見出し画像

ベストオブ中国ポストパンク2023的プレイリスト

年末ということで、今年のリリースから最も印象に残った25曲を選んでプレイリストを作った。Apple Music版とSpotify版とがあり、どちらも内容は同じなので勝手のいい方で聴いてほしい。どっちも知らんという向きは、下の方のトラックリストに無料で聴けるリンクを貼っておいたから、そこから聴いてみればいいと思う。

もののついでなので、各曲の簡単な紹介や解説も載せておいた。少しでも参考になればと思う。ただし、どうでもいいようなことしか書けなかったり、バンドについて何も知らないために書くことが全然なかったりもする。枯れ木も山の賑わい。

おことわり

中国のバンドの名前については少々ややこしいところがあって、慣れない人のために前もって注意しておいた方が親切だろう。

たとえば、あるバンドの名称「阁楼演奏班」は、大陸で使われる簡体中国語での表記なんだけど、香港や台湾などで使われる繁体中国語で書くと「閣樓演奏班」になり、日本の漢字では「閣楼演奏班」となる。多くの場合、中国語の名前とは別に英語の名前も持っていて、阁楼演奏班は「Loft Youth」と名乗っている。また、ピンインの頭文字をとって「glyzb」とクレジットされていたりもする。怒らないでほしい。
すべてを網羅するとかえってわかりにくくなるし、基本的には簡体中国語+英語で統一することにした。あまりにわかりにくそうな場合は日本漢字をあてたりもするよ。

曲名についても中国語と英語を併記するようにした。どちらか一方しかないものもあるし、億劫がって探してないのもある。プラットフォームによって表記揺れがあったりもするんだけど、もうそこら辺は勘弁してもらいたいもんだなあ、と思っている。

便宜のために、それぞれのバンドが拠点としている都市も併記しておいた。地域ごとに特色があったりするので、注意すれば何か発見があるかも知れない。

当初予想していたよりも多彩なスタイルが揃ったし、リージョンもさまざまだ。シーンの全容とまではいかないけれど、ひとつのユニークな観点を提供できたんじゃないかと考えている。

Track List

Little Volcano 火山 - 饮马池 YinMaChi - 江蘇省蘇州

ここ2、3年あちこちで名前を見かけ、なかなか人気を博している様子にもかかわらず、国外ではなかなか音源に触れる機会のなかったバンド。ようやく今年になって配信が始まった。シングル1枚きりだけど。
伝統音楽やポストパンクの要素を取り入れたオルタナティブロックで、彼らの背景がパンクロックであることはハンチング帽から察することができるだろう。

用户6061279800 - 想想 XiangXiang - 広州

今年は yourboyfriendsucks! の再結成が話題を呼んだ。YBSのメンバーとその周囲の人間によって結成された想想は、ファンの間ではYBS 2.0と称されたりする。スタイルは異なるものの、楽しければそれでいい的バイブスと、ナンセンスかつユーモラスな歌詞は共通している。曲名は微博のアカウントIDに由来するらしい(「用户」はアカウントの意味)。

Bilibili で不定期に更新される想想Vlogでは、広州周辺のインディシーンの舞台裏を垣間見ることができておもしろい。字幕もついてて安心&広東語の勉強になるね。

Swim with Whales - The Twenties - 北京

DIYなスタイルでマイペースな活動を続ける女性ボーカルのグランジバンド。なんとなくUKっぽさがある。

星际迷航:叶问 - 右侧合流 YouCeHeLiu - 広東省

マスロックを土台にしたインディポップバンド。J-POP的アイドル的ポップネスを強調する方向へと舵を切り、なんかもうよくわからんことになっている。

娃哈哈 - 脏手指 Oh! Dirty Fingers - 上海

夏の日本公演も行った人の間では評判がいいエキサイティングなガレージパンク。
こどもの日に合わせてリリースされたシングルは、バンドのユーモラスな一面が強調されている。原曲は西域の民族音楽をルーツに持つ有名な童謡らしい。どことなく教育テレビを思わせるMVも愉快だね。

