退屈な雨の日に
ある雨の日のことです。
女の子がぼんやりと窓の外を眺めていると、一匹のカエルが声をかけてきました。
「お嬢さん。退屈そうですね。もしよかったら自分と友達になってくれませんか」
女の子はびっくりして、でも確かに長引く雨に退屈していたので、快く「ええ、もちろん」と返事をしました。そうするとカエルは、たいそう喜んでゲコゲコと鳴きました。
「雨の日ってとっても退屈で大嫌いなの。あなたは嬉しいでしょうけど。家中の本をもう全部3回ずつくらいは読んだかしら。それにお絵描き帳だって、全部埋まってしまったわ」
女の子はため息交じりにそう言った後、「でも」と続けました。
「あなたが来てくれたから、何か楽しいことでも起こりそうね」
「ええ、少なくとも雨の日は、こうして窓辺に参りましょう」
雨は毎日、しとしとと降り続けました。
カエルは毎日窓辺にやってきて、女の子に物語を聞かせました。それは、今までに聞いたことのないようなお話ばかりで、本を読むよりもずっと楽しいお話でした。
「あなたが来るのを、毎日楽しみにしているのよ」と女の子が言うと、カエルもまた「自分も、ここであなたに会うのを楽しみにしています」と言いました。
ある日、久しぶりの良いお天気の日がやってきました。
女の子はなんとなく、窓辺に座っていましたが、カエルはやってきませんでした。やがて、女の子の家のチャイムが鳴り、友達が外で遊ぼうと誘いにやってきました。女の子はピンクのボールを持って外へと遊びに行きました。
翌日、ザーザーと雨が降りました。
女の子は、じっとカエルを待っています。ゲコゲコと声がして、カエルがやってきました。
「昨日はあなたに会えなくて寂しかったわ。晴れている日はなにをしているの?」
「草葉の陰でじっと過ごしていましたよ。お嬢さんがお出かけになるのも見ていました」
そうだったのね、と女の子は言いました。
「久しぶりに外で遊んで、とても楽しかったわ」と言うと、カエルはゲコと鳴きました。
その日から、雨は降ったり止んだりを繰り返しました。相変わらずカエルは、雨の日には窓辺にやってきて、女の子とおしゃべりをしました。そして晴れの日には、いくら待ってもやって来きませんでした。
晴れが三日ばかり続いたある日、女の子のお母さんが空を見上げて「そろそろ梅雨も明けるわね」と言いました。女の子は良く晴れた空を見上げて、何とも言えない気持ちになり、雨が降るのを今か今かと待ちました。
やっと、雨が降りました。女の子が急いで窓辺へと向かうと、もうカエルが待っていました。
「こんにちは」とカエルが言ったので、女の子も「こんにちは」と返しました。
「梅雨が明けたら、あなたはどうなるの?」と、女の子は聞きました。
「普通のカエルのように、生きていくつもりです。もうこうして人の言葉をしゃべることもできなくなるし、あなたもきっと、自分と他のカエルの区別を付けられなくなるでしょう」
「そんなの寂しいわ」と女の子は言いました。
「いつか話してくれた物語みたいに、あなたにキスをしたら人間の王子様になったりはしない?」
「残念ながら、自分はただのカエルですから」
そうしておしゃべりをしているうちに、だんだんと雨がやみ始めました。
カエルは「楽しい梅雨をありがとう」と言いました。
女の子は「また会える?」と聞きました。
でも雨はもう、すっかり上がっています。
カエルは女の子の問いかけに応えることとなく、ただ「ゲコ」とだけ鳴くと、草葉の陰に消えていきました。
おしまい
*********
初夏の週末朗読会 開催中!
◆日時◆
毎週土曜日22時スタート!
◆場所◆
鳥谷部城のLINELIVE「とりっぴらいぶ」
https://live.line.me/channels/4844435
※LINE LIVEのアプリを入れていただくのをおすすめいたします
◆内容◆
本noteに投稿された短編の朗読会。
よろしければぜひご覧ください!
↓詳細は、Twitterをご確認ください。
【脚本】たかはしともこ(@tomocolonpost)
【出演】鳥谷部城(@masakimi_castle)
*********
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?