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〖小説〗真実の魔法

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気軽に楽しんでください🌈🍀😊


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1.夢


 バサッバサッバサッ…………。わたしは紫色の空を勢いよく飛んでいた。ラベンダーの香りを吸い込みながら。銀色に輝く森や、マゼンタの海も広がっている。周りではたくさんの仲間たちが遊んでいた。

 ああ…………なんていう爽快さ! わたしのこの力強い体で、ずっと飛び続けたい! 誰もわたしをさえぎることなど出来ないんだから────。

 その時、海の向こうから、ものすごい風が吹いてきた。わたしは強力な魔法を風から感じ取った。強風は、わたしの体を突き抜け、全身をかけめぐっているエネルギーを奪い取り、消え去った。

 一瞬の出来事だったのでわけが分からず、しばらくぼうぜんとしていた。周りの仲間たちも同じ目にあったみたい。

 しかし、じわじわと、さびしい気持ちが訪れてきた。なぜなら、わたしの魔法が奪われたから

 でもその感情は長くは続かなかった。今度は灰色の霧がゆっくりとやってきたのだ。その空気を吸うと、わたしは魔法を持っていたことも、魔法を奪われたことも、忘れてしまった。



2.リリック


 はっとして目が覚めた。体中びしょびしょだ。まるで、わたしの体が丸ごと熱帯雨林に変わってしまったみたい。

 わたしはしばらく天井を見つめて、今見た夢を思い返した。ラベンダー、シルバーの森、海、風が吹いてきて、ええっと、それから…………

「大丈夫? ヴァイオリー?」

 双子の兄・リリックがドアを開けて入って来た。まだパジャマ姿で、わたしとおそろいの赤毛はくしゃくしゃで、うんざりしているような顔からすると、さっき無理やり起こされたようだ。

「どういうことなの? 大丈夫?って」
 と、わたし。

「とぼけてるのか? ヴァイオリーの悲鳴で、世界中がたたき起こされるかと思ったよ」リリックがわたしのベッドに腰掛けて言った。

「わたし…………悲鳴あげてたの?」

「あったりまえ! ヴァイオリーが悪夢にうなされてたとしても、ぼくだって夢見てたんだからね。その夢もちょっと悪夢っぽいかも。ぼくは馬の姿で、草原にいたんだ。そして、風か吹いてきて…………ぼくの力を抜き取って行っちゃって、それで────」

「待って! その夢に出てきた空は、紫色だった? シルバーの森とか、マゼンタの海とかあった?」わたしはドキドキしながら尋ねた。

「空はよく見てないけど、そうだったかもな…………。森や海も確かにあった。…………ちょっと待てよ…………なんで知ってるんだ?

 驚くリリックの目をじっと見つめ、わたしは打ち明けた。

「わたしもまったく同じ夢を見たの」

 まるで、今の言葉が世界を静かにさせる呪文みたいに、静まり返った。

「…………それって、最高だな!」
 リリックが沈黙を破り、叫んだ。

「信じてくれるの?」
 わたしは驚き、安心した。

「あったりまえさ! なんだか、双子ならではの能力みたいだな。ワクワクしてくるよ!」
 と、リリック。

 リリックって、もう最高!



3.魔法を使えるのは……


 朝ごはんのとき、お父さんが新聞を読みながら言った。

「ミスター・ラグズベリーがまた魔法を使ったようだ。雨が降らない地域に雨を降らせ、たくさんの人びとを救い、彼の魔法でも出せない貴重な宝石をどっぷりもらったらしい」

「わあ、すごい!」と、わたし。
「わたしも水の魔法、使ってみたいなあ!」

「でも、魔法は、魔法使いしか使えないことは誰でも知っているわ」
 オリーブと、豆のサラダを運んできたお母さんが言った。

「そうだけど…………わたしも魔法使いかもよ!」

 わたしの言葉に、お父さんはやれやれというように、首を横に振った。

「それはありえないんだよ、ヴァイオリー。魔法をつかえるのはミスター・ラグズベリーと、その仲間だけなんだ。それに、ずうっと昔に彼らが成し遂げた偉業があるだろう?」

「悪い魔法使いがおそってきたとき、ミスター・ラグズベリーと、その仲間たちが力を合わせて立ち向かい、みごと勝利し、悪い魔法使いをガラス玉に封じ込めたんでしょ」
 と、わたしが答えた。

