが、実際には「個人的な願望や優先事項の変化」が一番の理由にあがってきました。遺贈寄付者が、自分の財務状況をコントロールするのは最後の遺産を残すための大前提でもあり、最終的には彼ら彼女ら自身のためにもなります。それでも、結婚や出産などのライフイベントは更新理由の上位にあるのも見逃してはいけない点だと思います。

遺言にチャリティ団体への寄付を含めた理由(スライド資料より)

さらに、遺言の更新理由から踏み込んで、チャリティへの寄付を含める理由も調査したそうです。理由のトップに位置しているのは、約33%の人々が「遺言を更新する際に、チャリティに寄付する良い機会だと思った」という理由でした。そして、その次に「フィランソロピーの重要性の認識、個人的な願望の変化」や「家族からのアドバイスや勧め」、「専門家からの助言」、「チャリティとの関わりにより、遺贈寄付することにインスパイアされた」が続いています。

非営利団体側は、人々が家族や友人との会話で遺贈寄付が話題に挙がることを支援し、決断を促すために継続的なサポートをする必要があり、いくつかの団体が遺贈寄付者をインスパイアするためのガイドなどを提供し始めているのを目にし、そのようなツールの用意も重要だとMaya氏は言います。

遺贈寄付の意向を行動に移行させる3つのポイント(スライド資料より)

考えるべきステップとして、遺贈寄付に関する情報コンテンツが重要と言えます。これは、遺贈寄付を検討している人達の関心を惹きつけ、アクセスされやすい傾向にあります。先述のデータからも、検討している人達は情報を得るためにウェブサイトをまず訪れています。団体側ができるだけ多くの遺贈寄付に関する情報やガイドやヒントを提供し、特に高齢の人達にとって可能な限り分かり易くすることが重要だとMaya氏は言います。

次に、弁護士とのパートナーシップも遺贈寄付においては非常に重要です。一部の非営利団体では、遺言作成日を設け、遺贈寄付の希望者が担当チームと話をし、専門的なアドバイスを受ける機会を提供しているとのこと。遺贈寄付者は非営利団体からの情報を求めていることは分かっているものの、遺言を更新は弁護士と行いたいと思う可能性が高いともMaya氏は付け加えます。遺贈寄付の意思があるという意思表明があった後、寄付者をしっかりとサポートする必要があり、それによって遺贈寄付を変更する可能性が高まるわけではないですが、完全に無視できるわけでもありません。これは信頼を築くための良い対応と継続的な努力が、遺贈寄付を受け取る団体側に必要とMaya氏は補足します。

ライフイベント

ライフイベントと非営利団体とのつながりについて(スライド資料より)

記念日や誕生日、結婚式など、これらは祝うべき機会であると同時に、ファンドレイジングの絶好の機会でもあります。長期的な関係性を築くためにも、持ち続けるためにも、こういった記念日を重要な節目として活用し、寄付の機会をつくりながらお祝いすることも大事なアプローチだとArmstrong氏は語ります。日本でどれくらい受け入れられるか未知数ですが、オーストラリアにおいては非営利団体からの連絡を好意的に受け取る傾向があると言われています。寄付者は、情報コンテンツを好んでいると同時に、その非営利団体との感情的なつながりも大切にしています。関係性次第では、寄付者は家族と同じくらい非営利団体を近くに感じることがよくあるとArmstrong氏は言います。

(スライド資料より)

次に、最も共感される分野について共有がありました。一般的な傾向と異なり、遺贈寄付者層は動物愛護活動への関心が最も高く、次いで子ども支援、福祉活動、健康・医療研究、高齢者ケアという関心度合いになっているそうです。

ちなみに、興味深かった点として、パブリックリサーチでは非寄付者の多くは子どもを持っていない傾向が見えてきたそうです。そのような層とどのように共感や関係性を築いていくかも今後のリサーチテーマにしていきたいとも言っていました。

ライフイベントの3つのポイント(スライド資料より)

このパートでは月並みな話のようにも思いましたが、(潜在)寄付者のライフイベントを通じて、接点をつくる機会を確保し、特に重要な瞬間につながりをつくることが大切だということが語られていました。

キーポイント

リサーチ結果からも、明らかに多くの人達が遺言を作成していて、その際に弁護士に相談していることが伺えました。弁護士とのパートナーシップを構築する必要性が出てきていると言えます。また、オンラインでの遺言作成プラットフォームが、遺言作成および遺贈寄付の増加に寄与していることも分かりました。

また、遺贈寄付者のケアにも注意を払い続け、彼ら彼女らの個人的な願望を尊重し、それにもとづいて関係を築いていければ、遺言を更新して自団体を遺贈寄付先にすることを検討してくれる可能性があることは、日本の非営利団体にも共通する部分のように思いました。

要点がまとめられたチートシート(スライド資料より)

最後に、本セッションの要点をまとめたチートシートが共有されたので、日本語で内容を紹介しておきます。

遺言作成
オーストラリア人の約半数(48.8%)は遺言を持っていない。
遺言を作成している人のうち、29.6%は弁護士を利用し、9.6%はDIY遺言キットを使用し、4.4%はオンラインプラットフォームを利用しています。

寄付先団体の追加
ほとんどの遺贈寄付者は、限られた数の非営利団体を遺言に含めており、75.2%が1〜3つの団体を寄付先に指定している。また、more strategicのリサーチではさらに多くでき得ることが分かっている。

遺贈寄付の種類
一定金額の遺贈寄付が最も一般的で、57%の寄付者がそうしている。また、32%の寄付者は遺産の一部を割り当てている。

動機
個人的なつながり(22%)や、特定の分野への共感(17%)が遺贈の主な動機です。非営利団体の信頼性や長期的な持続可能性への信頼も重要。

きっかけ
遺言の更新は、寄付を検討するきっかけとなることが多く(33%)、また、金融アドバイザー等からの専門的な助言(15%)や、慈善団体との意義のある対話(14%)も遺贈寄付の意思決定に影響を与える。

リスク要因
財務状況の変化(35%)や専門家からの推奨(27%)が遺言を変更する主な理由。これらの変更の可能性があるにもかかわらず、寄付者の69%は遺言の受取人や寄付先団体を変更していない。

チートシートの内容を意訳

最後に

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