ホッキョクグマの聖地 スヴァールバル諸島
・スヴァールバル諸島とは
海は澄み、柔らかく青く大きな板状の白い氷が浮いている海を船が進みます。船は海氷と海氷の間をゆっくり進み、どきどき船が海氷とぶつかるドーンという音とともに振動が響きますが、浮いた氷で海の波は消されます。時折、断崖に営巣するミツユビカモメが上空を鳴きながら飛翔するのと船のエンジン音以外の音はなく、双眼鏡で氷の上に何かいないかを探します。黄色の動く点がないのかと探すのです。
遠くの氷にはおそらくセイウチやアゴヒゲアザラシであろう点が見えます。夏の北極圏は太陽が沈むことはありません。北極圏の柔らかい光でも、その光を反射した氷の白い世界はとてもまぶしく、船の後ろには氷河の浸食で削られた切り立った断崖の島々と陸地を覆う青い氷河が見えます。スヴァールバル諸島のスピッツベルゲン島北西部です。スヴァールバル諸島の6割は氷河に覆われています。3割は不毛の岩で1割だけ植生のある永久凍土の上のツンドラです。面積の最も大きい島はスピッツベルゲン島で、ロングイェールビーンという空港のある町があります。
1日中、海氷で黄色い動く点を探しましたが、見つかりません。もちろん、その黄色い点とは北極圏の王者であるホッキョクグマです。ふだんは海氷の上でアザラシを探しているホッキョクグマですが、夏の暖かさで氷が溶けるとこのスヴァールバル諸島の陸地で海岸線を長い距離歩き、海流によって流されてきた魚や鯨の死体を探します。また断崖では無数の鳥が繁殖していて、そのまだ飛べない雛や卵をホッキョクグマやホッキョクギツネは狙います。
北極圏という言葉はとても寒く、生き物も少なそうな感じがしてしまいます。しかし、北極圏の短い夏はそうではありません。24時間ある太陽が氷を通して海に届きます。氷の70パーセントは海中ですが、その海水の中で光り届き、海中の氷の表面に藻が生えます。そしてその藻を食べる小さなエビが急激に増えます。するとそのエビを狙って、小魚が、そしてアザラシ、鯨たちがやってきます。
空からは、ミツユビカモメ、フルマカモメ、ニシツノメドリ、ヒメウミスズメなどが魚を狙います。陸上の雪が溶ければ、苔や地衣類に覆われたツンドラにたくさんの花が咲きます。トナカイがそれらを食べています。
夏の北極圏は驚くほどに生き物の豊かな場所なのです。しかし、同時に温暖化により年によっては海氷が夏にはまったくない年もあります。海水内の海氷の表面の藻が魚を支え、そして鳥やアザラシを支え、ホッキョクグマが生きていけます。その海氷が少なくなることで、ホッキョクグマの餌が少なくなり、ホッキョクグマの子供を産む数は年々減っているのです。
その世界に行けば思ってもいなかった生き物の豊かさに圧倒され、それでもその世界が削られていくことも知らなければならないのです。
・見られる代表的な野生動物・鳥など
ホッキョクグマ
世界最大の陸棲肉食獣と言われたりしますが、食べているもののほとんどは海性由来で、海の氷の上でほとんどを暮らすことを考えれば海棲動物です。大人のオスのホッキョクグマは800kgになることもあるといいます。
スヴァールバル諸島を含めたバレンツ海にはホッキョクグマの数は多いといいます。もっとも寒いところに生息するクマですが、冬眠するのは繁殖するメスだけです。世界的に5カ所ほど高密度に巣ごもりする場所が知られています。スヴァールバル諸島を含むバレンツ海ではフランツヨーゼフ諸島にあり人の立ち入りは保全のため禁止されています。ホッキョクグマの子育て期間はおよそ2年ですが、スピッツベルゲンは巣ごもりする場所から遠いため、親子を見るとしたら2年目、6月に行くとすると15ヶ月くらいの子供です。
ホッキョクギツネ
とても寒さに強い動物で冬毛は白いですが夏毛はグレーから茶色になります。スヴァールバル諸島では繁殖しているのを見ることがあります。巣の近くでおとなしく待っていると、親ギツネが餌を運んできたり、子供同士がじゃれて遊ぶのも観察することがあります。とても微笑ましいです。
セイウチ
1.2tもあるうえ牙もあり、ホッキョクグマもほとんど襲うことはありません。深くまで潜ることができ、海底の貝を食べます。若い雄はとても好奇心旺盛で、静かに浜辺にいるとこちらの様子を見に来ることがあります。海側から近づいてきて、すぐ側まできてこちらの臭いを嗅ぎます。吐く息臭さと暖かさを感じます。
アゴヒゲアザラシ
氷河が崩れた氷の上で休んでいるのをゾディアックから観察することが多いです。また6月はアゴヒゲアザラシの繁殖期で、アゴヒゲアザラシが歌うのが伝わってきます。海水と接した部屋で静かにしていると聞こえてきます。高音でとても美しいのです。