「そうだ。彼らは、そのガラス玉を今でも安全に保管してるんだ。このことは、この国の誰でも知っているよ」



4.魔法の真実


 朝ごはんのあと、わたしは図書館へと向かった。リリックとまったく同じ夢を見た原因を知るために。見つけたとしても、信じられるかは分からないけど。それに、本も読みたいし。

 図書館の前では、ミスター・ラグズベリーが魔法を使って、図書館をいろいろな形に変身させているところだった。そう、彼はこの近くにすんでいるのだ。

 図書館は氷に変わったかと思えば、小さくなったり、ジャングルのようになったり。

 ミスター・ラグズベリーの周りには人だかりができ、図書館にいる人たちも、変身していく館内を歓声をあげながら眺めている。

 ただ一人、カウンターでドッカと座り、クリーム色のワンピースを着た、館長のミセス・ベネットを除いて。なにやらブツブツつぶやいているようだったので、わたしは本を探しているふりをして聞き耳を立てた。

「ミスター・ラグズベリーが大嘘つきだってこと知ってるのは、私だけかしらね」
 ミセス・ベネットは、はあっとため息をついた。

 ミスター・ラグズベリーが、大嘘つき?

「昔はみんな、魔法を使えたのに…………」

 昔はみんな、魔法を使えた?

 わたしは本を探すふりをやめ、ミセス・ベネットに尋ねた。

「あの、ミスター・ラグズベリーは、大嘘つきなんですか? 昔はみんな、魔法を使えたんですか?」

「えっ? あらまあ、聞こえちゃったのね」
 ミセス・ベネットは、横からいきなり飛び出してきた少女に目を丸くした。

「盗み聞きはよくないって分かってるんですけど…………」と、わたし。

ミセス・ベネットは少しの間考え込み、それからよいしょと、立ち上がった。

「ばれてしまっては、もう、どうしようもないわね。さっきの独り言は、本当よ。私のおじいさんが教えてくれたわ。彼は生きていた頃、ミスター・ラグズベリーの仲間だったの。その頃は、多くの人が魔法を使えたし、ステキな魔法生物もわんさかいたのよ!」

 わたしはそれを聞いて、目を輝かせた。魔法生物だなんて! 昔はユニコーンとか、ケンタウロスとかいたんだ!

 ミセス・ベネットは先を続けた。

「けれども、ミスター・ラグズベリーたちは、自分たちだけが魔法を使えたほうが、偉くなれるし、もうかるって考えたの。それで、禁断の魔法を使ってみんなの魔法を奪い、魔法を持ってたっていう記憶も消し去ったってわけ。」

 わたしは、どこかで聞いたような話しだな…………と、思っていた。…………あ! 夢だ! 夢の中で、わたしは魔法を奪われ、魔法の記憶も無くしてしまったんだ…………。

 わたしは緊張しながら、ミセス・ベネットの話しに耳を傾けた。

「みんなから奪った魔法は、ガラス玉の中にあるの。つまり、悪い魔法使いはガラス玉に閉じ込められてなんかいなくて、ミスター・ラグズベリーの偉業は、全てウソよ!」

 そのとき、誰かの視線を感じ、振り向いたが、誰もいなかった。まあ、気のせいか…………。

 わたしは、ミセス・ベネットに質問した。

「でも、それなら、ミスター・ラグズベリーの仲間のおじいさんは魔法を使えたんでしょ? そしたら、孫のあなたも、魔法を使えるんですよね?」

「いいえ」と、ミセス・ベネットは首を振った。「おじいさんは使えたけど、生まれてきた子供たちはみんな、ミスター・ラグズベリーから魔法を奪われるの。人びとは、魔法使いに洗礼を受けると、思い込んでるの。今でもね!」

