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読書ログ:アンソロジー(2024.03更新)

 ついった/えっくすに書き溜めていた読書ログです。
 コチラは、アンソロジーについて。

 ほかのカテゴリは下記にまとめています。

読書ログ:エトセトラ

読書ログ:シリーズあれこれ

読書ログ:ミステリ

随時更新中……


▼ ブリティッシュ&アイリッシュ・マスターピース

のっけから強烈。スウィフトの皮肉が効きすぎてもう「だって馬のひとだし。フウイヌムだし」と謎の狼狽。

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「アイルランド貧民の子が(略)」ジョナサン・スウィフト

読んで字のごとく「ひとを喰った」ような皮肉で狼狽える。このひと、ほんとうに人間きらいだったんだなあ。お馬さんのほうがすきだからなあ。フウイヌムだからなあ!

「死すべき不死の者」メアリ・シェリー

不老不死の苦痛という題材がとてもすき。『フランケンシュタイン』にも通じる、異端の生死がたまらない。

「信号手」チャールズ・ディケンズ

ディケンズは怪奇よりミステリの印象が強くって、この短編は何度読んでもどうしてもディケンズと覚えられない・・・なぜかポーの「ウィリアム・ウィルスン」と同じ引き出しに入れてしまう。

「しあわせな王子」オスカー・ワイルド

現代的な私は、その贈り物をどう売ってお金にするんだ、と思ってしまうけれど。社会風刺をひとならざる者に託すのは、ずるい。

「猿の手」ジェイコブズ

ただの民間伝承の類だと思っていたので、この短編は衝撃だった記憶が。猿の手は、欲に応じた叶え方しか、しない。

「謎」デ・ラ・メア

どうしてこんなにひっそりと、やさしく、穏やかに、消えゆく恐怖が語られるのだろう。まるで小野不由美の怪談のような。

「秘密の共有者」コンラッド

ひ・・・ひとが狂わないコンラッドは初めて・・・!笑 それとも、彼がひとを殺した時点で、それはもう狂っているということだったのだろうか。

「運命の猟犬」サキ

なりすましの罰としては、あまりにも重い。あの一晩の偽りで、終わりにできていれば。

「アラビー」ジョイス

思うように動いてくれない周りへの苛立ち。思うように動けない自分への苛立ち。そうか、これはしかつめらしい、ただの思春期なのか。

「エヴリン」ジョイス

家族の呪縛が自由に勝るとき、そのひとは愚かになるのだろうか。捨てきれないしがらみの恐ろしさ。

「象を撃つ」オーウェル

ひと握りの白人と、数多の現地人。ほんとうにつよいのは、どちらだろうか。

「ウェールズの子供のクリスマス」ディラン・トマス

この雑多さ、とりとめなさは、子どもゆえと言っていいのか。平凡なクリスマスは過ぎゆく。


▼ とうもろこしの乙女、あるいは七つの悪夢 ジョイス・キャロル・オーツ傑作選

桜庭一樹の帯に惹かれて買って積ん読してた『とうもろこしの乙女、あるいは七つの悪夢』読みました。思っていたより現実的。

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「とうもろこしの乙女」
とうもろこしの乙女たる美しい髪を持つことを「危ないのに」と思う彼女で物語は一変した気がする。妄執というより、性欲だったのかも知れない、と。

「ベールシェバ」
何が真実で、どれに意味があるのか判らない。誰が死んで、誰が生き残るのかも判らない。判ることは、根底にある復讐心だけ。

「私の名を知るものはいない」
鋭敏な少女だけが、妹の死の真実を知っている。けれど、大人にはきっと伝わらない。それとも・・・・・・あの猫すら、夢幻?

「化石の兄弟」
勝利したのは弟。生まれたときと同じ姿勢で、生まれたときとは違い、互いを受け入れるように死ぬ終わりが素晴らしいと思う。

「タマゴテングタケ」
今度は共倒れ。オーツの男の双子はどこまでも呪わしい。

「ヘルピング・ハンズ」
未亡人の愚鈍さと、傷痍軍人の粗暴さと。自分の欲ばかりのまま、理解し合うなどできはしなかった。

「頭の穴」
最後にスプラッタ・・・・・・!死こそが魂の解放、などと言うのはあまりにもきれいごとだけれど。


▼ 疫病短編小説集

 なぜか職場で入手したので、ようやく読み終えました。
 書き手も時代背景も異なるので、監訳された石塚さんの「解説」なしには私には太刀打ちできない短編たちでした。良質な解説なくして、自分の知恵と知識が追いつかない読書はできない……

