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「身体拘束」は絶対にしないという信念

病院では当たり前に行われている「身体拘束」。
施設では禁止されているので、入院中に動いて危ないからという理由で身体拘束をされていた人も、施設に入居すればフリーになる。もちろん、それで転倒事故が起こる場合もある。

病院では、点滴や酸素を自分で外してしまう人や、ベッドや車椅子から1人で歩き出して転倒してしまう人は、ベッド柵に四肢を括られたり、ベッド周りを全て柵で囲んで降りられないように、簡単に「身体拘束」する。

施設では「切迫性」「非代替性」「一時性」の3つの要件を満たし、その要件が慎重に確認され手続きされている場合のみ、身体拘束が許される。
緊急で他に方法がなく、短時間(短期間)である事が要件、という事である。
例をあげると、頭を壁にガンガン打ちつける自傷行為を止める為に、落ち着くまでの間、何らかの方法で身体を固定するというような場合だ。

入院中に身体拘束されていた人が施設に入居した場合、入居当日から介護スタッフの緊張は高まる。転ばせてはならない、という使命感で五感を研ぎ澄ますが、有料老人ホームは基本的に個室である。ドアを開けなければ、中で何をしているのかは分からないのだ。(転倒のリスクが高い人は個室は避けた方がよいと個人的には考える)

身体拘束が出来ない場合に頼りになるのがセンサーだ。うちの施設には踏んだらナースコールがなる、床に敷くタイプのマット型センサーや、ベッド上での動きを感知して離床しているのが分かるベッドマット型のセンサーなどがある。
床に敷くマット型センサーは何故か踏まないようにする入居者がいて、せっかくベッド横に敷いても、またいでマットを超えてしまい、気付かぬうちに1人でトイレに座っていたという事もある。

転倒以外で身体拘束の対象になるのが、医療行為に関する事だ。施設でよく問題になるのは「経鼻経管栄養」のチューブを自分で抜いてしまうパターンである。鼻から胃まで入ったチューブは鼻と頬にテープで固定されていて、当たり前だが自然には抜けないようになっている。
もちろん不快感があるから、認知症などで理解力が十分でない場合、身体が動けば間違いなく自分で抜く。

そこで身体拘束をせずに、抜かれない方法を模索する事になる。経鼻チューブを皮膚に貼る時に、指が引っかかるのを防ぐように薄いフィルムシールで全体を覆ったり、本人の指先にくるっとテープを巻いてチューブをつまみにくくしたり、手袋をはめたり。いずれも本人の動きを抑制するのは身体拘束にあたるので、そこを避けるように頭をひねるのだ。

結局はそのうちに抜かれてしまうのだが、時間稼ぎにはなる。できるだけ抜く回数を減らさないと、本人の挿入時の苦痛の回数も多くなる訳で、抜く度に来てもらう往診の医師にも申し訳ないという事情もある。

安全が先か人権が先か。イタチごっこではあるが、「身体拘束はしない」といううちの施設の信念は気に入っている。


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