「もう一つ、質問しますね。」と、わたし。「ミスターラグズベリーって、すごくすごく長生きですね。あなたのおじいさんが生きていたときにいたのに、今もまだ、若々しいですよ!」

 ミセス・ベネットはふふっと笑った。

「あら、その答えは簡単よ。だって、彼、魔法使えるもの」

 わたしはいろいろな真実を知って、興奮した。ミセス・ベネットが嘘をついてるかもしれないと思ったけど、でもやっぱり本当だと思う。────わたしの夢と同じだし、前から、ミスター・ラグズベリーの偉業もなんかあやしいと感じていたしね。

 これからどうすればいいか分からないけど、もともとみんな魔法を使えると知り、ワクワクしていた。

 ミセス・ベネットにお礼を言い、それから、リリックと同じ夢を見た理由を調べるために、本棚へ戻る。

 とつぜん、ミセス・ベネットがきゃっと小さく叫ぶ声がした。急いで駆けつけると、そこには、ミスター・ラグズベリーとその仲間一人が立っていた。わたしはあわてて、サッと本棚に隠れた。



5.追跡


 みんなの魔法を奪った張本人──ミスター・ラグズベリー──は、丸々太ったクリーム色のトカゲをわしづかみにしているところだった。あれがきっと、ミセス・ベネットだ。魔法でトカゲにされちゃったんだ。

「こいつがオレらの秘密をしゃべってたっす。」
 手下が、トカゲを指さして得意げに言った。

「つまり、他にも誰か秘密を知っている人がいる、ということだな? そいつも捕まえたか?」
 と、ミスター・ラグズベリー。

「えっ? ああ、捕まえてないっす。よく見てなかったもんで」

 手下があまりにも軽くいうので、ミスター・ラグズベリーは憤慨し、喧嘩になった。わたしはこのすきに、トカゲのミセス・ベネットを取り返せないかと思ったけど、人間に戻すことができるのはミスター・ラグズベリーたちだけなので、やめておいた。

 しばらくすると、悪の組織たちは図書館を出て行った。わたしは長い髪を一つにまとめ、彼らをこっそり追いかけていった。



6.黄金の部屋とオーロラの部屋


 ひとしきり歩いた──なぜか、彼らは魔法を使って移動しなかった。そのおかげで、わたしはやすやすと後を追うことができた!──後、一同は粗末な小屋に到着した。大嘘つきグループが先に中へ入り、数秒後、わたしもあとに続く。

 小屋の中はとてつもなく広々としていて、宮殿のようだった。しかも、全てが黄金で出来ていた! 悪いやつの家なのに、感動するほど、美しいゴールドだった。壁、柱、天井、シャンデリア、玉座のような椅子、大きなテーブル、じゅうたん、家具…………。隅には、眠っている巨大な黄金の蛇までいる。

 手下はどこかに消え、ミスター・ラグズベリーはトカゲをつかんだままひゅっと飛び、高いところにある玉座へ座った。トカゲはジタバタあばれている。わたしは柱に隠れながら玉座のほうへ近づいていった。

 ミスター・ラグズベリーはトカゲを玉座の前へとはなし、逃げ出す前に指をパチンと鳴らした。

 すると、トカゲがくるっとまわり、ミセス・ベネットの姿に!

「やあやあ、ごきげんよう、レディ。」
 ミスター・ラグズベリーがにんまりと笑いながら言った。

「わっ…………私にそんな口聞かないでちょうだい。この…………マヌケな大嘘つきが!」
 ミセス・ベネットは、勇敢にも、こう返した。

 その後も二人は何かを言い合っていたけど、わたしの耳には入ってこなかった。玉座の後ろにある扉を見つけたのだ!

