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海外MBAは海外就職に繋がるのか

海外MBAの世界の外の人には、海外就職できないのであれば何のために海外MBAなんか取得しに行く必要があるのか、と悪気なく聞く人もいます。

しかし、現実は大半の日本人(私費)は卒業後、日本に帰国し、MBAを優遇する外資系企業(一部、日系企業)に勤めています。

これは、なぜでしょうか。


海外MBAを取った直後に日本で就職する背景

当の本人も含めて、日本人は英語が弱いから海外就職できないんだね、という結論を導く人が少なくありません。

日本人は英語の話になると無類の自己肯定感の低さを発揮します。

前述の結論が完全に間違っているとは思いません。

つまり英語力のために海外就職が困難な海外MBA生が一定数いることは一切否定しませんが、全体として見た時に決して的確とは言い切れない、と考えます。

私は、日本で提供される就業機会が相対的に魅力的すぎて日本に帰ることを決断するという例が圧倒的に多いことが、この背景の中心だと考えています。

MBA採用市場が冷え込んでいる韓国などですと、海外MBAを私費で目指すこと=海外就職を目指すこととなることが殆どです。

しかし、新型コロナウィルスの最中にあってもMBA採用市場が充実している日本には、これは当てはまりません。

結果、IESE(イエセ)でも割合的には韓国人と中国人の方が海外就職する私費生の率が日本よりも高いです。

韓国人や中国人が日本人より英語が堪能だ、という意見もあるかもしれません。

中国人は試験に強すぎる等、別のパラメーターが複数あるので、一旦議論から除外します。

確かにTOEICの平均点で比べるとそういう傾向はありますが、海外MBAレベルになると、大学以前に英語圏で少なくとも2年を超える単位で教育を受けていない限りは、韓国人の方がやや上としても、殆ど両者は同じという印象です。

内向性など色んなコミュニケーションスタイルで両国民の間には類似点がたくさんあることも踏まえると、私は韓国人にできて日本人にできないことはないと思っています。

おそらくあらゆる学校の平均で見た時に留学生としては最も人数的に存在感を放っているはずのインド人もインドに帰国すると給与が極端に低くなるため、死にもの狂いで現地就職を狙う傾向が強いです。

もう1つ別の切り口から例を出します。

興味深いことに、目安として世界ランキング20位より下の学校に行っている日本人の方(私費)が海外就職した事例を見かけることは、実は意外と少なくありません。

これまで常々世界ランキング20位程度に含まれるかどうかで日本におけるMBA卒業直後の就業機会が変わってくると複数の記事で述べてきました。

しかし、その枠に入らない学校はいわゆるトップリクルーターのスコープに入りにくいか完全に外されています。

したがって、それ以外で就業先を探すことになります。

その場合日本での就業機会が世界ランキング20位以内の学校と比べると相対的に魅力度で劣るので、自然とそれ以外、つまり海外、にも目が向くようになります。

日本でMBA採用のトップリクルーターのスコープに入りにくいのに海外では入りやすいということは当然あり得ません。

ゆえに、スタートアップ、日系企業の海外拠点(駐在ですぐには通常困難なので、待遇の劣る現地採用)、フリーランス、起業(成功は大変だが立ち上げるだけなら比較的容易)など、別の落とし所を狙うようになります。

結果として、そのあたりに海外にて就職できる例が発生していきます。

中には、比較対象となる日本での魅力的なポジションが期待しにくくなる分、最初から完全に海外就職を大前提として活動する人もいます。

そうした方は、自分の海外MBA前の専門性を徹底的にレバレッジして、MBA採用の典型的な企業ではなく、待遇も必ずしも圧倒的なものではないながらも、日系の資本が入っていない海外企業の海外拠点における就業機会をうまく勝ち取ることがあります。

類似の事例がこういった学校卒で複数あることを把握しています。

一般論として、以下の記事にも書きましたが、日系の資本が入っていない海外企業の海外拠点に海外就職するということは、妥協を孕むケースが多くなります。

キャリアに関わる構成要素は地理・業界・職掌の3つあります。

地理を変える難易度が3つの中で通常最も高く、そのためには業界や職掌は元々のものをある程度貫く必要があることが多いですので、これが妥協に当たる可能性があります。

そして、場所にもよりますが、給与水準を妥協しなくてはいけなかったり、あるいは見かけの給与水準は高いがその分生活コストも恐ろしく高い、などもよくある話です。

但し、言わずもがな、海外MBA前のキャリアが強ければ強いほど当然海外就職には有利ですし、ごく一部の真の猛者(既に日本の「魅力的」な仕事を海外MBA前に担っていた方々等)の辞書には妥協という文字が全くありません。

