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少年と砂鉄

私が重たい荷物を運んでいると
ちょうど公園からひょいと抜け出てきた少年と鉢合わせた

このあたりで少年と顔を合わせることなどないものだから
私は一瞬不思議そうな顔で少年を見たかもしれない

「こんにちは」

少年はさも当然のように表情も変えずに私に言った
歳の頃にして7歳くらいだろうか
その割に落ち着いていて、大人びて見える

私も少年に少し遅れて
「こんにちは」
と返した

少年はやはり表情を変えず
大切そうに抱えた小さなビニール袋に目を落としてこう言った

「砂鉄を探してるんだ」

私もそのビニール袋をのぞいてみると
確かに砂の宝石が太陽の光にきらりきらりと小さな輝きを放っていた

「これで取るんだよ」
少年は砂場から砂鉄を吸い上げる丸い磁石を見せてくれた

少年にとってそれはきっと魔法のアイテムであり
新しい世界の扉を開いてくれるものなのだろう
私も子どもの頃に、そのような宝物を持っていた気がする

私があまりの重たさに荷物を下ろして少し立ち止まると
少年は視線を上げて
「大丈夫?」
と私を心配してみせた

「大丈夫だよ」
私は自分の子どもほどに年が離れた少年に心配されたことがどことなく気恥ずかしくて
だけれどその優しさがあまりにも清らかで尊さすら感じさせるものだったから
笑顔で応えた


やがて私がようやく目的の場所に辿り着くと
少年は先回りして私の荷物を置けそうな場所を探していた
私は少年にそこまでさせてしまったのが申し訳なくて、

「なかなかちょうどいい場所というのは見つかりにくいものだね」

と、おどけてみせた

気がつくと私はなぜだか、少年に、
自分の人生の話をしていた
少年は私の物語を受け止めてくれそうな気がしたのだ
ばかけたことかもしれないが

すると少年はやはり表情を変えずに
私にこう言った

「遠いところまでいくんだね」

そして

「さよなら」

と手を振ると、また砂鉄に目を落とした

少年も次の宝探しに向かうようだった

私も笑顔で

「さよなら」

と大きく両手で手を振った
私はもうその場所でその少年に出会うことはないのだ

少年に背を向けて歩き出した瞬間、
私は最後になにか気の利いた言葉を送りたくて

「砂鉄、たくさん見つかるといいね」

そう言いかけて振り返ると、

今そこにいたはずの少年の姿は
もうなかった

少年の足を考えれば
そんなにすぐに消えてしまうものではないはずなのに

それとも、
私は自分が思っているよりも
随分長い間、そこに佇んでいたと言うのだろうか

ところで、あの少年は一体だれだったんだろう
それはわからないけれど、
胸の中にとてもあたたかいものを感じたんだ

誰かが私に
最後にさよならを言いに来てくれたのかもしれない
そんな妄想すら抱かせた

だって今まで
そんなことはなかったんだから

それとも、あの少年は
遠い日の

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
明日もあなたに良いことがありますように♪


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