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友人の話

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2014年6月の記事一覧

第33話 友人の話-救い主

第33話 友人の話-救い主

サダくんにはSNSゲームにはまっていた時期がある。

「仕事中はトイレでやってた」

ゲームはチームを組んで闘うタイプ。
平日の日中もバトルがある。

サダくんはこっそりトイレに行き、そこから参加していたという。

そのせいもあったのか。
仕事でミスを重ねるようになった。

ゲームのことはばれなかったが、上司にはひどく叱られ、派遣の彼は立場が危うくなるほどだった。

「それでもやめられなくて」

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第32話 友人の話-噛むもの

第32話 友人の話-噛むもの

カワウチくんの仕事は、ときおり田舎への出張がある。
泊まりになると、宿泊施設を見つけるのに苦労することも多い。

「あのときは、その民宿しかなくてな」

仕事が終わり、予約してあった宿に着いた時には、すっかり日が落ちていた。

北側に里山を背負い、前はうっそうたる竹藪という、ひどい立地の民宿だった。

「風が抜けないのか、ひたすらジトッとしてるねん」

部屋に案内してくれたのは、80歳はゆうに超え

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第29話 友人の話-自販機

第29話 友人の話-自販機

友人のミシマくんは、自販機が苦手だ。

あるとき、その理由を語ってくれた。

「おかしいと思われるから、人に話したことはほとんどないねん」

彼がそれと遭遇したのは、大学生のころだったという。

ゼミ仲間との飲み会から帰る途中。
喉の乾きを覚えた彼は、たばこ屋の前に置いてある自販機に硬貨を入れ、ボタンを押した。

ペットボトルが落下するゴンっという音がしたので、取り出し口に手を入れた。

その手を

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第28話 友人の話-幼稚園にいたもの

第28話 友人の話-幼稚園にいたもの

「幼稚園のころの話やし、不思議なもんを見たわけでもないんや」
そう前置きをして、友人のタムラくんが話してくれた。

彼が通っていた幼稚園はお寺が経営する仏教系の施設だった。
その幼稚園に「チャコ」と呼ばれるものがいた。

「俺自身は、子ども同士の遊びやと思ってたんやけど」

チャコは架空の女の子だった。
少なくとも、タムラくんはそう思っていた。

白いブラウスにえんじ色のスカート。
イタズラが好き

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第27話 友人の話-雪

第27話 友人の話-雪

友人の美鈴さんは雪が苦手だ。

彼女はかつて、ストーカーに悩まされたことがあった。
半年ほど付き合った男性だった。

「なんとなく、違うな、っていうのがあって、別れたんだけど……」

男の方はその別れを受け入れなかった。
大阪で一人暮らしをしていた彼女の家に、何度も押しかけ、しまいには職場にまでやってきた。

「カッターナイフを3本も腰に差してきたから」

身の危険を感じた彼女は、広島にある実家に

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第25話 友人の話-にじみ出てくるもの

第25話 友人の話-にじみ出てくるもの

子どものころからあまりにたくさん見過ぎて、ただの幽霊くらいでは、特別なものを見た、という気にならないという。

そんなMくんが、つい最近「ちょっとゾッとするものを見た」らしい。

「夕方、学校からうちに帰る途中でした」

とある工事現場の横を通りがかったとき、Mくんは低くうなるような声を聞いた。

「ウウウ……というような声でした。人なのかどうかもわからないような」

自転車を止めて、Mくんは工事

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第22話 友人の話-遠回り

第22話 友人の話-遠回り

先日、友人や後輩が集まり、昼飯を食べる機会があった。

「怖いものや不思議なものを見たことはない?」

例によってそう訊ねてみたところ、5にんのうち4人までは、「まったくない」という返答だった。

「けっこう見える方なんです」

そう答えたのは、後輩のMくんだけ。
母方の家系はみな、それなりに見える人だという。

そんなMくんは小学生のころ、家の近所にある踏切で、男性を見かけた。

「腰から上だけ

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第19話 友人の話-空間

第19話 友人の話-空間

「特に不思議なものを見たわけやないんやけど」

不思議な体験や怖い体験はないか?
ぼくの問いに、伊地知はそう答えた。

高校時代からの友人である伊地知は、仲間内では旅行好きとして知られている。

一人で出かけることが多いが、穴場を見つけると、後に友人を誘って再訪するのも楽しいのだとか。

「そのときも、○○とか、××を誘ってな」

行き先は古い温泉地だった。
近くに人が集まる観光名所などがないため

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第15話 父の話-図書館の椅子

第15話 父の話-図書館の椅子

定年まで教師として勤めた父は、退職後しばらく、図書館でアルバイトをしていた。

本が好きだったのだ。
適度な運動になるので、健康管理にもちょうどいい、とも語っていた。

ぼくもよく利用していたのだが、その図書館には、あちこちに椅子が置いてあった。
来館者が本を読むためのものだ。

中に一つ、あまり人が坐らない椅子があった。

作りは他のものと同じだし、特に坐りにくい場所にあるわけでもない。

なの

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第17話 友人の話-よくあること

第17話 友人の話-よくあること

看護師をしている五木さんによると、夜勤はやはり怖いという。

消灯してから朝までの間に、何度か病棟の見回りをしなければならない。

懐中電灯を頼りに、真っ暗な廊下を歩き、入院患者の様子を確認して回るのだ。

「たいていの病院には、出る、という噂があるから、いちいち気にしてられないんだけど……」

看護学校を出てすぐ、五木さんが働くことになった病院では、日によって階ごとの見回り担当が決められていた。

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第16話 友人の話-病室

第16話 友人の話-病室

以前、祖母が地元の病院に入院したことがあった。
その病院には、看護師をしている五木さんという友人がいた。

彼女から、「出る病室がある」と聞かされていたので、ぼくはすぐに、部屋の番号を確認してもらった。

「違うから大丈夫」

そう聞いて、一安心した覚えがある。

ちなみに、五木さんによると、その病院では
「夜中に子供が部屋の中を走り回ってうるさい」
「ロッカーが深夜になるとガタガタ音を立てる」

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