コロナ直撃のベンチャー経営者は、緊急事態に何を考え、そして実行したのか。
●はじめに
当社はレジャー・観光産業のDXを牽引する創業10年目のベンチャー企業です。新型コロナウィルスの感染拡大に端を発した緊急事態宣言によるおでかけ自粛要請の影響で、主力サービス「アソビュー!」売上が昨年対比で95%減少するほど大打撃を受けました。
経営者として未曾有の事態に直面する中でおよそ4ヶ月、会社・サービスの存続、そして雇用死守を掲げて奔走してきました。そして、ようやく最悪の危機を脱せられるところまで持ってこれたと判断できるに至ったので、これらの経験をまとめることで、コロナ第一波に区切りをつけ、未来に歩みを進めたいと思います。
このnoteは個人的な目的で書きますが、なかなか稀有な立場で経験をした自負があるので、この共有が誰かの前進に繋がれば、それほど嬉しいことはありません。
●何が起こったのか?
1. 売上昨対比95%減少
2. 資金調達市場からのキックアウト
1. 売上昨対比95%減少
以下のグラフがすべてを物語っています。新型コロナウィルス感染拡大の報道の過熱度に比例して、如実に売上が減少。緊急事態宣言を受けた4/7以降からはほぼゼロになりました。この状態が緊急事態宣言が解除される5月の末まで続くことになります。
2. 資金調達市場からのキックアウト
当社の様なベンチャー・スタートアップ企業は、成長資金の調達方法としてエクイティ・ファイナンスが広く活用されています。当社もこれまで累計15億円ほどエクイティ・ファイナンスによる資金調達を実行し、事業成長を実現してきました。そして年初からはシリーズDラウンドを計画し、各投資家とも話をすすめていた矢先に新型コロナウィルスの感染が広がっていきました。
世界中の経済の先行きが不透明になり、金融市場が混乱。調達環境が悪化しました。さらに当社は感染拡大が売上に直接影響を与える事業を展開する会社。投資家は慎重にならざるを得ず、「コロナ案件には出せません」と言われてしまうほど窮地に立たされました。
実業での売上と資本市場からのエクイティ・ファイナンスの両輪で資金を獲得・投資してきたので、これら2つが同時に無くなるということは、走行中の車の車輪が両方吹っ飛ぶようなもので、まさに死刑宣告でした。
●何を考えたのか?決めたのか?
1. 感染拡大は必ず終わる
2. マーケットは復活する
経営者は決めることが仕事です。決めるためには、事実状況を正しく把握することが不可欠です。それには不確実な未来に対する予想も含まれます。
1. 感染拡大は必ず終わる
パンデミックはペスト、天然痘、コレラ、スペイン風邪など過去の歴史にもありました。現代とは医学の進歩や公衆衛生の環境もまるで違いますが、それでも全てが収束している史実がありました。今回の新型コロナウィルスも必ず収束するものと捉える方が蓋然性が高いと判断しました。
2. マーケットは復活する
次に収束する前提で、当社の事業ドメインがどうなるのかを考えました。
規模こそ異なりますが、一番最近の類似例では2003年に流行したSARSがありました。その時も観光産業は大きな打撃を受けましたが、収束から8ヶ月程度でインバウンドも含む市場は完全に回復し、成長していったという事実がありました。
また、パンデミックはある種の災害で、2011年の東日本大震災は記憶に新しいですが、それでも同様に需要は回復、成長しています。以下のnoteが参考になります。
加えて、私は人間の根源的欲求に「遊ぶ」ことがあると考えています。その大きな選択肢の一つにおでかけや旅行がある訳ですが、これらが収束後に完全に無くなるとは考えづらいと思いました。投資家の方の多くは「お出かけや旅行それ自体がなくなる可能性も十分考えうる」という意見であり、それはそれでビックリしましたが、もしかしたら個人的な願いに近いものだったのかもしれませんが、とにかくそう信じることにしました。
問題はどれくらい続くのか?いつ収束するのか?でした。
これは正直、神のみぞ知ることなので正解はありません。各種報道や専門家に直接アプローチし、可能な限り情報を集めつつ、検査体制やワクチン、特効薬の開発期間なども考え、最長で2年であろうと見立てを立てました。
これらの前提条件の元、この状況下で全社を挙げて達成すべき目標を定めました。それが以下3つでした。
1. サービスの継続
2. 雇用の維持
3. 運転資金(ランウェイ)の確保
1. サービスの継続
必ず市場が復活する前提では、サービスを継続し、来るべきタイミングで攻勢をかければ市場シェアを一気に拡大できる可能性があります。最低限の運用で、全てのサービスを維持することにしました。シェアの拡大はこんなイメージです。
市場シェア拡大(イメージ)
2. 雇用の維持
当社のようなインターネット企業のコアコンピタンスは、サービスを開発・運営する人、そして集合体(チーム)の文化だと思っています。ミッションドリブンで10年かけて集まった120名を超える仲間、培った文化は当社の競争優位性の源泉なので、上記の1のためにも不可欠、というのは疑いの余地はありませんでした。
仕事初めの初詣(任意参加)
3. 運転資金(ランウェイ)の確保
1と2を維持するための2年間の資金さえあれば生きていけます。手段を選ぶ必要はありません。非常にシンプルです。
●何を実行したのか?
