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常世訪問記

そこは地上とよく似た世界だった
私は夢の中にいながら
しかし、今いる世界こそが現実であるような
不思議なリアリティを感じながら
その場所に立っていた
辺りを見渡すと、私は山間にある道路にいるようだ
ガードレールの下は深い谷底になっており
右を見ると道路は上に向かって続き、
またその反対の左側を見ると、
道路は緩やかに下っていた
正面を見ると、それなりの標高がありそうな山々が切り立っていた
山頂には薄ら積雪も確認できるようだ
しかし、その山がどのくらいの遠さにあるのかが、私にはよく分からなかった

道路の脇には、いわゆるサービスエリアのような建物が見えた
ただそれは、少しだけ年代が古いものに見えた
一昔前のハリウッド映画などでハイウェイ沿いで見かけそうな、木造の建物だった

さて、私が右に登ろうか左に下ろうかと思いを巡らせていた時、ふと、私の脳裏に不安がよぎった
ここにいると危ない、この大地が崩れてしまう
そんな予感がした次の瞬間、
たちまちに大地はひび割れ、それはもう経験したことがないような大地震が起きた
地殻変動とも言うべきもので、道路は地割れし、山々が音を立て粉々に砕け、その埃が舞い、息が苦しくなった
さらには、怒号のような響きとともに、大波が下から迫ってきた
園児が海を描くときに絵の具で塗りつぶしたような、とても濃く深い青色をした波が私の眼前まで迫ってきた
今まで見ていた景色はもう全く変わってしまい、私より下は完全に海だけになってしまった
私は死を覚悟した

その瞬間
父が助けてくれるような気がした
そして空を見上げたら
黒い手袋をした手が空から舞い降りてきた
手より先は見えなかったし
手のみだから言葉は喋らない
私はその手を掴んだ
すると、ふわりと私の体は宙に浮き、上昇を始めた
私は、
お父さん?
と聞いてみた
返事はなかったが、その手は私の手を少しだけつよく、やさしく握り返した

しばらく上昇を続け、眼下には海に沈んだ山々と、どうやらもうそれ以上は波が迫ってこない道の続きが広がっていた

私は山沿いに渦巻き状に続いているその道路の、先程いたところより少しだけ上方に下ろして欲しいことを心で伝えた
言葉にしなくても、なぜか伝わることを、私は知っていたのだ
そしてこれも後から考えると不思議なことだが、先ほどの大波は、私がちょうど立っていたあたりまでで、止まっていたのだ
まるで意思があるように、それ以上の高さには登ってこなかった
それは、私の生命を奪うために迫ってきたものではなく、この世界の摂理を私に体験させるために行われた現象だったようにすら感じられた

さて、私は、父と感じられる手に安全な場所に下ろしてもらった
手を離すと、その手は再び上昇し、光のもやの中に消えてしまった
そして、私は、そこで目覚めたのだ

目覚めた私は、夢うつつの中、あるメロディを聴いていた
この世のものではないと思われるような、とてもやさしく温かく、まるでそこら中の花々が一瞬にして春を迎えて花開いてしまうような、ひたすらなに生命の喜びに満ちた、まさに“愛”のメロディだった
そのメロディは、私が手を握り宙に浮かんでいる時に、どこからともなく聴こえてきて、辺り一面を、いや、その世界全体を包み込んでいるものだった
音色にして、この地上の楽器で言えば、ストリングスや二胡のような、弦楽器の調べに感じられた

その時に聴いたメロディを伝えたいと思う

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明日もあなたに良いことがありますように♪

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