未来予想者
私は小学校受験に失敗した。母親は地元の小学校をあまり信用していなくて(確かにちょっと荒れている小学校だった)私を他の区の小学校へと越境通学をさせる手はずを整えた。よって、私は小学校1年生のころから電車に20分くらい乗って、遠くの小学校へと通学していた。これは小学校低学年の頃に出会った不思議な女性の話だ。
私は電車の中で本を読むのが好きでよく本を読んでいた。どんな本でも興味を持てば読むタイプで、その日も家から最寄駅に行き、電車に乗って、学校に向かう途中、何かの本を読んでいたと思う。私の通っていた小学校の最寄駅は終点で、終点につくと共にすべての乗客が出口に向かう。私は本を手提げバッグにしまって、出口に向かって歩いていた。朝なので多くの人がいっきに出口に向かっていく。
そのときだった。
20代~30代初めくらいの女性が「あの!」と私を呼び留めた。
私が振り向くと、その女性は
「あなたはたぶんこういうことに興味があると思う。何もしなくてもいいから、このパンフレット読んでね」
と言いながら、折りたたまれたパンフレットを渡すと、そのまま改札に向かって出ていった。私は突然しらない女性に話しかけられたことにびっくりしてしまい、会話をすることもできずに、ただ差し出されたパンフレットを反射的に受け取っただけで終わった。
パンフレットを開いて見てみると、国際協力に関することが書いてあった。これは1990年代初めの話だ。アフリカなどでは紛争が多く、命を落とす子供も多かった。「きれいな水が飲めない」「赤ちゃんんのころに命を落とす子が多い」「奴隷として働かされる。」みたいなアフリカの子供たちの生活がイラストや写真を交えて描かれていた。例えば怪しい宗教とか、マルチ商法とかそういうのではなさそうだった。
なんだろう?と思いながらも、帰ったら母に相談しようと思っていた。
学校も終わり、普通に家に帰り、母親に報告した。
「今日ね、朝、知らないお姉さんからこれ、渡されたの」
母にそのパンフレットを渡したところ、母はその中身を読んで、
「特になんか変なことは書いてないよね?」
と聞くと、
「そうだね。そのお姉さんと話したの?」
「ううん。突然、改札に向かってる途中で渡されて、お姉さんはそのまま改札からでってた。」
「うーん。たぶん、あなたと同じくらいの子供のことが書かれてるから、子供のあなたにも知ってもらいたいって思ったんじゃないかな。」
と言い、戦争や紛争がアフリカでは起きてることを教えてくれた。
本当になぜ私に突然パンフレットを渡してきたのか今でもわからない。
でも、その後、中学高校時代も委員会活動で募金活動に毎年携わっており、社会人になってからも私は今、途上国支援団体にずっと毎月3000円の寄付をしている。
あのお姉さんにパンフレットを渡されたからこうなったのか、それともお姉さんには私の将来の姿が見えていたのか、わからないが、とても不思議な経験だった。