第15話 父の話-図書館の椅子
定年まで教師として勤めた父は、退職後しばらく、図書館でアルバイトをしていた。
本が好きだったのだ。
適度な運動になるので、健康管理にもちょうどいい、とも語っていた。
ぼくもよく利用していたのだが、その図書館には、あちこちに椅子が置いてあった。
来館者が本を読むためのものだ。
中に一つ、あまり人が坐らない椅子があった。
作りは他のものと同じだし、特に坐りにくい場所にあるわけでもない。
なのに、なぜか坐る人が少ない。
「女性が坐ってるからですよ」
父に聞いた話では、図書館員の中にそう語る人がいたそうだ。
「見える人」である彼によると、その椅子には女性の霊が坐っているのだという。
それゆえ坐る人が少ない、ということらしい。
彼ほどハッキリ見えないにしても、なんとなく不気味な気配を感じる人は多かったのだろうか。
問題の椅子にぼくは坐ったことがある。
なにも知らなかったのだ。
特に違和感はなかった、と記憶している。
今もあの椅子の霊が坐っているのか……それは知らない。
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