红 - 录耳 Lur: - 西安

シンセサイザーを多用するギター&ベースのデュオだったけど、正規ドラマーがメンバーに加わり3人組になっている。ダークウェーブだかコールドウェーブだか黒闇冷涼ポストパンクだ。

姐姐 - 谷水车间 Canned Dream - 上海

なんとなくサイケデリック音楽のイメージが強かったけど、よく聴くとライオットガールの系譜を引き継ぐパンクネスがあるし、ポストパンクのベースを感じられるね。

Sliding Sliding - 涂闻打印店 Sense Print Shop - 昆明

昆明といえば南方酸性咪咪が有名だけど、地元ではあまりインディロックは人気がないそうだ。しはしば「湿度が高い」と形容される癖の強いサウンドが生まれるのは、そういう状況だからこそかも知れない。
親しみやすいキャッチーなリフやコーラスは Joy Division 直系といったところ。

音源見つからなかったから2021年のファーストアルバムの曲を貼っておく。

Love Song 情歌 - 蛙池 WaChi - 広東省東莞

Carsick Cars の張守望によるプロデュースで注目を集めたけど、フォークロア的色彩が濃い。アルバムのリリースと同時に初期の音源を纏めたコンピレーションも配信しているよ。

荒涼天使 - 疯医 The Fallacy - 河南省新郷

知性と狂気とエレガンスが同居するニック・ケイヴ大好きクラブ。今がまさに絶頂期(3年くらい続いてる)の、中国で一番かっこいいロックバンドだ。シンプルなスリーピースだと思ってたらいつの間にか4人組になっていて、気づくとまた新しいメンバーが加入しており今は5人編成。
曲自体は割とオーソドックスなロック音楽なんだけど、演奏がキレッキレ。タイトルがジャック・ケルアックなのもポイントが高い。

春に出たライブアルバム『堅硬的荒原』も出色ね。

Stalker - 干诱因 Incentive Dry - 北京

結成から1年足らずで Maybe Mars とコントラクトに達したノイズロック。実験/前衛音楽家との交流も多いようで、No Waveとの親和性も高くインダストリアルなところもある。今後の北京インディの代表格になりそうね。

跳,集美大桥,跳! - 熱键被杀手 ReJianBeiShaShou - 西安

2015年に廈門の大学生らによって結成されたバンド。今年から西安に拠点を移した(仕事が決まったからだと思う)。エモ、シューゲイズといった南方の空気を感じさせながら、メンバー募集広告にはFugaziが好きって書いてあった。

Breathe In - Pale Air - 上海

本格シューゲイザーの初フルアルバム。OX4 Sound (Ride感)で録音されたという触れ込みだが、どちらかというと宇宙っぽい。そういえば Event Horizon という曲もあったし。
阿佐ヶ谷mogumoguに12インチがあったので、なくなる前に買っとけばいいと思う。

Day Dream - 波卡利甜 Pocari Sweet - 広州

南方シューゲイズ界の中でも特に国際的な知名度の高い Pocari Sweet。メンバーの留学のためバンドはしばらくお休み状態だったが、2022年から活動を再開している。今年には Tears in Rain というEPをリリース。このタイトルについては、"All those moments will be lost in time."という意味が込められているのかどうか気になっているのだけど、実際のところどうなんだろうね。いずれにしても、この曲の調子は著しくメランコリック。

眼泪 - The Bootlegs 靴腿 - 青島

脱力系ほのぼのローファイベッドルームサーフガレージシューゲイズポップ。男声版Dear Eloise と思ってくれればいい。

An Evening of Springtime Intoxication 春風沉醉的晚上 - 阁楼演奏班 Loft Youth (glyzb) - 青島

シューゲイズ/ポストロックを土台に持つインディポップさわやか3人組。ついにメジャープラットフォームでの配信がスタート(待ちかねた)。
一言で言うと、エモい(情緒がある)。
あまりにも最高な『沿海公路』のMVも貼っておくよ。

