オバケのポコロ

昔々あるところに、小さなオバケのポコロがおりました。
ポコロはオバケになってからまだ日が浅く、右も左もわかりません。
先輩オバケに習って、オバケのいろはを学んでいます。

オバケたるもの、人を怖がらせなくてはなりませんから、ポコロも夜な夜な街に繰り出しては、ポツンと歩いている人間をワッと驚かすのです。
けれども、ポコロが出す弱々しい小さな声は、人間たちまで届きません。ポコロはだんだんオバケとしての自信が無くなっていってしまいました。
先輩オバケは一生懸命励ましますが、ポコロは泣いてばかり。
とうとう街へ行くのもやめてしまいました。

そんなある夜、ポコロが森をふわふわと浮いていると、どこからか小さな泣き声が聞こえてきました。
ポコロが声を辿ってみると、小さな女の子がひとりぼっちで泣いていました。

ポコロは声をかけるか悩みました。
いくら自信がないとはいえ、ポコロはオバケですから、怖がらせてもっと泣かせてしまうかもしれない、と思ったのです。
でも、泣き続ける女の子はあまりにもかわいそうで、ポコロは木の影からそーっと声をかけました。

「こんばんは。どうして泣いているの?」

女の子は泣くのをやめて、あたりをキョロキョロ見渡すと「誰?」と言いました。

「僕、オバケのポコロだよ。姿を見せたらびっくりさせちゃうから、木の影から話しているんだ」
「そんなの気にしないわ。ねえ、どこにいるの?」

ポコロはちょっと迷って、それからゆっくりと木の陰から出てきました。
女の子はポコロの姿を見ると、ニコーッと笑顔になりました。
そんな女の子を見て、ポコロも笑顔になりました。

「ポコロって、とってもかわいいわ!」と女の子が言いました。
ポコロはなんだか照れ臭くて、ヘヘッと笑うと指で鼻の下を擦りました。
それから、女の子に尋ねました。

「こんな時間に、どうして1人で泣いているの?」
「あのね、パパとキノコ狩りに来たのだけど、はぐれちゃったのよ。空はどんどん暗くなるし、森はざわざわ鳴っているし、とっても怖かったの」
「それなら僕が街まで案内してあげるよ」
「まあ嬉しい! ありがとう、ポコロ!」

それからポコロと女の子は、歌を歌いながら森を歩きました。歌っていれば、暗い森もちっとも怖くありません。

やがて街明かりが見えてきたころ、どこからか女の子を呼ぶ声が聞こえてきました。

「ここまで来れば大丈夫だね」とポコロは言いました。
「どうして? 一緒に来てはくれないの? パパもあなたにお礼が言いたいと思うわ」
「うん、でも、僕はオバケだから、人間を街まで見送ったなんてバレたら、怒られちゃう」

それに、あれほど人間を怖がらせたいと思っていたポコロは、今はもうどうしてかそう思うことができませんでした。

「じゃあ、今日のことは、わたしたちだけの秘密ね。それにわたし、また会いに来るわ! 」
「うん、またね!」

ポコロは走っていく女の子の背中が見えなくなるまでずっと手を振り続けました。

それからしばらくして、街に不思議な噂が流れました。
森の奥で道に迷っても、必ず帰って来られるらしい……というのです。
けれども無事に帰ってきた人は誰も、どうやって帰ってきたかを言おうとはしませんでした。
大人たちは、きっと心優しいオバケでも住んでいるに違いない、と噂するのでした。

おしまい

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春の毎日朗読会 開催中!
◆日時◆
4月中毎日22:45頃
◆場所◆
鳥谷部城のLINELIVE「とりっぴらいぶ」
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◆内容◆
本noteに投稿された短編を、その日の夜に朗読いたします。一読だけでどこまで表現できるかの挑戦です。よろしければぜひご覧ください!

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【脚本】たかはしともこ(@tomocolonpost)
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【出演】鳥谷部城(@masakimi_castle)
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