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「赤い死の仮面」エドガー・アラン・ポー

まさかの架空の疫病! ポーらしい絢爛豪華で退廃的な描写が続くと思ったら、本当に「赤い死」は現実のものではなかった。死だけが現実として残されて終わる。

「レディ・エレノアのマント」ナサニエル・ホーソーン

ホーソーンの女性の描き方は苦手!!! でもマントから感染するという呪い染みた描き方は好き。あと伝染=共感という解説も好き。

「見えざる巨人」ブラム・ストーカー

ストーカーなので幻想譚ぽいのかと思いきや、しっかり批判的だった。「見えざる巨人」に神聖さを感じるのは、自分が「選別される側」だと思っていないからかもしれない。

「モロウビー・ジュークスの奇妙な騎馬旅行」ラドヤード・キプリング

たとえ生き残っても死者として扱われるインド。階級意識、人種差別が死の淵でも消えないイギリス。帝国主義の失敗がパンデミックになるのを「因果応報」と思ってしまう私は何様なのだろう。

「一介の少尉」ラドヤード・キプリング

主題のコレラより、解説にあった「ホモソーシャルな愛情を否定するために異性愛者にした」という発想のほうが考察しがいがある。異性愛と同性愛は両立することがあるだろうに。

「蒼ざめた馬 蒼ざめた騎手」キャサリン・アン・ポーター

病の内にあると、整然とした思考にならないのだろうな、という印象ばかり。

「集中ケアユニット」J・G・バラード

触れ合いなくして人間らしい情念は育たない、の極端な例というか。触れ合いなしに育てられるだけならそのまま死んでゆくのに、そこに「画面越しの刺激と満足」が加わることで、途端に殺し合う。これは滑稽なつくりごとか。


▼「文豪怪談ライバルズ!」シリーズ

▽ 刀 ─文豪怪談ライバルズ!

東さん編集の『刀 ─文豪怪談ライバルズ!』読みました。
いちばん好きなのは東郷隆さんの「にっかり」。その刀にまつわる「にっかり」とした笑い顔の人外もさることながら、その話をしてくれたという僧侶すら人外であったかもしれないという終わり。こういう奇談は大好き。
まだ私は刀に魅入られてはいないらしい。西洋剣より惹かれる自覚はあるものの、どうしても「刀」そのものに対する興味が薄い。おそらく、私は「道具」に対する思い入れがあまりないから。長く使いたいので実用性は考えるし、材質は気にするけれど、つくりの違いを理解して選ぶことはできていない。
2022年6月13日

▽ 鬼 ─文豪怪談ライバルズ!

東さん編集の『鬼 ─文豪怪談ライバルズ!』読みました。
初の「青頭巾」、原典からの京極さん版にやられる。「安達ヶ原」(「黒塚」)の手塚治虫版もすごかった。人外たる鬼と、異人をおとしめた鬼と、人が堕ちて成った鬼とをひっくるめて、日本に棲まう鬼なのだと実感する。
鬼は民俗学的な考察のしがいがあるところが好きです。現代の作品で、作中の〈鬼〉が〈逸脱した者〉のことか、本当の〈人外〉なのか、終盤まではっきりさせない民俗ミステリみたいなものがたいへん好きです。
2022年6月14日

▽ 桜 ─文豪怪談ライバルズ!

東さん編集の『桜 ─文豪怪談ライバルズ!』読みました。
赤江瀑さんの「平家の桜」のような怪しさが、私はいちばん好きです。存在し得ないところに現れる桜。〈山は異界〉にもつながる空気がたまらない。
桜の両面性は、端的に言えば「昼の桜」と「夜の桜」なのだと思う。日とともにある桜は、生を寿ぐ。月とともにある桜は、死を誘う。川沿いにずらりと並んだ桜は単なるコピーの群れにしか思わないけれど、1本だけぽつりと在る桜はきっと、根元に死者を抱えている。
2022年6月17日


▼ ガール・イン・ザ・ダーク

高原英理さん編『ガール・イン・ザ・ダーク』読みました。
時代や年齢や国籍や、ときには性別さえ問わず、「少女」である者が生み出すゴシックという歪み・闇・深み。楽園も煉獄も異界も、すべて「少女」が居るゆえのもの、かもしれないね。
2018年12月8日


▼ 街角の書店  18の奇妙な物語

表紙とテーマに惹かれて読みました。
作品も並べ方もすごくいいのですが、なかでも愛に溢れた作者紹介がとても好きです。たとえ本編が理解できないほど〈奇妙な味〉だったとしても、その紹介文だけで美味しい気がしてくるので!!!笑
2023年5月6日

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ジョン・アンソニー・ウェスト「肥満翼賛クラブ」

作者が〈経歴不詳〉というあたりから期待が高まる。夫を太らせて太らせて太らせて、最後に皆で喰す。その流れはむしろ王道かもしれないけれど、手の込んだ方法論と、最後の〈生食〉のグロテスクさが印象的。

イーヴリン・ウォー「ディケンズを愛した男」

〈未開の地〉でようやく会えた母国語話者に、永遠の朗読係にされる絶望! 「ディケンズは好きだが文字は読めない」とは、つまり本を読めるようになりたいのではなく、本を読ませる存在がほしいのだとじわじわ気づいていくのも恐ろしい。