また、ビジネス以外の高度な特殊技能を有していると有利になる場合もあるでしょう。

こうした例外はさておき、以下の要素ゆえに、どうしても日本に帰るという選択肢が合理性を増してきてしまうのが、海外MBA後半戦に学生の多くが直面する現実です。

日本語を話せない外国人が参入しづらいという意味での言語の壁

・英語人材の不足ゆえに英語で仕事をリードできるだけでプレミアムがつく環境

日本の生活水準の高さ

家族を含むプライベートな事情



「海外就職したい」の真実

私も、海外MBA受験生で卒業後は海外就職したいという方にしばしば会いますが、内心、80%以上はその覚悟を疑っています(もちろん最終的には話を聞いてみて初めてはっきりすることなのですが)。

その想定のもととなる実際のケースとしては、以下のようなものがあります。

・有給無給如何を問わなければ実はフルタイム就職よりも難易度が大きく下がるインターンシップを数週間程度海外でやれれば満足してしまうケース

・現地に住むことが憧れなので、それが達成できる海外MBA期間だけで十分満足してしまうケース

・日本の企業文化や日本語で働くのが嫌なのが感情として先に来ているので、外資系企業の日本拠点で働ければ十分満足できてしまうケース

・業界と職掌を変えることなくむしろそれを己の強みとして戦う、という覚悟があるわけではないケース

・卒業後に大きなライフイベントを想定していて、それを海外に望んでいるわけではなさそうなケース

なお、パートナーが海外現地にいてとか、海外出身でとか、そういう話だと、話は全く別です。

では、日系の資本が入っていない海外企業の海外拠点における海外就職を勝ち取るのに海外MBA生が最も必要とするものは何か。

一言で言えば、周りに流されずに信念を貫き通す「執念」ではないでしょうか。

IESEの卒業生の一人、富士さんの以下の記事がそれを生々しく描写しています。

日本では発生しにくい書類落ちの嵐にもめげずとにかく何十社以上にも応募して、直接応募する以外にも先んじて外堀から固める意味でネットワーキングも入念に行う。

そして、日本拠点の企業から採用通知が来ても、オファー回答期限との兼ね合いで一度そのオファーにサインした後でも辛抱強く、場合によっては卒業後までしぶとく残って機会を模索することを求められるパターンが多いです。

日本拠点の典型的なMBA採用企業の場合、卒業が5月のプログラムだとすると、あくまで一つの目安ではあるものの2月の頭にはオファーに回答していなければいけないケースも多いです。

それに対し、海外就職の場合は、卒業前後に跨るケースが多いです。

当然、現地の人ではなくてあえて日本人を雇用する理由を証明する必要があるため、「執念」があれば全部何とかなるかというとそういうわけでもないので、そこが難しいところではありますが。


言語能力とビザと海外就職

とはいえ言語能力が障害にならないことはないだろう、とお思いの読者も少なからずいるでしょう。

現地で暮らしていくにあたっては生活に最低限必要な英語さえできればどうにかなるため英語のレベルはさほど関係ありません。

結局は英語を使って組織内外と滞りなく仕事ができる能力があるかどうかが海外就職できるかどうかの大きなポイントです。

だからその訓練を留学中に積むことになる海外MBA生が全員海外就職できるはずだ、という安易な議論をするわけではありません。

例えば、私はこの組織で特に問題なく仕事できており、性質上日本に関係しない仕事が7割以上(?)を占めますが、私の組織は英語ネイティブが圧倒的に多いとは言えない組織です。

また、もっと頻繁に複雑な議論を内外で要する組織も当然たくさんあり、その場合はおそらくそこで日本人として生存する難易度が大きく上がるでしょう。

また、言語面以外で、現地の商慣習への深い理解が圧倒的に高いレベルで求められる戦略コンサル、プライベート・エクイティ、ベンチャーキャピタルあたりで海外就職を成し遂げる難易度は、その他の金融分野やテクノロジー等の業界に比べると、俄然高くもなるのが一般的です。