情迷三月三 - Run Run Run - 北京

リーダーの小窦による性侵犯がネット上で告発され、突然解散を発表したのが2021年の夏。音沙汰のないまま2年が過ぎ、またしても突然シングルを発表して復活。メンバーの数も倍増し、いったいどういうことなんだ……。
本格サイケデリック/クラウトロックから謎の懐メロ中華ポップ路線へと変貌しているのも反応に困る。中華ポップス専門家の判断を仰ぎたいところ。

成年期长颈鹿 - 动物园钉子户 Zoogazer - 福州

Zoogazer の名から推しはかれるように、結成当初はシューゲイザーだったみたいだが、今となってはその名残を見つけることも難しい。シティポップ調だったりメタル調だったりと、そのときどきの気分でスタイルを変えているようだ。結果として懐の広いポップ音楽職人みたいになっている。曲名に動物の名前が入ってることが多い。

失眠症 - 吹飞 Trip Fuel - 合肥

マスロック、シューゲイズ、ポストロックといったジャンルの名前が並ぶけれども、まあサイケデリックということでいいのではないかと思う。
リーダーの経理は銀行で働いており、銀行で働いてるから経理という名前らしい。銀行が忙しくてElephant Gym の前座をキャンセルせざるを得なかった、などといった悲劇に事欠かない様子。
発行元のWild Records は、武漢の Chinese Football が主宰しているレーベルだね。

Don't Worry, I'm an Idiot - 恒温人员 Thermostat - 北京

2020年から活動しているベッドルームポップ。
ほんとに何も知らなくて書くことがないやつ。

Falling - Lost Memory Machine - 北京

曳取 Nocturnes のメンバーによるサイドプロジェクトで、トリップホップ的アプローチの音楽をやっているよ。

回环的梦境 - 缺省 Default - 北京

ネット上にアップした自主制作アルバムが話題を呼び、生煎唱片の第1作としてリリースされたことは、生煎唱片リスナーの間ではあまりにも有名なエピソード。中国シューゲイズ新世代の旗手ともて囃されたりもしたけれど、今年リリースされたサードアルバムは全編すっかりインディフォークというありさま。

Mille Plateaux 千高原 - 发光曲线 Glow Curve - 北京

前身バンドも含めると、結構長いキャリアのバンド。エレクトロニック楽器と弦楽器の独特の混用が魅力的なサイケデリック音楽。
参照しているのはフェリックス・ガタリ『千のプラトー』だが、あいにく読んだことなし(ノーコメント)。

Three-Body 三体 - 重塑雕像的权利 Re-TROS - 北京

中国のインディロックの帝王 Re-TROS。2017年の Before the Applause リリース後初の新曲は、TVドラマ『三体』の主題曲。

Butterfly Morning Dream 蝶影晨梦 - Forsaken Autumn - 上海

ギターのBrit Lu氏は、2013年に東アジアシューゲイズフェスティバルを主催し、中国シューゲイズシーンの基盤を作った人物。Luuv LabelのCEOとして、日中双方のインディアーティストをマネージメントやディストリビューション、ライブやツアーの企画を手がけるなど、バンドやる暇あったのか……と感心してしまうね。
数年ぶりの新曲は12インチMixって感じのダンストラック。唐突にノイズギターをぶち込んで来たりするところにMBV民らしさが感じられる。

+1

Apple MusicとSpotifyではまだ配信されていない(この記事を書いている時点では)ものの、3月にリリースされた白百 Endless White の『Changeless』(世界是拉不直的问号)は、個人的に今年のベストアルバムだしマジサイコーなので、心ある人は Bandcampで聴くか購入するとよいよ。


Spotifyで、なぜか別名義で配信されている収録曲が見つかった。今なおApple Music には見当たらない(2024年3月時点)。

おわりに

今年1年を振り返ったりする文章でも書こうと思っていたのだけど、そんな力はもはや残されていなかった。

ちなみに2022年版のプレイリストもあるよ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?