シャーリイ・ジャクスン「お告げ」

ちょうど『ずっとお城で暮らしてる』を読み終えたばかりだったので、まさに〈奇妙な味〉が来るぞと身構えていた、ら……美しいハッピーエンドだーーー!!!??? 別の意味で衝撃的!!!笑

ジャック・ヴァンス「アルフレッドの方舟」

アルフレッドの「聖書の解釈」は当たっているだろうと思って読み進めて、最後の最後の晴れ間に戸惑う。解釈が外れていたのか、あるいは方舟に乗るのが彼本人でない限りは実現しないのか。後者であれば、引きずりおろした大衆の行動が正解と言えるけれど。

ハーヴィー・ジェイコブズ「おもちゃ」

自分の過去がすべて売り買いされているという、アイデンティティを揺るがす恐怖。なのに最後、「ひとつだけしか買えない」なら赤いトラックだけを買うという歪さがシュールでたまらない。

ミルドレッド・クリンガーマン「赤い心臓と青い薔薇」

語り手が異常かと思いきや、最後には同室の女のほうの異常さが勝る逆転劇。彼女の話は妄想かもしれないし、本物の化け物に取り憑かれたのかもしれない。後味が悪すぎて呆然。

ロナルド・ダンカン「姉の夫」

これがただの一人称視点であったなら、よくある話と言えるかも知れないけれど。亡霊であるはずの彼の内面の描写があったことで、自我があって自覚がなければ、結婚して初夜を迎えられるのかと、なかば感心してしまう。

ケイト・ウィルヘルム「遭遇」

いわゆる、成り代わり。けれど、成り代わったほうがまともに見えているのが皮肉めいているというか、そもそもそんな男など居なかったのかもしれないとすら思わせる。彼女が自分自身に「お誕生日おめでとう」とさえ言わなければ。

カート・クラーク「ナックルズ」

善なる神と悪神、サンタと対を成すナックルズ……! 結末の爽快感、だだっこの布石を含めて、すべてにおいてものすごく秀逸!! 好き!!!

テリー・カー「試金石」

満たされない者が魔に魅入られるのならそれもよしと思うけれど、満たされていながら余計なものに手を出すから気が知れない。最後の中身は、クトゥルフのようなイメージが湧いてくる。人間の知らない進化を遂げた生物。

チャド・オリヴァー「お隣の男の子」

DJでもゲストの少年でもなく、全然知らないミスターの名前が出てくるのがとても恐い……! でも、そのせいで、最後に人間ではない描写が出ても、じつはそれほど恐くない。得体が知れないほど、恐い!

フレドリック・ブラウン「古屋敷」

得体が知れないほうが恐いけど、得体が知れなさすぎると恐くないんだなと判る。
個人的に近いのは、『断章のグリム』の村草さんの「アンデルセンの柩」……!

ジョン・スタインベック「M街七番地の出来事」

意志と凶暴性を持ったチューインガム、という字面の強さ。けれどもチューインガムであるがゆえに、ある種のコミカルさが拭えない。いや、ちゃんと死ぬ確信がないのは恐いのだけれど。恐いのだけれど!

ロジャー・ゼラズニイ「ボルジアの手」

短さも相まって、どこか民話のような印象が強い。萎えた手の代わりをもらって、成功譚になるならいいけれど。

フリッツ・ライバー「アダムズ氏の邪悪の園」

途中で突然SFになったのかと思ってビッッックリしたァ……!!!笑 体感では何百年何千年何万年経ったように思っても、現実では数日で、そしてその数日で、ヒトの肉体など簡単に死ぬ。死んでくれてありがとう。

ハリー・ハリスン「大瀑布」

得体の知れないと思っていたものが、前提がひっくり返されて、得体の知れたものに逆転する背筋の寒さ! 文字だからこそ起こせるミスリード、否、映像のほうがもっと恐いのかも知れない。とくにHELPのくだり!!!

ブリット・シュヴァイツァー「旅の途中で」

タイトルから何も伝わらない、のに、中身はとても強烈。固まったままの体と、もげた頭。自らの肉体を、その口で噛んで固定しながら、あるべき場所へと向かう頭部が、私には諸星大二郎さんの絵で浮かんできます。。。

ネルスン・ボンド「街角の書店」

存在し得ない書籍が並ぶ書店、というアイデア自体は既視感があるものの、肉体のある身では書けないほどの傑作、というジレンマがたまらない。肉体のある身では、それらの傑作が読めないということも。

シャーロット・ブロンテの〈傑作〉は、私も読みたい。


▼ 穏やかな死者たち シャーリイ・ジャクスン・トリビュート

たしかにジャクスンの気配を感じる短編がひしめいていて、いい意味で読み進めるのに異様に時間がかかりました。どの物語にもそれぞれ粘度があるというか。
好みなのは、家の悪意を感じるエリザベス・ハンド「所有者直販物件」、合理的な生贄のベンジャミン・パーシィ「鬼女」、珍しい数学統制のジョシュ・マラーマン「晩餐」、異様な存在がだんだん愛おしくなるジェフリー・フォー「柵の出入り口」です。
2024年1月15日


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