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歌舞伎の世界を支えるエロス〜2月観劇記録

2月は歌舞伎座で「三人吉三」、木ノ下歌舞伎で「桜姫東文章」と、歌舞伎を代表する二大劇作家、河竹黙阿弥と鶴屋南北、それぞれの代表作を観劇できました。

片方はあまり上演されない幕を上演、もう片方は古典作品の再構築と、舞台の趣向は異なりましたが、2作続けて観た(マチソワ)ことで、歌舞伎の世界を支える”エロス”の奥深さに気づけました。

「桜姫〜」は、桜姫の没落と恋模様を描いた破天荒な作品。2年前の歌舞伎上演時のポスター(復刻)が示すように、この作品でよくクローズアップされるのは、高貴な桜姫と悪党・清玄との危ない関係です。私も観劇しましたが、いちゃつく2人を家来たちが御簾越しに見ようとするなど、演出も大胆な印象がありました。

2021年上演時のポスター

対して木ノ下歌舞伎版は、演出の岡田利規さんにより、台詞回しは単調に。派手な衣装もなく、シンプルな舞台で淡々と物語が進んでいきます。この演出により浮き上がるのは、この時代の社会が持つ闇の部分や人間の欲望でした。女性や障がい者への非道な扱いに、目の前にある金・地位・命への欲望、そしてそれが巻き起こす非理性的な行動。歌舞伎版が持つ華やかさもエロさが覆い隠していた、社会への批判や人間の不完全な姿を、木ノ下歌舞伎では舞台上にくっきりと浮き上がらせました。

歌舞伎座の「三人吉三」では珍しく、巣鴨吉祥院での顛末と大詰が上演されました。盆を効果的に使うことで、巣鴨吉祥院のお嬢とお坊、裏手墓地の和尚吉三とおとせ・十三郎、それぞれの物語をドラマチックに描き、そして大詰の迫力ある立ち回りに一役買いました。この作品でも人間の欲を突き詰めた結果、盗賊たちの深い絆と決死の立ち回りにつながります。ラストのお嬢の振る舞いに、彼が背負っている家や仲間への愛情ゆえに”男”が表れた姿に、この作品の本当の姿を垣間見たような気がします。

改めて歌舞伎のドラマとしての面白さを感じさせた観劇でした。

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