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ハーモニカ・メンテナンス講座 【実践編1】

実践編-アゲミの調整方法〜基準ピッチとチューナーの設定〜音の確認方法

ハーモニカ・メンテナンス講座・第三回目となります。
前回は音の鳴る仕組み、アゲミの適正量、音がくるう理由などをご説明させていただきました。今回は基礎知識を学んだ方に実践編としてアゲミの調整方法、ハーモニカの調律基準、チューナーの設定方法をご説明します。わかり辛い部分はページ下のYouTubeで作業内容が確認できますので、是非ご利用ください。

【アゲミの調整方法】

まずはじめにアゲミの調整方法です。アゲミとはリードの空気の入り口の隙間(リードの姿勢)を指します。適正な量はそのリード1枚分の厚みです。吸音と吸音でアゲミの確認方法、調整方法が異なりますので、注意してください。大切なポイントは複音ハーモニカの場合は上段下段を同じ高さに調整することです。調整をはじめる前に必ずアゲミの状態をチェックしましょう。
下の写真は吸音の確認です。外側から目視できるのでわかりやすいですね。

吸音アゲミRAW現像s

次は吹音の確認です。吹音は吹口から覗く形になります。
下の写真でわかるように、照明をうまく利用するとわかりやすくなります。

吹音アゲミRAW現像s

【吸音のアゲミの調整】

まずは吸音のアゲミ調整です。次の写真は高くなってしまった吸音のアゲミをケンの先で押し込んで低く調整しています。

アゲミ1

そして今度は低くなってしまった吸音のアゲミを、吹口からケンを差し込んで高く調整しています。

アゲミ2

【吹音のアゲミの調整】

次に吹音の調整です。下の写真は高くなった吹音のアゲミを、吹口からケンを差し込んで低く調整しています。

アゲミ3

最後に、低くなってしまった吸音のアゲミをケンの先で押し込んで高く調整しています。

アゲミ4

いずれの場合も実際に触っているところより根元側に強く力が働いているのがわかります。

はじめは怖いと思いますが、金属は戻ろうとする力がありますので少々の力ではアゲミは変化しません。ある程度強く押す必要がありますので、注意しながら勇気をもって行ってみてください。

【基準ピッチとチューナーの設定】

アゲミの点検、調整だけでも直ってしまうトラブルも多くありますが、前回の講座でもお話した通り、金属疲労によって音が下がってしまった場合はハーモニカの調律が必要になります。

実際の作業を見る前に、予備知識をつけておきましょう。ここでは複音ハーモニカをモデルにお話をしますが、調律の原理はどのハーモニカでも同じですから参考にしてください。

調律を行うには基準のピッチが必要です。国際標準では A=440Hz が採用されています。
この知識が何故必要なのでしょう。それはハーモニカの調律を行う際に使用するチューナーの設定に関わってきます。
弊社のハーモニカの調律基準は複音ハーモニカの基音、10HOLES は 441Hz、クロマチックハーモニカ、アンサンブルハーモニカは 442Hz で調律されています。

【チューナーの設定】

下の写真を見てみましょう。チューナーの電源を入れると(写真下) メーカー、モデルによって表示箇所は異なりますが440Hz と表示されます。

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チューナーにはPITCHまたはキャリブレーションというボタンが設置されていますので調整して複音ハーモニカの場合は441Hz に 設定しましょう。(写真下)

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Aは441HzだけどCは何Hz?などと考える必要はありません。基準を決めたら、チューナーが全ての音を自動で計算してくれますので、 設定したら、調律を終えるまで変えないでください。 

基本的な事ですが、赤い針が左に振れると音が低い状態、右に振れると音が高い状態です。

チューナー

【基音と波動について】

複音ハーモニカの図を見てみましょう。(下図)
複音ハーモニカはこのように 2 段になっていますが、上下には同じ音が入っています。上段が下段に対して少し高く調律することで生まれる波の事を「トレモロ」といいます。 下段が基音となっており、上段を波動と呼んでいます。 基音側は全ての音が先程設定した A=441Hzで調律されています。 ( ※ +4cent〜+8centの許容誤差があります ※1cent は半音の 1/100 分です)

「上段は何ヘルツですか?」というお問い合わせを良くいただきますが、上段の波動側は数値では表せません。

何故なら、トレモロの量はモデルや調子、音域によってによっても設定が違いますので、一律ではないのです。

弊社の整調者は異なるモデル、調子のトレモロ基準 CD を常に聞いていますので、そのモデルの基準に合うように波動側を耳で調整しています。(1秒間に約1〜4回程度になるように調整します)

「えっ!?それではユーザーには出来ないのでは?」と思われるかもしれませんが、皆さんは一からハーモニカを製造する訳ではありません。おかしいところだけを直す訳ですから、その箇所だけのトレモロバランスを調整する事になります。

 従って、ド〜レ〜ミ〜と吹いてレのトレモロがおかしいと感じたら、くるっていない両隣、 ドとミのトレモロ(模範のトレモロ量)に近づける作業になります。例えばレだけトレモロが多くなった場合は両隣のトレモロに合わせるように少しずつ少なくなるよう調律すればいいのです。

但し、上段がくるうこともあれば、下段の基音側がくるう事もあります。どうやって判断するのか。ここでチューナーの出番です。

複音プレート

【上下の吹き分け方】

複音ハーモニカは 2 枚のリードが同時に鳴っていますので、普通にチューナーに向かって 2 音を同時に出したらチューナーはどちらのリードの音を判断して良いのかわかりません。

チューナーで音をはかる時は上下のリードを吹き分ける必要があります。息をまっすぐ入れ、鳴らしたくないリードを指で押さえて吹きます。(写真下)
例えば基音側だけ鳴らしたい時は、上のリードを押さえます。

息の入れ方

よく上下を吹き分けようと、ハーモニカを斜めにしている人がいますが(写真下)これでは正しいピッチが得られません。

通常は金属疲労によって音が下がる事が一般的ですが、上段下段を吹き分けてチューナーではかり、どちらのリードが変化しているのかを確認しましょう。

ダメな吹き方

さて今回はここまでにしたいと思います。次回はお待ちかねの調律の方法になります。おかしい音を確認したら、どのように調律すれば良いのかをご説明します。

調律もやはり動画でご覧いただいた方がよりわかると思いますので是非YouTubeチャンネルもご登録ください。

この内容を動画でご覧になりたい方はこちら↓

TOMBO-ism
文章:長井