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傑作!だが、熱狂するための文脈を僕は持ってない『トップガン マーヴェリック』

「久しぶりに映画を観た」

映画館を出て、まず抱いた感想だった。

誤解を生まないよう最初に言っておくが、最高に楽しかった。IMAXシアターで"体感"して良かったし、充実の2時間だった。

言うまでもなく傑作だろう。2022年6月現在、『マーヴェリック』は"今年の洋画No.1ヒット"となったようだ。

しかし、僕はこの作品の素晴らしさを、本当の意味で味わうことはできない。

Twitterで『マーヴェリック』の感想を漁ってみると、一部でめちゃくちゃ共感を呼んでいる「おじさんのお子様ランチ」という表現に出会った。めちゃくちゃ頷いた。6月19日の午前2時、T・ジョイPRINCE品川の映画館の前で頷きながら一人歩いていた男は僕だ。

僕が「本当の意味で味わうことはできない」のは、ここで言われている「おじさん」の世代ではないからだ。ドンピシャな世代はきっと、初代『トップガン』をリアルタイムで触れた世代。もしくは当時を知らなくても、90年代や80年代の作品を自ら摂取した“映画好き"であれば、世代を超えて「お子様ランチ」を食べていたことになる。

36年の文脈は、スパイスとしてあまりに強力

『マーヴェリック』を観るにあたり、改めて初代『トップガン』を観た。

1986年公開の作品である。当時の技術でMAXの出力とリアルで描かれた戦闘機のバトル。Ray-Banのアビエーターをかけ、カワサキGPZ900Rで疾走するトム・クルーズ。仲間との確執、友情、恋。令和の時代には目を覆いたくなるほどのクサい台詞とマッチョイズム。やんちゃで、でもちゃんと等身大の青年の物語に「当時の少年たち」が憧れたことは、容易に想像できた。

そして、「ハリウッド映画らしさ」がそこにある気もした。

この「らしさ」の定義は人それぞれでいいのだが、少なくとも僕はその後の時代、90年代のハリウッド映画がまとっているものと同じだと感じた。そして、『トップガン』を観た「当時の少年たち」は、90年代の映画とともに大人になったはずだ。

思春期などの多感な時期に触れたモノゴトを過大評価してしまう「思い出補正」や、それを揶揄する「懐古厨」という言葉がある。作品の評価で揉めている場面でよく見るが、大抵の場合、現在のものを評価するために過去のものを持ち出すことが問題であって、その是非は置いておきたい。

ただ、人にはノスタルジーという感情がある。

『トップガン』を観て、間をあけずに『マーヴェリック』を観た。もちろん36年分の映画技術の進歩や数々のアップデートはなされているのだが、誤解を恐れずに言えば、芯の部分は何一つ変わっていなかった。

トップガンの世界は、トップガンの世界のまま36年間の月日が流れていた。あの頃の「ハリウッド映画らしさ」をまとったままだ。

そして36年分の人生を重ねた「当時の少年たち」も映画館に、いや、トップガンの世界に再び集合した。

ノスタルジーを呼び起こす装置として、これほど強烈なものはなかなか作れない。単純に真似しようとしたら36年かかるし、ハリウッドスター、トム・クルーズがトム・クルーズのまま存在した奇跡や、そんな男が続編制作の権利を買い取り温めていたという文脈もそこに加わる。

自分の金で寿司もステーキも頼めるようになったおじさんが、お子様ランチに感動するのは「お子様の頃に食べていた」からだ。この36年分の文脈だけは、僕が明日から何百回劇場に足を運んだとしても味わうことができない。

※文脈というスパイスが無くても、美味しく食べられたことも付け加えておきたい。ハンバーグには三つ星シェフのこだわりデミグラスソースがかかっていたり、その下に敷かれたミートソーススパゲッティの茹で加減はアルデンテだったりする。『マーヴェリック』はそういうお子様ランチだ。

映画ってそもそもフィクションだし、エンターテインメント

大人になる過程で、僕らの脳内には、良くも悪くも「常識」がインストールされる。

大人になって触れた作品(映画、ドラマ、アニメ、ゲームetc.)に対して、「そんな展開ありえない」「そんな上手くいくわけないだろ」「ご都合主義が過ぎる」とツッコんだことはないだろうか。

僕はある。

もちろん「リアルである」ことを謳っている作品なら、そのツッコミは一定正しいのかもしれない。それに「細かいツッコミ所が気になってしまうのは、そもそも駄作」という見方もできる。

ご存知の通り『マーヴェリック』は、ありえない展開の連続だった。でも、そんなことにツッコミを入れさせないだけの魅力があった。

何が魅力だったか。そんなものは観た人の数だけあっていい。観た人が感動したポイント全てだ。例えば、ご都合主義なストーリーと対照的に「圧倒的にリアルに作り込まれたディティール」にも魅力があるし、IMAXシアターで聴く「耳を聾するエンジンの響き」も魅力的。良いタイミングで流れる「レディ・ガガの主題歌」に感動した人もいるだろう。

こうした魅力を2時間浴び続けた。いや、正確には「映画ってフィクションだし、エンターテインメントだぞ」と言われながら、トム・クルーズに2時間殴られ続けた。映画館を出た時、「最近の僕は、フィクションに対して必要以上にリアルを求めていたのでは?」と呪ってしまうほどの体験だった。

「久しぶりに映画を観た」

やっぱり感想はこれ以外にない。


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