チョコレートの生る木

その女の子はチョコレートが大好きでした。
大好きで大好きで、そしてとうとう自分のお店を持つまでになりました。

赤い屋根と白い壁が良く似合う、かわいらしいお店でした。

これで大好きなチョコレートが毎日でも食べられるわ、と女の子は思いました。それに、街の人もいつだって、美味しいチョコレートを手に入れることができるわ。

けれども、いくらチョコレートが大好きだからと言って、女の子は作るのが上手なわけではありませんでした。

始めのうちは、物珍しさからお店へやってきた街の人たちも、やがてその足は遠のいて行きました。

「あそこ、見た目はいいけど味がいまいちよね」というのが、街中の人の意見でした。

女の子はとっても悲しくなりました。このままでは、大好きなチョコレートが嫌いになってしまいそうでした。

星が綺麗な夜、女の子はポロポロと涙をこぼしながら、星にお願いをしました。

「どうか、美味しいチョコレートが作れますように」

翌朝、女の子が目を覚ますと、小さな庭に小さな細い木が生えていました。そしてその木にはなんと、チョコレートが生っているではありませんか。

女の子はびっくりして、でも恐る恐るそのチョコレートを一つつまんで口の中へと放り込みました。

チョコレートは口の中でほろほろと甘く溶けて、でもちょっぴり苦くて、今までで食べたどんなチョコレートより美味しいものでした。

次の日も、その次の日も、チョコレートは生り続けました。いくら食べても、無くなる様子はありません。

女の子は、とうとう、そのチョコレートをお店へと出しました。すると、それを買っていたお客さんは必ずまたやって来て、「こんな美味しいものが食べられるとは思わなかったよ」と言うと、何度でも買って帰ってくれました。

噂は噂を呼んで、女の子のお店には引っ切り無しにお客さんがやってくるようになりました。

「あそこ、見た目も味も最高よね」というのが、街中の人の意見でした。

それでもどうしてか、女の子はちっとも嬉しくありませんでした。お客さんが喜んでくれればくれるほど、どうしようもなく悲しい気持ちになったのです。

街の新聞記者が取材に来た時も、お金持ちが出資の話を持ち掛けた時も、隣町のチョコレート屋さんに褒められた時も、女の子の顔は晴れませんでした。

ある日とうとう、女の子は庭のチョコレートの木を切り倒してしまいました。そうしてお店の扉には「一か月お休みします」という看板を出しました。

もう庭に、あの木が生えてくることはありませんでした。

女の子はお休みの間中ずっと、チョコレート作りの練習をしました。それだけでなく、隣町に行って食べ比べて見たり、いろいろな材料の組み合わせを試してみたり、たくさんたくさん考えました。

そうして一か月後、いよいよお店の再会の日がやってきました。
外には、チョコレートを待ちわびた人々がたくさんいます。

女の子はすこしドキドキしながら、自分の作ったチョコレートをお客さんに売りました。
1日経って、2日経って、一週間経って、一か月経って、それでもお客さんは変わらずにやってきてくれました。

「あそこ、前よりもなんだか優しい味になったわね」というのが、街中の人の意見でした。

おしまい

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