第22話 友人の話-遠回り
先日、友人や後輩が集まり、昼飯を食べる機会があった。
「怖いものや不思議なものを見たことはない?」
例によってそう訊ねてみたところ、5にんのうち4人までは、「まったくない」という返答だった。
「けっこう見える方なんです」
そう答えたのは、後輩のMくんだけ。
母方の家系はみな、それなりに見える人だという。
そんなMくんは小学生のころ、家の近所にある踏切で、男性を見かけた。
「腰から上だけなんです」
踏切の真ん中に上半身が生えるようなかっこうだったらしい。
霊だ。
当時すでに幽霊を見慣れていた彼は、すぐにわかった。
だからといって、「幽霊は怖いもの」という発想は、あまりなかったという。
たいていのものは無害で、そこにいるだけであることを知っていたからだ。
ただ、その男が通りがかる人を見る目つきには、どこか怖いものがあった。
彼はいつしか、その踏切を避けるようになっていた。
男の正体を教えてくれたのは、Mくんの伯母さんだった。
親族の中で一番強く「見える」人。
「ずいぶん前に自殺した人がいたのよ」
伯母は彼にそう教えた。
急行列車にひかれた遺体は、半分にちぎれ飛んだ。
しばらくして、その霊は踏切に居座るようになり、もう10年以上もそこにいるという。
「見えていることが分かったら、ついてくるかもしれないから、できるだけあの踏切には近寄らない方がいい」
そう言われたMくんは、今もその踏切を避けて、遠回りしている。
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