一口に海外と言っても組織の性質によって求められる英語のレベルに差は少なからずあり、それによっても海外就職(ここではどちらかというと就職できるかより活躍できるかの意)の難易度は異なるということです。

なお、欧州の場合、英語以外の大陸言語も障壁になるのではという指摘もあるかもしれません。

ですが、ロンドン、アムステルダム、スイスとドイツの複数都市、厳密には欧州域外ですがドバイなどは英語だけで働けます。

スペインも感覚的には3割弱の就業機会はビジネスレベルのスペイン語を要しません。

私の組織も公用語は英語、但しスペイン語ができると一層快適、といった感じです。

例えば、スペインの学校に行ったからスペインにしか就業機会がないということは全くなく、欧州の場合シェンゲン協定の名の元、とにかく互いが連結しあっているので、これらの都市の就業機会にも十分アクセス可能です。

さすがに米国でのフルタイム就業機会に期待すべきではありませんが。

実際に、IESEを卒業直後にアジア人で欧州にて就職している学生も、殆どはスペイン国外、特に英国とドイツとスイスが多い印象です。

なお、欧州では、就労ビザについては、MBA採用に慣れている大企業であればさほど問題になることはないですが、スタートアップを含む中小企業であれば不確実性に晒されるケースが多くなるというのがこれまでの状況でした。

米国は、トランプ政権の下、留学生にとってこの就労ビザのリスクが欧州を上回るものでしたが、この状況はバイデン政権の下、改善されていきそうな雲行きもあります。

ただ、地域を問わず、新型コロナウィルスの影響のため、会社側が就労ビザの発給支援に難色を示していたりそもそも地域外からの採用を絞っている流れもあるという話も昨今聞きますので、読み辛いところではあります。

なお、学校を卒業した後に仕事を探したり働ける期間に充てられる、一部の国における実質学校付帯のビザ(期間は国により異なるが、目安1-2年)について。

実はどんなにビザの条件が恵まれていようと、最終的には必ずしも日本人には関係しないことが多い印象です。

日本に帰国すれば良い待遇の仕事が見つかる可能性が高い中で海外MBAを卒業してから実質学校付帯のビザを使って年単位で現地に残って職探しをしたりする日本人が希少です。

また、海外に残るとしても就労ビザ(実質学校付帯ではないもの)の発給を支援することが前提の企業を好む日本人が特に上位校の場合多かったり、実質学校付帯のビザ期間後のキャリア形成に難しさを見出す日本人もいたりすることが背景にあると考えられます。


新型コロナウィルスと海外就職

新型コロナウィルスの影響で、地理を変える難易度は暫くの間、高い状況が続くものと予想しています。

それに対し、新型コロナウィルスによって海外MBA採用の日本国内の市場は特に冷え込んでいません。

本稿の本筋ではありませんが、改めて、このウィルスが格差を助長するものであることと特定の業界へ強烈な爪痕を残すものであることがここからも伺えます。

こういった時流から、日本人の海外就職は更に減少し、危機時にはキャリアを安全な方向に持っていこうとする日本人の気質に鑑み海外MBA生の卒業後のキャリアの均一化が加速するものと予想しています。

それでも自分が海外就職したいという思いを持っているなら、その根底にある要素は何なのか、その優先順位はどうなっているのか、という点をしっかり整理していく必要があるのではないでしょうか。

特に、新型コロナウィルスの影響を受けて、今後は、どこで働くかよりも誰と誰のためにどんな働き方をするかが重視されるであろうことも加味した上でです。

例えば、現状全てがオンラインの私の仕事について、本日現在ロックダウンのロンドンに自宅を構えてそこで同じことをリモートでやっていれば海外就職で、東京だと海外就職ではないのか、という話など。

とはいえ、個人的には、日系の資本が入っていない海外企業の海外拠点における海外就職が、この状況下においても、色んな学校にてもっと増えて欲しいと思っています。

ひいては、それが日本人のグローバルにおけるプレゼンスの強化にも間違いなく繋がっていくでしょうから。

また、本稿では海外MBA卒業直後の海外就職の可能性のみに言及していますが、実績を新たな職で積んだ卒業数年後の方が可能性が広がる場合があることも一言だけ言及しておきます。

海外就職のためには、英語力のせいに安易に帰結させるのではなく、それ以上に、執念が大事なのではないか、というお話でした。



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