目標が決まったら達成するための具体的施策を洗い出します。
ここからは「会社」そして、表裏一体に存在している経営者「個人」また、それらを取り巻く「社会」という枠組みでまとめていきます。
□会社
1. 利益獲得
2. 販管費(コスト)削減
3. 資金調達
4. 雇用の死守
会社経営は削ぎ落としていくとシンプルで、利益ーコスト=黒字 でそれが運転資金になります。迷いなく利益の獲得とコストの削減に注力しました。
1. 利益獲得
■コンサル案件の受託
事業会社の成果・ノウハウを、コンサルティングという方法で提供することで、クライアントの課題解決することをテーマに、こんなことを企てました。手段を選ばず、生き残りをかけて我武者羅にやろうというメッセージを込めて、社内のコードネームは「野武士コンサル」としました 笑。おかげさまで多数お引き合いを頂き、誠にありがとうございました。(今は案件のご相談は終了しています)
■新商品の開発
お出かけ自粛の時点で市場がゼロになったので、提供価値は「未来におでかけしてもらう」か「おうちでおでかけした気持ちになってもらうか」の2択しかありませんでしたので、両方実施しました。
<前売り応援チケット>
この前売り応援チケットの取り組みの中では、四国水族館さんの応援チケットは2,000枚が即完売するなど、まぁまぁ破壊力のある成果をあげることができました。また、皆様のおでかけしたい欲求を肌で感じることができ、社内も大きな勇気をもらえた取り組みとなりました。
<おうち体験キット>
おうち体験キットとは、おうちで手軽に楽しく遊べる体験キットです。「いつものおうち時間をもっと豊かに」をコンセプトに開発を進めました。詳細はこちらにまとめています。着想から1ヶ月ちょっとでリリースさせました。
おうち体験キットはおかげさまで『がっちりマンデー』でも取り上げて頂き、お茶の間に新たな選択肢をお届け出来たと思います。
<オンライン体験>
また、リアルの場からオンラインに代替しても体験の品質が落ちないカテゴリーを探し、オンライン化しました。正直、グローバル各社が取り組んでいるオンラインツアーなどは成功が難しいと思っている派なのですが、一部代替できる体験もあり、そこにフォーカスして開発に取り組みました。
2. 販管費(コスト)削減
広告宣伝費を即座に止め、会社の全費用項目を把握、見直しを行い、ドラスティックに解約していきました。また詳しくは4で記載しますが、雇用死守と人件費の削減を両立させるアイデアを実行しました。これらの施策で、計画に対してのコストの60%を一気に削減しました。
3. 資金調達
■公的補助金について
公的補助金の種類の把握・該当要件の整理・申請・進捗確認まで文字通り陣頭指揮を取りました。そしてそれらのノウハウを当社とお取引のあるパートナー様に即座に共有しました。
メディアでは当初、日本の公的補助制度は各国に比べてダメだと散々叩かれていましたが、それは事実ではありません。充実していないのではなく、充実はしているがとてつもなくわかりづらいのです。今でこそわかりやすいまとめサイトがたくさん出て来ましたが、3月にはほとんど無い状態だったと記憶しています。一つ一つ官庁のHPを見たり担当から該当要件を問い合わせしたりして地道に把握していきました。
■エクイティ・ファイナンスについて
エクイティ・ファイナンスは当初、好調な上場市場の株価を基準に当社も高評価を頂いていましたが、市場が大打撃を受け、先行きが見えない状況になり、もはやゲームのルールがサッカーからバスケットになったくらい大きく変わったので、バリュエーションを過去の杵柄と見て、瞬時にこだわりを捨て、再交渉を始めました。このクイックな意思決定は市場からの信頼に繋がったと思います。
4. 雇用の死守
出向制度というものを活用して「社会人留学制度」をコンセプトに、従業員シェアの仕組みを作りました。これは大変大きな話題となり、NHK(おはよう日本)、TBS(Nスタ)、日経新聞、日経ビジネス、AERA、毎日新聞、読売新聞、朝日新聞など、多くのメディアに取り上げて頂いたので、ご存知の方もいらっしゃるかもしれません。ピンチをチャンスにとはよく言いますが、新型コロナの直撃に対して、手前味噌ですが返し技で一本取ってやったような感覚で、我ながら斬新だったと思っています。
メディア掲載実績
□個人
1. ランニング・筋トレ
2. 料理
3. 梨泰院クラス
私は「経営者の心が折れなければ、会社は何度でも再起できる」と思っています。それほどベンチャー企業にとって経営者の存在は重要です。今回の有事は先が見えないかつインパクトが強烈だったため、ともかく強制的に仕事を忘れて、過去と未来を考えない時間を作る必要があると思い、選択したのがこれらの活動でした。