 その扉を開け、中に入ってみると、さっきの黄金の部屋とは、まったく違う雰囲気だった。

 壁や天井は夜空のようにキラキラと輝き、空中で色とりどりのオーロラが漂っている。部屋の中央には、オーロラの光を反射しているガラス玉が浮いていた。わたしは吸い込まれるようにガラス玉に近づいていった。

 すると、ガラス玉は紫に光った。そして、どこからか声が聞こえた。

「こんにちは、小さな妖精さん」

 その声はとても美しく軽やかで、歌っているみたいに話した。



7.愛のパワー


「誰?」
 わたしは辺りを見回したけど、誰もいなかった。

「あなたの目の前にいるガラス玉よ。あなたが来るのを待ってたわ」
 ガラス玉が、ここにいるよとアピールするように強く光った。

「待ってたんですか? じゃあ、わたしが来ること、知ってたの?」
 わたしが尋ねた。

「もちろん」ガラス玉がクスクス笑う声が聞こえた。
「私の中には予言の魔法も入ってるからね」

 この言葉を聞いて、わたしはやっと、目の前を浮かんでいるガラス玉と、ミセス・ベネットの言っていた魔法が入ったガラス玉が同じだということに、気づいた。

「あなたの中には、この国の人びとの魔法が入っているんですよね」
 と、わたし。

「ええ、そうよ。もちろん、あなたの魔法も入ってるわ」
 と、ガラス玉。

わたしの魔法?

「当たり前よ! だから、私の中にある魔法を解き放ってほしいの」

 わたしの心臓がドクドク波打つ。わたしにも魔法があること、忘れてた!

「どうすればいいの?」
 と、わたしが聞く。

「愛よ。愛のパワーで、魔法は自由になるわ」

 ガラス玉がそう答えた瞬間、悲鳴が聞こえた。

 わたしは、ガラス玉を両手で包み込むように持ち、部屋を出た。ミスター・ラグズベリーに見つからないように、黄金の部屋を駆け抜けていく。笑っている彼の目線をたどると…………ミセス・ベネットが蛇に追いかけられている!

 金と緑の模様が入った、体長約六メートルの大蛇がゆっくりと這っている。その先には、狂ったように逃げまどうミセス・ベネットがいた。しかも、もう決着がつきそうになっている。蛇が、こわくてとうとう気絶してしまったミセス・ベネットに巻き付いていたのだ!

 わたしはこっそり蛇の背後に忍び寄り、太い尻尾をぐいっと引っ張った。こちらに意識を向けさせようと思ったからだ。

 途中まではうまくいった。蛇がこちらに気づき、ミセス・ベネットから離れていく。でも、逃げるまもなくやすやすと蛇に捕まえられてしまった。

 気絶したミセス・ベネットと、わたしの体に蛇が巻き付いた。遠くて点のように見えるミスター・ラグズベリーは、お腹を抱えて笑っている。わたしはガラス玉をギュッと握り、次に何が起こるのか待ち構えた。

 すると、驚いたことに、蛇はミスター・ラグズベリーに手品を披露した。わたしたちを飲み込むと見せかけて、本当は逃がしたのだ!

 蛇はわたしたちにウインクをしたので──実際にしたかどうかは分からないけど、そう見えたのだ──、わたしもウインクを返した。



8.わたしの魔法


 次の日の朝、わたしは背中にちっちゃな羽があることに気づいた。鏡にも映っているし、さわり心地もすごいリアル。思わず悲鳴をあげそうになったけどなんとかこらえた。お父さんやお母さんに見つかったらまずい。きっと受け入れてもらえないだろうから。リリックには言っても大丈夫かな?

 八センチほどの羽は、綺麗なブルーで、今まで触ったものの中で一番柔らかい。パタパタと動かせるけど、あまりにも小さいので飛ぶことはできなかった。

 ベッドの下に隠してあるガラス玉を見てみると、小さなひびが入っていた。羽のことと何か関係がありそうだけど…………何だろう?

