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洗脳

私の幼少期は、周りと比べると割とヘビーな家庭環境だったらしい。

まずは、ネグレクトの両親。

熱狂的な宗教信者の祖父母。

常に私を殺しかねない兄。

今の私からは想像出来ないようだけれど…

私はとても気弱で泣き虫な女の子だった。

中でも、同居していた祖母は家族の中で一番権力を持つ存在で、誰も逆らう事が出来ない恐ろしい人だった。

両親はそんな祖母に私達兄妹を任せて、仕事か自分達の時間に費やし、子育てをほぼ放棄していたので両親と過ごす時間はあまり無かった。

そんな祖母は兄を溺愛したので、私はあからさまな差別を受けて育った。

そんな中で育った私は、いつもビクビクして育ったのでおそらく精神的に病んでいたと思う。

祖母がある宗教にハマっていたのは、私が生まれるずっと前の事で、祖母の周りの人間達も祖母に引き摺り込まれるように入信したようだ。

私は生まれながらに宗教活動に連れ回されて育った。

遊びに連れて行くと言われて行く場所は、ほとんど宗教の集まり。

それは朝早いものから、夜遅くまでのものもあった。

一日中拝む時もあり、皆が競うように「○時間拝んだ」と自慢のように言い合っている。

今思えば怖い光景だった。

私は祖母に「拝めば良い事が起きる!拝まなければ悪い事が起きる!」と常に言われていた。

純真な私は、その言葉に脅されていたので、学校に行く前に拝まないで出てしまった時は、わざわざ家に戻って拝んだ。

それを祖母は未だに「本当に良い子だったね。」と笑って言う。

それは祖母には嬉しい事かもしれないけれど、そこまでの強迫観念を植え付けて育てる行為は洗脳としか言いようがなかった。

祖母は常に他の宗教も嫌ったので、お守りなんか持ってはいけないし、神社、お寺、教会なんかに行く事は徹底的に許さなかった。

ある日…

仲良しの友達がキリスト教の事を詳しく話してくれた事があった。

私は小さかったから、当然ながらどの宗教が良いものか悪いかも分からなかった。

その時仲良しの友達から聞いたキリスト教の話も素晴らしく良い物に思えた。

だから、祖母にキリスト教の話がどんなに素晴らしく思えたかを目を輝かせて話した。

すると、祖母の顔はみるみる鬼のようになり…

「お前はキリストを信じるのか!そんなのどれだけ悪いかわからないのか!」

祖母は叫ぶようにそう言った。

私は確実に祖母の逆鱗に触れた。

小さな子供だった私は、仲良しの友達が教えてくれた話が否定された上に、とてつもなく怒られてしまった事にひどく困惑した。

「今から友達のとこへ行って、キリスト教は信じないと言ってこい!」

私はそう祖母に言われるがまま、仲良しの友達の所へ行き「あのね。キリスト教ダメなんだって言われたから、私は信じちゃダメなんだって…」と言いに行った。

友達はキョトンとしていた。

今思えば、それを見ていた友達のお母さんは私を不憫そうに眺めてたのだろう。

とても悲しかった。

仲良しの友達は幸せそうにお母さんと「またね!」と言った。

けれど、私は怯えながら帰宅するのだから…

祖母は友達が多く、いつも沢山の人が我が家に訪れた。

そのほとんどは祖母と同じような信者だった。

だから、近所ではうちの家族が熱狂的な信者だと有名だった…

一生懸命に信者を集めようとする祖母の傍らにいつも私はいた。

つまらない会合に疲れて正座したまま眠ってしまった事が多々あった。

私はいつも言われた。

「本当に大人しくて邪魔にならない良い子だね」


何処にいても、邪魔にならないように大人しく生きる事が、私が唯一存在して良い理由だった。

それでも、祖母に愛される訳ではなかった。

どれだけ拝んでも、良い事は拝んだからであり、悪い事は拝み足らないからだと責められた。

私は成長するにつれて、祖母の言葉を信じられなくなっていた。

学校では「宗教の自由」を学んだ。

宗教は自由に信じて良いものなのに、なぜ私は生まれながらに祖母の言いなりに宗教を決められ、考え方も信じるものも決められないのかと心の奥で怒りになった。

嘘をついたり、私を虐めたりする祖母が「拝めば良い事が起こる」と言うのは、心底おかしく思えた。

こんな人間になりたくないと思う人間の信じるものなんか、到底信用できるわけがなかった。

歯が虫歯で痛いのに、病院へ連れて行くでもなく「拝めば治る」と言う。

痛みで泣いてるのに、何時間も拝まされた。

今思えばバカバカしい事なのに、子供は抵抗出来るはずも無く…

守ってくれるはずの親は夜遅くまで帰ってこない。

私は知っていた。

どんなに拝んでも、この私を取り巻く人間達が変わる事がないのに幸せなんかなれない…

だから、常にこの家族からいなくなりたかった。

消えてしまいたかった。

神様も仏様も…何もかも私を救えるなんて思えなかった。

祖母の洗脳が失敗したのは、言うまでもないが…

祖母は幸せな人生を過ごして生きてる。

どれだけ人を不幸にしても、幸せに生きてる人は沢山いるものだ。

きっと、祖母は洗脳されてるから幸せなのかもしれないけど…

他人を洗脳して育てるのは、本当に恐ろしい事だと思う。

私は大人になり、祖母から逃れられるようになったから幸せになれた。

私の幼少期は本当に辛い事が多過ぎたから…

今は自由に考える事が出来、嫌なこと良い事は自分で選択出来るというのはなんて幸せな事だろうと実感できる。

子供達にその連鎖を繋げずに済んだのは本当に良かった。

宗教は悪では無い。

信じるのも悪では無い。

しかし、洗脳は明らかに悪である。

何かに救われたいのは誰でも思うこと。

しかし、他力本願で叶えられる願いならばそれは本当の救いではない。

私達人間の幸せは心の中にあるものだから…

心を他人が支配して良いはずがない。


















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