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最後まで美味しく食べたい人の嚥下の話

私は酒呑みだし、スイーツも大好きだ。できる事なら死ぬ直前まで美味しいものを楽しみたいと思う。

老人ホームに勤務しているので、これまでたくさんの看取りをしてきた。病院勤務時代も合わせれば、何百人と言う数字になるだろう。

その中で、数は少ないが亡くなる直前まで食事がとれる人がいる。昼食を普通に食べたのに、その日の夜に亡くなる(多分老衰で)、苦しまずにひっそりと。
理想の逝き方を体現している!と私は羨むのだが、ご家族が納得してくれないパターンもあり「あんなに元気だったのに、なぜ急に」と施設に対して猜疑心が芽生える事もある。そりゃそうだよね、と思う。お別れも言えないうちに逝ってしまわれたら、後悔が残るものだろう。申し訳ない気持ちもあるが、予兆がない場合はどうにも出来ない。

多くの人は、高齢になると嚥下機能が落ちてくる。まずは水分でむせ込むところから始まる。サラサラしている水やお茶などが普通に飲み込めず、食道ではなく気管に侵入してしまいゴホゴホとむせる。むせ込まないために、施設では水分にトロミをつけて提供する。…これが、不味い。申し訳ないが本当に不味くて常人には飲めないほどだ。

噛む力が弱くなれば、食事も「刻み食」と言うあらかじめ刻んで細かくしたおかずやお粥になる。普通の食事を刻んだだけなので味は同じはずだが、とにかく見た目が良くない。元が何なのか分からなくて食べる気が起きない人が多い。揚げ物なんて刻んでしまうと、衣の山になって中身が何かなんて全く分からなくなる。

嚥下機能に合わせると、食事の形態は実に不味そうになる。ああ、自分は嚥下機能を保ちたいと切に願う。
脳梗塞で麻痺を起こしたらアウトだな…脳梗塞を起こさないためには血管を強くして血液をサラサラにして…そのためには普段の食事から…なんて考えると、酒もスイーツも控えないといけないだろう。いや、そんな人生は楽しいのか?私の価値観は揺れている。

不思議な事だが、好きな物はむせにくいというのも事実だ。施設の「トロミがけ刻み食」でむせるのに、家族が差し入れた鰻は平気で食べたりする。お寿司が好きな人も多く、普段はお粥を食べている人でもお寿司のシャリはスムーズに嚥下出来たりするのだ。

最近は調理技術が進み、見た目良く柔らかく調理されているものがオンラインでも購入できる。家族が差し入れてくれる物では「あいーと」が人気だ。価格が少々高いので、代用として高齢者向けや乳幼児向けのレトルト食品も使われる。赤ちゃん用のおせんべいは米で出来ているし口の中で溶けるので、補助食品としても優秀だ。

ああ今日もビールが美味しい…






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