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ショートストーリー『彼と彼女のカフェテラス』

   〈彼と彼女のカフェテラス〉

        *
 日曜日。

「う~~ん、い・い・天・気!」

窓を開け、男は、清々しい朝の陽射しと新鮮な空気の中で伸びをして声に出して言ってみた。

「こんな朝は、やっぱあのカフェのテラスでコーヒーだナ」

たまたまブロック塀の上を通りかかったグラマーな猫が、「ニャ~オ」と返事をした。

         *

「今日はあの本を読んでしまおう。それに、おいしいコーヒーも飲みたいし…」

と、朝のシャワーをすませたばかりの女は、フワフワの真っ白なバスタオルで、お気に入りのショートな髪を拭きながら思った。

窓辺のカナリヤは覚えたばかりの三曲目の歌を、楽しそうに歌っていた。

         *

“本日のおすすめは[サントスNo.2]です”

そのコーヒーを注文し、BGMのちょっと昔のラブソングを聴きながら、真っ白なコーヒーカップを口元に運ぶと、苦みばしった芳ばしい香りが、心地良く鼻孔をくすぐる。

一口飲んでカップを置くと、ナイスなタイミングで桜の花びらが、チラリと一枚コーヒーの表面に…。

彼は気づかないまま、再び目を新聞に戻した。

         *

一方彼女は…、

同じテラスで文庫本をひろげて、パラパラとページを繰っていた。

「あれェ? どこまで読んでたんだっけ…?」

ゆうべ寝る前に読んだ時、しおりを前のページのままにして本を閉じたのだった。

「ま、いっか」

コーヒーを一口飲んで、彼女はもう一度同じところから読み始めた。

         *

(えっ? ウソだろ? 彼女、こっちを見てる…)

斜め前方のテーブルでこちら向きに座り、手に持った文庫本から目を上げて微笑んでいる彼女は、ショートヘアがよく似合う、彼好みの美人だった。

彼はちょっとアセってしまった。

(彼女、ボクを見て微笑んでる…。どうしよう…。ほ、微笑み返さなきゃ…)

しかし無器用な彼にはどうも上手く笑顔が作れない。

と、その時、

彼の頭から、ハラハラと桜の花ビラが2、3枚テーブルの上に舞い落ちた。

(なァんだ。だから彼女、笑ってたのか…)

彼はその花ビラをつまみ上げ、ニッコリと笑った。

         *

次の日曜日。

彼はいつものカフェテラスで新聞を読んでいた。

その新聞を下ろすと、

文庫本から目を上げた彼女の、あのキュートな笑顔があった。

テーブルの真ん中に並んだ二つのコーヒーカップから、ホットな湯気が、ホンワリと立ちのぼっていた。


                             End

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