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喰いはぐれないわ

喰いはぐれないわ

ダイの手が

壁から生える

畳にのりづけになる

テレビのプッシュボタンに飲まれる

わたしはホームコタツの蟹

体中の毛穴から透明の泡をふく

リュウの足が

掃除機の筒になる

オモチャのバットになる

灰皿のタバコになって消え去る

わたしはホームコタツの鰐

体中の甲羅からしたたる雫

風が針になる

話し声が金属のリングになる

わたしはダイの手とリュウの足を

チョン切っては喰っている

体は

半分が蟹で半分が鰐

顔は眼球が飛び出している

柔らかだった皮膚をなつかしんでいる

やさしかった心をひきもどそうとする

けれど 飛び出した眼球は

弾丸にもなるので動けない

風が針になる

手を飲まれたダイは足を使って踊っている

足の切れ込んだリュウは積木に夢中だ

わたしは蟹であり鰐だから

ホームコタツに生息し

二万時間獲物を

狙いつづける

詩集「生える」より (9)

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