ランニング中に意図せず涙が頬を伝うことが何度かあったほど、深層心理ではダメージを受けていたのだと思いますが、こうした無になる時間を作れたことで、日々モチベーション高く仕事に向かうことができました。
1. ランニング・筋トレ
毎日10km近くを走ることにしました。初めは普通に走っていたのですが、だんだんペースを上げたい衝動に駆られ、途中からこんな感じのスピードで走れるようになりました 笑。また、ジムには行けないので、腹筋ローラーとプッシュアップバーを購入し、ランニングの前後にやっていました。途中からプランクの無料アプリを見つけルーティーンに加えました。
まぁまぁ早くなってきました
2. 料理
3日分ほどの具材を買い込み、主にカレーと麻婆豆腐をスパイスから作り出しました。スパイスから作るのは自分の好みの味になるようにPDCAを回せるのが面白いところ。料理をしている時間は作業に集中できるので、自分にとって大切な時間となりました。
自分好みの味にできるのが面白い
3. 梨泰院クラス
梨泰院クラスのパク・セロイに夢中になりました 笑。
経営者が主人公のドラマで感情移入しやすかったこともありますが、まぁーなかなか想像を絶する困難が彼に襲いかかっており、それを最終的には強靭なメンタルとフィジカルで打破していく姿に自分を勝手に投影し、俺はあんなにきつくないだろ?とか、俺はできるぞ!というマインドセットをしていました。最終的には愛の不時着に流れ込んでいくわけですが、その話はまた別の機会に。
□社会
1. Go to キャンペーンへの提言
2. 感染拡大防止ガイドラインの策定
3. 雇用維持の仕組み化
4. スタートアップ支援の活動
また、コロナ禍において自社の事業周辺を取り巻く環境も大変慌ただしかったため、それら課題解決は、ひいては自社の事業の再成長に繋がることだと信じて、どさくさに紛れて社会に対して様々なアクションを実行しました。
1. Go to キャンペーンへの提言
私は観光庁のアドバイザリーボード・委員というものをやっており、観光庁の戦略の助言や、事業のガバナンス観点でのプロジェクトのサポートを担う役回りを拝命しています。一国民として、有事の際にできることを全力で貢献しようと情報・アイデアの提供を積極的に行いました。
今回のgo to travelキャンペーンの枠組みや体制に関して思うところはありますが、体験・アクティビティや日帰り旅行商品までの対象範囲をカバーできたことは、エビデンスに基づく情報提供が一助になったことと思います。
2. 感染拡大防止ガイドラインの策定
1と若干関連しますが、お出かけ自粛要請が解除された後に、感染拡大防止を前提とした事業運営の指針がないと、レジャー施設は再開できないであろうという危惧がありました。そこでプラットフォーマーとして、感染防止対策と経済の両輪を回していくためのガイドライン・指針をいち早く策定、提供しようと、独自に専門家にアプローチし、レジャー施設向けの運営ガイドラインを策定しました。同時に観光庁サイドでもこれらの準備に動いていたため、密に連携しつつ、アップデートさせながら業界に発信を続けています。
3. 雇用維持の仕組み化
自社の取り組みに大変反響があったこと、そして、時を同じくしておでかけ自粛に影響を受ける近しい他社ベンチャー企業から具体的な雇用の悩みを聞いていたことが重なり、業界全体のために雇用維持の取り組みを広げました。自社のリソースでは対応できないため、一般社団法人・非営利 災害時緊急支援プラットフォームに運営を委ねることになりますが、この活動にはアソビュー社の代表という立場ではなく、一般社団法人の理事としての立場で関わり、立ち上げ時に陣頭指揮を執っています。
4. スタートアップ支援の活動
公的サポートが中小企業支援に寄ってしまい、未来の雇用の担い手であるスタートアップに回らないという課題を当事者として実感し、なんとかしようと動きました。具体的には同時期に動かれていたトーマツベンチャーサポート代表の斎藤さんの活動のサポートとして、WAmazing代表の加藤さんと共に、民間VCがなかなか投資しづらい領域の公的サポートの可能性を模索し、各方面に働きかけをしました。
結果として補正予算の使途の文言に「スタートアップ支援」が記載され、具体的な施策として公庫融資にスタートアップ枠が盛り込まれるなど成果に繋がりました。同じ目的を持って動いた両名をはじめ、ここでは公開しませんが様々な関係者の方々は戦友です。
●何を学んだのか?
