見出し画像

【春秋一話】 2月 人口減少は諸悪の根源か

通信文化新報(2021年2月1日 第7077号)

 昨年は5年に一度行われる国勢調査の年であったが、国内では人口推移の統計として国勢調査とは別に「人口動態統計」という調査が行われている。
 国勢調査が「静態統計」と呼ばれるのに対して、市区町村に出生、死亡、婚姻、離婚の届出が届けられた都度、その全数を行政側で調査票に転記し、これを厚生労働省がまとめ、月報、年報で公表されているため「動態統計」と呼ばれている。
 厚生労働省はこの取りまとめ結果を確定値で公表するとともに、毎年末に年間推計を公表している。
 推計項目は、出生数、死亡数、自然増減数、婚姻数、離婚数の5項目であり、自然増減数からその年の人口増減数を推計している。
 ところが、昨年12月21日に厚生労働省は2020年の年間推計を行わないことを公表した。年間推計値は前年の確定値に対して、当年10月までの速報値などを使い算出しているが、2020年は前年までと各種数値が異なっているという。
 具体的には、死亡数が10月までの累計で減少、婚姻件数が大幅に増減、離婚件数が昨年4月以降大幅に減少しているなど例年と異なり、これらのデータを元に機械的に算出した場合、実態と乖離することが想定され、1971年に推計を開始して以来初めて公表しないこととなった。
 ただ、この例年と異なる数値が新型コロナウイルス感染拡大と関係しているかについては分析できていないという。
 一方、2020年の国勢調査の結果は、一部が本年6月頃に「人口速報集計」として発表されるが、今回の調査でもどこまで人口減少が進んでいるか注目される。
 日本の人口が2011年から減少していることは、2015年の国勢調査で明確になった。
 2010年の国勢調査時に1億2800万人だった日本の人口は、5年後に1億2700万人と約100万人減少しており、これらの情勢から50年後の2065年には9000万人、100年後には5000万人とまで推計されている。
 さらに、2019年末の人口動態統計の推計値では自然減数が一段と進み、1年間で約50万人減少している。少子高齢化問題など「人口減少こそ諸悪の根源」と言われる所以である。
 しかし、今回の人口動態統計が推計不能となったように、不確定な要素は今後も現出する可能性はあり、また、今後の国内の政策によっても動向は変わる可能性を秘めている。
 そもそも日本では過去に人口増加が問題になっていた時期もある。
 明治維新期の1886年に3400万人程度だった日本の人口は終戦時には、およそ7200万人と倍以上になっている。戦前からの政府による海外移住の奨励、産児制限などの対策によっても人口増加を抑制することができず、1960年代には住宅難という新たな問題が発生し、郊外への住宅地開発が加速され、その都度「人口さえ減れば問題は解決する」と言われていた。
 ところが、1990年代になり人口減少の兆しが明らかになると、手のひらを返したように「人口減少こそ諸悪の根源」と言われ始めたわけである。
 人口動態統計の異常数値がコロナ禍によるものかは不明であるが、今回のコロナ禍により、テレワークなど働き方の変革や生活様式の変容など、これまでにない変化が日本に訪れている。
 この変化を契機に日本という国のあるべき姿が見直され、人口減少に伴う少子化、高齢化などを初めとした社会の諸問題について良い解が導き出されればと願う。
(多摩の翡翠)

カワセミ


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?