【終章】プリンス、そしてプリンセス

「危ない!」と子ネズミのシュウが叫んだ。続けて子ウサギのマイも「避けて!」と言った。恐ろしい魔法使いのトムハン・クスが、アタシの命を狙っている。緑の大きな炎が、アタシ目がけて飛んできた。間一髪避けたけれど、大事な長い髪が燃えてしまった。ショートカットになってしまったアタシでも、それでも目の輝きだけは失っていない。だってアタシは念願の「悪い魔法使いに襲われる女の子」になれたんだから! あとは王子様が助けに来るまで生き延びるだけよ。

物陰に隠れ、やり過ごすアタシ。シュウとマイは髪の毛を失ったアタシを心配してくれている。ありがと。かわいい小さなアタシのトモダチ。

クスは恐ろしい呪いの歌を歌いながらアタシを探している。でもアタシは負けない。クスに、この国の知の結晶、アルル・マ・ミドゥーを渡すわけにはいかない。これがやつの手に渡ったら、この国はもうおしまい。全部思うがままにされてしまう。そんなの、許しちゃいけない。絶対に、クスのお思い通りになんてさせないんだから。アタシは手の中の小さな結晶をぎゅっと握り締めた。

するとマイが言った。「気が付かれたみたい!」

またも緑の炎が飛んできた。もうダメかもしれない。アタシはいよいよ覚悟を決めた。でも、シュウとマイだけでも守らなくちゃ。

――お願い、助けて…!

そこへやってきたのはアンディだった。アタシの危機に駆け付けたのは、王子様ではなくアンディだったのだ。

「アンディ、どうしてここに……」
「言ったろ。困ったときは、必ず助けに来るって」

アンディの湖のように深い青の瞳から、アタシは目をそらせなかった。胸がどんどんいっぱいになって、それから自然に歌い出していた。

出会った頃の二人~♪ 喧嘩ばかり~♪
運命なんてちっとも感じなかったの~♪
でも今~♪ 高鳴る胸の鼓動が告げるのは~♪
ねえ これは運命~?

アタシたちが歌い続けている間、世界は止まってしまっていた。だって、歌っている間に攻撃するなんて、とってもナンセンスですもの。アタシたちはひとしきり運命を確認し合ったあと、強く手をつないだ。アンディはどこかの国の王子様じゃない。でも、アタシにとっては、もうどうあがいても王子様だった。アンディこそ、アタシの探し求めていた王子様なのね……。

「随分待たせちゃったね。僕のプリンセス」

アンディはそう言うと、カバンからミラクル・ミラーを取り出した。

「これを探していたから遅くなったんだ」

ミラクル・ミラー。それはハリー・ウッドの洞窟に封印されていると言われる、魔法の鏡。姿を映された魔法使いは、たちまち煙となって消えてしまうの。さあ、これでクスはひとたまりもないはず。

アタシとアンディはミラクル・ミラーを高々と掲げた。シュウとマイもその小さな手を添えている。

「うわあああああああああああ!」という断末魔をあげ、悪い魔法使いのトムハン・クスは煙となって消えていった。あとにはそのマントだけが残されていた。

「アタシたち、ついにやったのね……!」

アンディは力強く頷くと、アタシにキスをした。それは、真実の愛のキスだった。アタシの思い描いていたプリンセスとはちょっと違うけど、でも、アタシは間違いなく、世界で一番幸せなプリンセス。これで、ハッピーエンドってわけ。

さあ、物語の最後はこうしめなくちゃ。こうして二人は、いつまでもいつまでも幸せに暮らしました。

おしまい

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