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大雄山線の話。

神奈川県の伊豆箱根鉄道大雄山線について書いた原稿です。少々古いので、現在とは異なる部分に注釈を入れました。ご笑覧いただければ幸いです。(トミウラ)

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大雄山線という電車が好きで、時々乗りにいく。神奈川県、小田原駅から南足柄市にある大雄山駅まで、9.6kmの区間を結ぶ小さな私鉄の路線だ。小田原駅には5つの鉄道路線が乗り入れているが、すべて経営している会社が異なる。JR東日本の東海道線、JR東海の東海道新幹線、小田急電鉄、箱根登山鉄道(*1)、そして、伊豆箱根鉄道が運営するこの大雄山線だ。

昔の塗色を復刻した車両

この5社5路線のなかで、地元の人や鉄道が好きな人を別にすれば、おそらく知っている人が最も少ないのは大雄山線だと思う。東海道線、東海道新幹線は日本を代表する大動脈、小田急線は日本有数の大手私鉄、そして日本屈指の観光地・箱根へと導く箱根登山電車。対して大雄山線は、小田原市と、隣接する南足柄市との10km足らずの区間で、通勤、通学、生活路線としての役割を担っている。

そんな華やかさとは無縁の大雄山線に、どうして僕が、わざわざ群馬県から乗りに行くほど魅力を感じるのか。その理由を言葉で説明しろと言われると難しいのだが、たぶん、次のような点が僕にとっては惹かれる要素なのだと思う。

*1 令和6年現在、社名は小田急箱根。

1、単線でありながら高頻度運転を実施している

大雄山線は全線が単線だ。つまり複線区間と違って上下の電車が自由にすれ違うことができず、すれ違うとすれば途中の駅など場所が限られる。これは運転できる電車の本数に限度があるということだが、それにもかかわらず、大雄山線は、ほぼ終日において毎時5本、12分おきに電車を走らせている(*2)。これは単線の鉄道では本数が多い部類になる。
しかし、そんなことの、何が面白いのだ? と言われればそれまでだ。

ただ、大雄山線のように単線でありながら高頻度運転をしている小さな私鉄路線というのは、日本中探しても、そんなに多くはない。
たとえば、同じ神奈川県にある江ノ電(藤沢~鎌倉)は、やはり単線で毎時5本、12分おきに電車を走らせているし(*3)、箱根登山鉄道も、単線でおおむね15分おきに運行している。ただ、それらと多少違う点は、先に述べたように、大雄山線の沿線は、箱根や鎌倉や江ノ島といった有名観光地ではない、ということだ。ちなみに静岡県の浜松近郊にも、単線で毎時5本、12分おきに電車を走らせている私鉄路線がある。

*2 令和6年現在、日中は15分おき。
*3 令和6年現在、おおむね14分おき。

2、自前で発注した、オリジナルな電車を走らせている
 
JRや大手私鉄と違い、小さな私鉄の場合、大手私鉄などで使い古した「おさがり」の車両を使用しているケースが多い。対して、大雄山線の場合は、新車として発注したオリジナルの電車を走らせている。数十年前までは、大雄山線でも「おさがり」の電車を使用していた(それはそれで面白く、往時を懐かしむ人もいる)が、今現在走っている電車は、全部、オリジナルだ。
しかしこれも、そんなことの、何が面白いのだ? と言われれば、それまでだ。

オリジナルな車両

さて、地味な大雄山線であるが、沿線にはいくつか名所旧跡があったりもする。そもそもこの路線は、終点の大雄山駅から少し奥まったところにある「曹洞宗 大雄山 最乗寺」への参詣のための足として始まった。そのものズバリ、路線名自体が「お寺の山号」だ。日本で、参詣客の輸送目的がルーツの鉄道路線が多いことは、知られていることである。

終点の大雄山駅
富士フイルム前駅
大雄山最乗寺

もっとも、現在の大雄山線は正月などを除けば参詣鉄道としての色合いはなく、先に述べたような通勤、通学、生活路線だ。沿線は小田原郊外のベッドタウンとして、宅地も多く、また富士フイルムをはじめとした事業所も存在する。
結局、僕は、地方都市郊外の「普段着姿の電車」という要素に惹かれているのかな、という気がしている。(了)


作品をご覧いただきありがとうございます。コメントなどもお気軽にお寄せいただけましたら嬉しく存じます。(トミウラ)