わくちゃんの冒険③〜大風がおしえてくれたこと
わくちゃんは冒険を続けていた。
自分の中から湧き出てきたわくわくの炎を絶やさないようにしながら、まっすぐまっすぐ歩き続けていた。
わくちゃんの足取りはいくらか頼もしくなったろうか。少なくとも、冒険に出る前のわくちゃんはもうそこにはいなかった。歩くことをためらわなくなった者の足取りは、生き生きとした力強さがあった。
なんと言っても、わくちゃんは頼もしい装備も新たに身に着けていた。
それは「まもるくん」が形を変えた姿だった。
一緒に旅をしていたまもるくんは
ある日、わくちゃんの体を守る防具の姿へと形を変えたのだ。
「ねぇ、わくちゃん。
僕、君と別の存在である必要がなくなったかもしれない。
本来、僕と君は一心同体だったんだよ。
君の中にも僕が息づいているし、僕の中にもしっかり君が息づいているのが分かった。
思い出したんだ。
これからも、君の信じる道を進めば、絶対大丈夫だよ。
怖がらなくて大丈夫さ。
これでお別れってわけじゃない。
僕は防具になって君のことをこれからも守る。君の一部となって。
だからこれからも僕らはずっと一緒なんだ」
こうしてまもるくんはわくちゃんの体の一部となった。
まもるくんの実態はなくなったけれど
わくちゃんは一人になったとは思わなかった。
自分の中に大事なものがちゃんと息づいている実感があったから。
そうして冒険を続けていたある日。
ある森の中に迷い込んだ。
目の前に霧がかった空間がひらけた。
池のほとり、いや、湖岸のような‥水面はどこまで続いているか分からなかった。
そこが森の中にひっそりと存在する池なのか、深くて大きな湖なのか、はたまた海なのか、今いる地点からでは分からなかった。
わくちゃんはその場で足踏みし続けていた。
自分が今まで自分の足で歩いて地図を作ってきたこと、
自分でそこに足を踏み入れなければ
地図のその部分は空白のままになるであろうことを知っていた。
何だか、ずっと探していた大事なものがこの先にあるかもしれない‥。
そんな漠然とした感覚もあり、水の中へ入ってみたいという思いに駆り立てられていた。
けれどわくちゃんは水の中を泳ぐ装備が十分ではなかった。
陸地の歩き方はだいぶうまくなったが、水の中は足場がなく不安定。
このままこの水の中に入っていくことは命取りのように思えた。
自分の足をじっと見つめながら足踏みし続け考えあぐねていると
突然強い風がビュウ!と吹いた。
わくちゃんは突然の大風にやや体勢を崩し、改めて辺りを見回してみて気づいた。
「わたし、ずっとしばらく足元しかみていなかった…」
考え込んでいる間に、足元の一点しか見えなくなっていたのだ。
大風のおかげで少し落ち着きを取り戻した。
辺り一面もやがかかっているようで先が見えないが、水辺を歩いてみることはできるかもしれない。
物音はなくピンと静寂が張り詰めているが、そのうち誰かにでくわすかもしれない。
もしかしたら、水の中に入るための装備が見つかるかもしれない。
今は見えないけれど、歩き出せば色々な可能性があるーー。
まっすぐまっすぐ進んできた今までの冒険だったけど
少し回り道してみることだってできる。
準備を整えることだってできる。
先に進めなくなっちゃったと思い込んでいたけれど、
わたし、ずっと足踏みは続けていたんだ。
わたしの本心は、歩きたがっていたんだ。
わくちゃんは冷静になることができた。
自分の足が、これまで冒険してきた経験たちが、何よりの味方なんだ。
そして一歩を踏み出し水辺を歩いてみることにした。
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動けなくなった時は、
一点しか見えなくなっているかもしれない。
少し顔を上げてみよう
いくつかの「かもしれない」が
見つかるかもしれないからーー。
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