ゼニガタアザラシ
海の岩があるところにいることが多いゼニガタアザラシです。ワモンアザラシと似ていますが、ワモンアザラシは氷の上にいます。
スヴァールバルトナカイ
トナカイの亜種のなかで2番目に小さいです。角も小さく、足が短く太く、アメリカのカリブーなどに比べるとかなり不格好ですが愛嬌もあります。昨年、大量死して話題となりました。気候変動が原因ではともいわれています。
ベルーガ
シロイルカやシロクジラとも呼ばれます。北極圏の生き物で海氷からあまり離れません。ホッキョクグマに食べられることもあるようで爪痕がついている個体がいます。
シロナガスクジラ
なんといっても世界最大の動物です。これまで地球上に存在したことが確認された動物のなかでも最大の動物です。船からプシューという呼吸音が聞こえ、ゆっくると尻尾が海上に出て、もぐっていくのを見るのは荘厳の一言です。
その他にも、ミンククジラ ザトウクジラ ナガスクジラ タテゴトアザラシ ワモンアザラシなどを観察することがあります。
キョクアジサシ
北極圏で繁殖し、南極までわたりをします。もっとも渡る距離が長い鳥として知られてます。卵や雛を育てているときはとても気が強いです。人間の頭を後ろから攻撃してくることもあります。
ケワタガモ
良質なダウンをもっていることからこの名前がつきました。日本でも迷鳥として数回記録されたことがあります。
ホンケワタガモ
同じく良質のダウンをもっています。ロングイェールビーンの近くではダウンの採取のために飼育している場所もありました。
ニシツノメドリ
パフィンと呼ばれ、外見的な可愛さと美しさから愛される鳥です。
ヒメウミスズメ
くちばし、首、尾が短く、太く、まるっこく、とても可愛い鳥です。集団で飛翔します。
ゾウゲカモメ
全身の白いカモメで北極圏でしか見ることができません。数も少なくて憧れの鳥のひとつでした。
その他にカオジロガン ムラサキハマシギ フルマカモメ ミツユビカモメ クロトウゾクカモメ オオトウゾクカモメ シロハラトウゾクカモメ ハジロウミバト コオリガモ アビ ライチョウ等が観察されます。
・行き方 ベストシーズン
ノルウェーの首都オスロまで行って、そこから飛行機でロングイェールビーンに向かうのが普通です。大型クルーズ船でノルウェーなどから行くこともあるようです。ホッキョクグマを見るならばロングイェールビーンに1泊して、船に乗り数日探すこととなります。
小型船の方が値段はお高くなりますが、小回りがきくこと。また大型船ではあらかじめ船がどこに停泊するか決められ、ひとつの湾に大型船は一隻までなどの規制があるため、有利です。ホッキョクグマをいちど見つけることができれば、客室10室程度の小型船の方が追い続けることもできますし有利です。ただし氷のある場所は大型船の方が奥まで入れ、また高い場所から探すことができますので有利となります。
ベストシーズンは鳥の繁殖に合わせるなら6月です。バードクリフと呼ばれる断崖に無数のカモメやハジロウミバトが巣をつくっています。4月から8月までツアーの船は出ています。4月や8月は太陽が低くなるので風景写真には良いと聞きます。また6月はまだ海氷が北の方にあり、海氷の上に休むアザラシやホッキョクグマを探すこともできます。しかし、温暖化のためか海氷がない年も最近はあります。
・持ち物 カメラ 観察方法
ホッキョクグマなどを発見するとゾディアックと呼ばれる小型のゴムボートに乗って海上から観察することになります。基本的にはホッキョクグマは海辺に流れ着く魚や鯨などの死体を探していますので海辺を歩きますので、ゾディアックでホッキョクグマを追いながら観察することになります。50mくらいまで近づくことができます。
ホッキョクグマ以外の生き物や美しい景観を見るためにゾディアックから上陸することもよくあります。丈の高い長靴は必須です。気温は6月なら最高気温2℃。最低気温-2℃くらいと1日中安定しています。あられや雪になることもあり、また船の上で風に当たるととても寒いので十分な防寒着とたい雨天対策必要です。
有料内容
ホッキョググマ写真7枚(ホッキョクグマとゾウゲカモメ1枚) ホッキョクギツネ写真1枚 セイウチ写真3枚 アゴヒゲアザラシ2枚 ゼニガタアザラシ1枚 スヴァールバルトナカイ1枚 ベルーガ1枚 シロナガスクジラ1枚 キョクアジサシ1枚 ホンケワタガモ1枚 ハジロウミバト1枚 フルマカモメ1枚 シロカモメ1枚 アビ1枚
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