緊急時で冷静に考え、分析しながら解決策を着実に実行してきたつもりでいます。他方で、細胞が瞬間的に反応したといっても過言ではない機会も多くありました。危機を乗り越えた今、特に重要だったと思う項目をまとめます。
1. トップダウン体制
2. やらない意思決定
3. メンタル死守
4. 事業ポートフォーリオの分散化
1. トップダウン体制
本有事を乗り切るために、経営会議にてトップダウン体制にすると宣言しました。当社は自分で言うのもなんですが、風通しの良いフラットな雰囲気の会社で、ボトムアップ型での施策実行はもちろん、現場の裁量権も大きい会社だと思います。
これは市場が成長している平時の際は大切だと思いますが、緊急事態は別です。縮小した市場で、それぞれの部門がそれぞれで判断すると非効率で成果が最大化しません。何より兎にも角にもスピードを求められる状況下で、みんなでディスカッションしている時間など一切ありません。
「正しいかどうかはわからないけど、ともかくトップダウンで決めて指示するから、それを確実に実行して欲しい」と経営会議で伝えました。「up or out(成長するか、去るか)」ではないですが、「understand or out(理解するか、去るか)」を求めました。この判断は振り返ってみると非常に重要だったと思います。
ちなみにこの体制を実行できたのは、言わずもがな、信じて快諾してくれた経営メンバーを始めとする当社の仲間がいたからこそです。信じてもらえるということほど、心理的安全性に繋がるものはありません。
2. やらない意思決定
真っ先に方針を決めたことで「やらないこと」が組織の中で明確になりました。経営の仕事はやらないことを決めることだと言われたりしますが、これにより、明確な成果に向うことができました。
3. メンタル死守
経営者はなかなか代替しづらい役割です。また、経営者も人間なので辛かったり悲しかったり悩んだりするやっかいな側面もあります。高負荷が継続すると、誰しもがメンタルがポキッと折れてしまう可能性があります。それだけは避けようと、あえて無になるための時間をコミットして作ったことは重要でした。
4. 事業ポートフォーリオの分散化
平時の際の成長市場においては選択と集中が重要で、これは疑いの余地はありません。しかし、有事の際のキャッシュフロー経営にはポートフォリオの分散化が必要でした。当社は①体験ギフト事業 ②自治体向けコンサルティング事業 も運営しており、これらはおでかけ自粛にあまり影響を受けなかったのですが、この存在に救われました。
もちろん様々なシーンで選択と集中を掲げ、多角化転換を悩んだ時期もありました。しかし、悩みながらも続けてきた事業が結果的に大きく飛躍し、コロナ禍の会社を支えることになりました。選択と集中か、多角化かの二元論ではなくて、それぞれメリデメあるという認識が大切だと学びました。
●おわりに
当社は7月から10期目に突入しました。気づけばもう9年も会社経営をやっています。今日は10期の全社キックオフをオンラインで開催。ベトナム子会社のメンバーも含めて経営戦略を共有できました。
史上最大の危機に見舞われましたが、だからこそさらに結束したチームとなって、ミッションドリブンで力強く走っていけると確信しています。
私のtweetですが、コロナを乗り越えて大躍進した奇跡の会社として、シンデレラストーリーを駆け上がり、令和時代を代表するインターネットカンパニーとして物語を紡いでいく所存です。
最後になりますが…
攻めに転じるための仲間募集を再開します!まずは今Go to キャンペーンなどでも話題の自治体・中央省庁連携によるレジャー・観光DX推進の領域から。アソビュー社の事業の基盤づくりをここから一緒にしていきませんか?
最後までお読みいただいた方々、どうもありがとうございました!
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