TO BE CONTINUED...

僕、勇者のサロス! これから悪い魔王をやっつけに行くよ。明日には世界が平和になっているんだ。なんてったってこの僕、勇者サロスが魔王を打ち滅ぼすんだからね! 

16歳の誕生日にお母さんから「実はあなたは勇者なのよ」って言われてから今日まで、かなり一生懸命に旅を続けてきた。伝説の武器と防具も集めたし、魔王城に渡るための古の道具も揃った。暗い洞窟の奥で死にかけたこともあったけど、僕は頑張った! どんな危険な目にあっても、最後には無事乗り越えたんだ。大きなケガもしたけれど、命は落とさなかった。すごいなあ。サロスはすごいなあ。

魔王をやっつけて世界が平和になれば、もうこんな辛い旅を続けなくて済む。みんなが安心して暮らせる世界。それを僕が作るんだ。これってすごいことじゃない? 僕は生まれながらにして唯一無二の存在なんだ。誰もが思春期に一度は自己同一性について悩むけど、僕は悩まない。だって僕は、世界にたった一人しかいない勇者だからね! 平穏を繰り返すような日常は、僕には似合わない。常に危険と背中合わせ。死んでしまえばそこで終わり。そういう危険が勇者サロスにはお似合いだ。

まあそんな完璧な僕にも悩みがあって。というのも、常に誰かから見られているような、そんな気配を感じるんだ。誰かが僕を見ていて、何かが僕を導くような、そんな気配。まあ僕ほどの人気者なら、常に注目の的だろうから、有名税ってやつかな。それとも魔王が僕を監視しているのか、はたまた女神様の加護か……。まあいい。あの日、勇者だと言われた日からずっと続くこの違和感も、魔王をやっつければおしまいだ。

いよいよ朝日が昇る。僕は仲間達と誓い合った。必ず生きて、そして家族のもとへ帰ろう。仲間達は深く強く頷いた。故郷の街の酒場で出会った三人の大事な大事な仲間達。戦士のオニーロ。僧侶のエルピーダ。それから魔法使いのフォス。彼らの協力があったからこそ、こんな死地までやって来られたのだ。行こう、と僕は言った。いよいよ決戦の時だ。

流石は魔王城。今までのダンジョンのように、一筋縄ではいかない。様々な罠や仕掛けが僕達を待ち構えていた。凶悪なモンスターが、休む間もなく襲いかかってくる。それらを必死にかいくぐり、僕達はとうとう玉座の間にたどり着いた。もう後には引けない。魔王は不敵な笑みを浮かべている。

斬撃や魔法の激しい応酬が続いた。魔王の繰り出す一太刀一太刀が、確実に僕達の命を削っている。一手を防いだかと思えば、その後ろでは魔王の唱えた呪文によって生み出された激しい炎が燃えている。魔王の腕に貫かれ、エルピーダがやられた。もう回復することはできない。フォスも魔力が尽きてしまった。魔法を唱えられないその一瞬を、魔王に狙われ息絶えた。オニーロは膝をつき動かなくなってしまった。その体は炎に包まれている。残ったのは瀕死の僕一人だ。それでも、逃げることは出来ない。

魔王がその手を大きく振り下ろした。もう避ける力は残っていないかった。勇者サロスは、世界の平和を守ることが出来なかったんだ。悔しい。僕は目の前が真っ暗になった。


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僕、勇者のサロス! これから悪い魔王をやっつけに行くよ。明日には世界が平和になっていることだろう。なんてったってこの僕、勇者サロスが魔王を打ち滅ぼすんだからね!

おしまい

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春の毎日朗読会 開催中!
◆日時◆
4月中毎日22:45頃
◆場所◆
鳥谷部城のLINELIVE「とりっぴらいぶ」
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◆内容◆
本noteに投稿された短編を、その日の夜に朗読いたします。一読だけでどこまで表現できるかの挑戦です。よろしければぜひご覧ください!

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【脚本】たかはしともこ(@tomocolonpost)
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【出演】鳥谷部城(@masakimi_castle)
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