 その時、ガラス玉の言葉を思い出し、全て理解した。彼女は、愛のパワーで魔法が解き放たれる、と言っていた。そして…………ミセス・ベネットを助けようとしたことが愛なんだ!

 リリックにこのことを伝えるために、部屋から出た。両親にバレないように背中を隠しながら廊下を歩く。玄関のドアを開けると、外でリリックが木に登って本を読んでいるのが見えた。

「リリック、見せたいものがあるの!」

 わたしが叫ぶと、リリックは木から下りた。

「見てっ!」
 わたしは背中の羽をパタパタさせた。

「えっ? 羽の飾り?」
 リリックはクスクス笑う。

「これはね、本物の羽だよ!

そしてわたしは、昨日と今朝起こったことを全て話した。嬉しいことに、リリックは信じてくれた!

「ヴァイオリー、やったな!」
 リリックが顔を輝かせて言った。

 わたしは嬉しくて、羽がどんどん大きく成長していった。しかし、リリックの一言で、喜びがぶしゅーっとしぼんだ。

「父さんと母さんにも見せようよ!」
 と、言ったのだ。

 それから、わたしの手を取り、家の中へと引っ張った。

「だっ…………だめ! きっと、信じてくれないし…………」

「こんな素晴らしいこと、嫌がる人なんていないさ!」

 リリックは自信満々に言い、わたしを半分引きずるようにして、家の中へ入った。



9.リアクション


 けれども、リリックの言うとおりにはならなかった。

「羽? どこで買ってきた飾りだい?」
 お父さんが言った。

「買ってきたわけじゃないの。生えたの
 と、わたし。

 リリックのほうを見ると、大丈夫、とうなずいている。わたしもうなずき返し、先を続ける。

「図書館長のミセス・ベネットが教えてくれたんだけど、ミスター・ラグズベリーは、ウソをついてたんだ。本当はみんな、魔法を持っていて────」

「ミスター・ラグズベリーを嘘つき呼ばわりしてはいけないよ。彼は本当に偉大なお方だからね」
 お父さんはわたしに教え諭すように言った。

「でも、その偉業は、ウソだったんだってば! ガラス玉には、たくさんの人から奪った魔法が────」

「ふふふ…………ヴァイオリー、あなた、空想が得意なのね」
 お母さんが笑った。

 わたしは、はあ…………と、ため息をついて部屋を出て行こうとした。リリックは、まあしょうがないさ、と軽く微笑む。

 少しでも元気になろうと、羽を使って飛んでみた。…………しまった! ここはリビングだった! おそるおそる振り向くと、両親が口を半開きにして突っ立っていた。わたしはあわてて両足を床につけた。

「…………えっと、これで信じてくれた?」 
 おずおずと切り出す。

しばらくの沈黙の後、お父さんが、震える手で帽子とバックをつかみ宣言するように言った。

「ヴァイオリー、これから病院へ行こう。その…………ばかげた羽を治してもらうんだ」

 そしてツカツカと歩み寄る。わたしは驚いて後ずさりする。涙がほおをつたう。お母さんは恐怖の眼差しでわたしを見ている。リリックは見当たらない。

 お父さんは、なだめるように話しかけた。

「その羽は危ない。治してもらわないといけないんだ。…………大丈夫。治ったらまた家に帰ろう。何もかも悪い夢のよう────」

「ヴァイオリー!」

 リリックが走ってきて、わたしに何かを渡した。────きらめくガラス玉だ。

 わたしの体がふわりと浮かんだ。



10.自由


 翼がバサバサと動き、わたしは空へと昇っていく。風がビュービューと吹き、涙が乾いていく。わたしの両手の中には、まだガラス玉があった。

 すごく悲しくて、怒りが沸き起こる。心に穴が空いたみたい。

 ふと、前を向くと、真っ白に輝く太陽があった。とたんに、心がほっとして、また涙が溢れてくる。心配なんていらないね。ステキな仲間のリリックや、秘密を教えてくれたミセス・ベネットもいる…………。

 それに、何よりも、ずっとそばで支えてくれる…………わたしがいる。そして、素晴らしい魔法が────愛の魔法があるから、何も恐れなくていいって、気づいた。ヴァイオリー、あなたを愛してるよ!

