見出し画像

世界で最も裕福な大学でストライキ? 学生と院生組合の連帯

 こんにちは。本日は10月27日から29日の三日間にかけて行われた、ハーバード大学院生組合によるストライキに参加した様子についてお伝えします。

はじめに。

 数日前、大学の知り合いからハーバード大学でストライキが行われるらしいと聞いた。そこで、電車に乗って20分ほどかけてハーバード大学へ向かった。
 着いた時にはちょうど12時頃で、広場で昼の集会が始まろうとしていた。マイクチェックが行われ、数百人の院生組合員、学生とストを支持する教員に見守られながら、昼の集会が始まった。この日はストライキの2日目で、組合員と学生は朝から講義室の外でピケをはり、ビラを配ったりし、大学側が適切な対応をとるまで学生に授業をボイコット(walk out)するように働きかけた。また、学生に対して、教員にストについてのメールを送り、講義を休止するようにと働きかけていた。

 院生は学生ではないのか?なぜストライキを行なっているのか?と疑問に思う方もいるかもしれない。しかし、多くの大学院生はハーバードで学びながらも、労働者として学部生を指導したり、講義を担当したり、成績評価をや個別指導を行ったりもしている。多くの院生は大学に雇われている労働者でもあるのだ。そこで院生労働者の権利を向上させるためにハーバード大学の院生は2018年に組合結成投票を行い、組合を結成した。結成以来、全院生労働者に対して平等の条件が認められる雇用契約を目指して活動してきた。しかし、そもそもなぜ世界一裕福な大学でストライキが行われているのだろうか?

なぜ世界で最も裕福な大学でストライキ? 

 ハーバード大学の大学基金(財産)は2021年度で約530億ドルで、寄付や投資からの収入はコロナ禍にかけて110億ドルほど増加した。ハーバード大は世界一金がある大学だ。それにもかかわらず、ハーバード大は院生労働者に対して十分な給与を払っていない。コロナ禍ではリモートワークの院生に対して数ヶ月給料を支払わなかったり、ビザを突然キャンセルしたりするケースも起きている。そして今年に入ってからはハーバード大の所在地、マサチューセッツ州ケンブリッジではインフレとジェントリフィケーションによって生活費が約4%増加してるが、ハーバード大はこれに見合った賃上げを拒否している。賃金を実質的に下げる動きに対抗することがストライキの第一の目的だ。

 しかし、ストの要求は賃上げだけではない。現在の大学内での性暴力・セクハラ事件に対しての大学の対応も問題とされている。そこで、ストのもう一つの大きな要求は、Title IX(公的教育機関における性に基づく差別。性暴力、セクハラや性自認に基づく差別も含まれる)に当てはまる事件の処理を大学内の関係者ではなく第三者が行うべき、というものだ。現状ではハラスメント対策は様々な利害を持つ学内関係者によって主に行われているが、これは不透明で学生にとって不利な結果を招きかねないと批判されているのだ。そして、これらのケースにおいて院生の弁護士費用を大学側が負担するようにも求められている。最後に、労働組合に入ってなくても、全院生労働者が組合へ(団体交渉などのための)の費用を払うことも院生組合側の要求だ。

ストライキ季節のアメリカ?
 ハーバード大がこの時期にストを決行した理由の一つとして、全米各地においてストライキが多発している「ストライキ季節(Striketober)」と呼ばれている状況も無視できない。コロナ禍において社会的格差が浮き彫りになり、組合員にストを求めるより戦闘的な雰囲気が広まっていることに加え、昨今のJohn Deer社のストやNY州での看護師労働者のストなどは広くメディアにも取り上げられている。このような現状がハーバード院生組合のストライキの決定を後押ししたとしても不思議ではない。

組合と学生 〜 組合を孤立させないための連帯

 しかし、相手は世界一金があるハーバード大だ。院生組合の労働者が声をあげるだけでは心細い。そこで、院生組合を孤立させないために様々な試みが行われた。まず、ストが行われた三日間の昼には毎日集会が行われ、地元の議員(議員といっても、何らかの形で労働運動・社会運動と関わりがある者)、AFL-CIOやハーバード内の他の組合の組合員などが駆けつけ、その場で参加者を活気づけるアジテーションを行った。

画像3

 また、このストでは院生と教員による連帯が目指され、当初から呼びかけられた。例えば、教員に対して組合側はストライキに連帯の意を示すためにその日の講義をキャンセルするように呼びかけた。

 それ以上にこのストで重要視されていたのは、学生と院生労働者の間の連帯だった。ハーバード内の学生団体、Harvard S.L.A.M (Student Labour Action Movement) とHarvard YDSA の学生はストの前から学部生に組合側の要求と学生側がどう組合と連帯できるかについて教える集会やミーティングを開いてきた。学部生にストライキ期間と被る講義をボイコットさせることが主な目的だ。これに加え、当日は講義室の外でみんなでピケをはり、講義室に入ろうとする学生に対して、「スト破りをするのか」と質問し、学生が講義に参加するのを阻止したのも学部生だった。

画像1

 また、これらの団体はストライキのための基金をつくり、一万ドル以上を集め、ストライキのための費用に当てた。これによってストライキを行なっている間の生活費を賄えるだけではなく、大学側が賃金を一定期間払わないぞ、などと脅してきた場合にはそれに動じないの余裕もつくることができた。

 そしてストの最終日の金曜日はParents Weekend(新入生の親がキャンパスを訪れる日)の初日だったため、学生はこの機会を活用し、学長による新入生向けのスピーチの場で大学側の対応を問題化した。スピーチの場で突然、"No abusers on campus, Fair contract now!"と順に声をあげ、一斉に講堂から退出した。この動画はSNSで拡散され、大学側の対応をさらに問題化することに成功した。

そして、当日キャンパスに集まった新入生の親に対してもビラを配ったりし、問題化した。

画像2


おわりに

 以上が三日間にわたるストライキの様子だった。まだ大学側との交渉が続いている最中だが、労働組合と学生の連帯を通して、ハーバード大の対応を広く社会問題化することに成功したと言える。

 最近、ハーバード大は化石燃料産業から投資を撤退する(ダイベスト)ことを決定した。これも全世界的に化石燃料産業から投資を撤退する動きがあるのはもちろん、ハーバード大学内のFossil Fuel Divest Harvardなどの団体が長年ハーバード大の化石燃料産業への投資を問題化してきたためでもある。学生による継続的な運動は世界一裕福な大学でさえも動かすことができるのだ。



【参考】

https://www.jacobinmag.com/2021/10/american-workers-labor-militancy-covid-19-strike-unions


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?