すると、両手の中のガラス玉がパンっとはじけ、まばゆいマゼンタピンクに輝いた。わたしはとてつもない風に吹き飛ばされ、爽やかな空気に包まれる。最高な気分!

 薄い雲がわたしの周りをビュンビュンと過ぎていく。くるくると体が踊る。翼をばたつかせ、空中で起き上がった。

 なんだか変な気分…………前よりも視界が広くなった。手を見ると、ひづめに変わっている! 長い赤毛は消え、代わりにもっと長いたてがみが、風になびいている!

 なんてこと! わたし…………ペガサスになっちゃったんだ! これが、わたしの魔法…………。顔がにやついてしまって、止まらない!

 どうやら、体はミッドナイトブルーで、ひづめはシルバーのようだ。

 わたしは力強い翼を思いっきり上下させ、優雅に地上へと降りた。

 家の前には、ユニコーンがいた。たてがみは赤毛、体は白い。角は紫! と、ユニコーンが振り向いてこっちを見た。瞳はわたしと同じ緑。

「ヴァイオリー…………だよね?」
 ユニコーンが満面の笑顔で言った。

 わたしは首をぶんっと縦に降って叫んだ。

「リリック!」

 二人は駆け寄って抱きしめ合った。ペガサスとユニコーンのハグはどうやるんだろう? ぎこちなくても、わたしたちの愛は、十分伝わった。

「ヴァイオリー、君、夜空のペガサスだ!」
 リリックが言った。

「やったね! それに、わたしたちが見た夢、前世かなと、思うんだ」
 わたしは、魔法を奪われてしまった夢を思い出していた。
「ミスター・ラグズベリーが、たくさんの人びとの魔法を奪ったとき、生きてたんだよ、わたしたち」

「じゃあ、ぼくたち、前世でも双子だったりして!」と、リリック。

「きっと、そうだよ!」そしてわたしは、大事なことを思い出したので、付け加えた。
「さっき、ガラス玉が割れたんだ!」

「やっぱりね!」リリックはにっと笑う。
「だからぼくたち、こんな姿になったんだね」

 わたしはうなずく。
「それなら、他の人びとの様子も見に行こうよ!」

「その前にさ、父さんと母さんはどうなったんだろ?」

 リリックはいたずらっぽく言い、家へと向かった。わたしもおずおずと後に続く。

 両親は魔法の影響を受けていなかった──確かに、そんなこととは無縁の人たちだもんね──。だが、わたしたちを一目見るなり、目を丸くして気絶してしまった!

 街は、これまでにないほど魅力的だった。ある人は、辺りを花だらけにし、またある人は、空に虹をかけている。蛙たちと話している人や、体に骨がなくなってしまった人もいた。奇妙な植物が生え、庭の飾りのノームが動いている。空ではピクシーやグリフォンが飛び交っていた。

 ミスター・ラグズベリーが、また、みんなの魔法を奪おうとしていたけど、それは失敗に終わった。────人びとの愛に溢れた魔法が、もう二度と封印させるものかと、人びとを守っていたのだ。

「こんなの…………もう…………最高すぎる!」
 わたしはつぶやいた。




11.新たなるはじまり


「これから、どうする? 家には帰れないし」リリックがわたしを見て言った。
「ぼくは、早く、この体で思いっきり走りたいな!」

 わたしは魔法のおかげで新たに出来た草原をじっと見つめた。

わたしも、どこまでも飛び続けたい!

 それからわたしたちは、新たなる冒険に心をワクワクさせ、草原の地平線へと姿を消した。


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(9,017文字)







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