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知ってるようで全然知らない「らっきょう」の話をします。[栽培編]

『らっきょう専門店 とまりのつけもの』の岸田です。

専門店を営む私が言うもんじゃないかもしれませんが……らっきょうって本当に知られていないですよね。もちろん名前は知られていますけど。食べ方だって、カレーに添えると答える人が大多数じゃないでしょうか。他の食べ方、知ってます? そもそも、らっきょうがどんな野菜かも知られていないですよね(野菜と知らない人もいるぐらい)。

名前は知ってるけど、よく分からない食べもの、らっきょう。

そんならっきょうを取り巻く「?」を積極的に打破すべく、まずはらっきょう栽培の一年について語っていこうと思います。


らっきょう栽培の1年

夏:灼熱の植え付け

お盆を過ぎたころの真夏に、らっきょうの植え付けは始まります。

らっきょうは地熱60度の土地でも育つ強靭な植物で、無農薬でも、荒れ放題の草ぼうぼうのところでも実をつけることができる強い野菜。なんていうか、、、強すぎる。だから水も栄養もない鳥取砂丘の砂でも育つ。すごいぞ、らっきょう!

……さて、植え付けのときの姿は小さな玉のらっきょう。種球と呼ばれ、ひと球ずつ砂の中に植えていきます。

こちらは前年のらっきょうから厳選されて、種球となったらっきょうです。

このバケツを抱えて畑の中で植え付けを行います

これをバケツにたんまり入れて、一つずつ植えていく。機械ではなく、すべて手作業がうちのらっきょうの植え付けです。

それにしても、この時期の植え付けの暑いの何のって、もうすごいです。タオルで拭うそばから汗が流れてきます。気をつけないとすぐに熱中症です。

植え込み前のワンカット。写真では分からないですがめちゃくちゃ暑いです

この過酷な現場でもっとも頼りになるのは、らっきょうの特殊部隊とも言える熟練シニア世代。平均年齢70歳になるんじゃないだろうかという、おばあちゃま世代が大活躍。なにしろ年季が違う。達人ともなれば1日平均1万球も植付けけできるそうです。バケツ何個分なんだ、、、。

そして死ぬ思いで植え付けが終わると、次は終わりの見えない草取りです。

ちょっと目を離せばすぐに草だらけに、、、

らっきょう農家の仕事は、大きく3つ。

植え付け、草取り、収穫

とりわけ、草との戦いが過酷です。畑のはじっこから始めて、やっと終わったころには最初に抜いたあたりからもう新しい草が生えてくる。うちの畑は農薬を極力減らしたいので最低限の栄養の肥料のみなのに、それでも延々と終わらない。草取りは苦行。

秋:らっきょうの開花

ちょうど今(11月中下旬)、畑にはらっきょうの花が一面咲いています。らっきょうの花がどんな形をしているかご存じですか?


線香花火のような、独特の形をした花びら。


らっきょうの産地である鳥取市福部町では、ゆるやかな起伏のある砂丘地帯に群落で栽培されているので、花がいっせいに咲くこの季節は、丘一面に赤紫色の絨毯を敷き詰めたよう。まるでラベンダーみたいです。

このらっきょう畑、じつに東京ドーム26個分もの広大な農地で栽培されているので、訪れるとその風景に圧倒されますよ。

満開の季節は「らっきょう花マラソン」も開催されます。見るにも走るにも気持ちがいい光景ですよ

冬:極寒の雪の中で耐え忍ぶ

らっきょうがきれいな花を咲かせた後に訪れるのは、日本海の厳しい寒さ。

鳥取は日本海側の雪の多い地域です。冬の気温は氷点下となり、砂丘も一面を雪に覆われるので、らっきょうも冬の間は日本海からの厳しい風雪に耐えて、じっと春を待ちます。

雪の中にすっぽりと埋もれています。雪の中でも負けません

冬が厳しければ厳しいほど、色白で実が堅く引き締ったらっきょうに育ちます。 夏は地表面温度60℃、そして冬は氷点下。この過酷な条件で育つらっきょう、本当に生命力が強い植物です。

春:らっきょう成長期

雪が少しずつ解け、温かくなり、らっきょうが再び畑に顏を出します。
3月から5月頃にかけて、青々とした葉が伸び、太陽の光を浴びるこの時期にらっきょうの球はぐんぐんと成長していきます。

らっきょうは強い植物ではありますが、より良い品質として育つためにはこの時期の天候や、雨量がとても大切。そして暖かくなれば、虫たちも活動してくるので草取りに加えて害虫対策と、油断できない季節です。

また、この時期にはらっきょう畑では、らっきょうに土を被せる「土寄せ」を行います。実は、日光を浴びたらっきょうは緑色に変色。砂丘らっきょうらしい白さを保つための大事な作業です。

6月前半:待ちに待った収穫

灼熱の植え付け、終わらない草むしり、厳しい冬を乗り越え、ついに収穫の時がやってきます。

1球のらっきょうから分球して、こんなにずっしりと育ちます

らっきょうの可食部分は、土の中で育ちます。上の葉の部分が枯れてくるころが収穫時。葉が枯れる前にトラクターで収穫。しっかり根を張っているので、引っこ抜くというより、砂地の中からごっそり掘り起こすイメージ。

掘り起こされてサラサラの砂がついた状態のままコンテナで運ばれていく

掘り起こされたらっきょうはすぐに、切り子さんという特殊部隊に運ばれていきます。

切り子さんに到着すると、すぐに「根切り」と呼ばれる加工が始まります。葉と根と茎の部分が切り取っていくのですが、切り子さんの作業スピードのはやいこと!

すごいスピードで立てた包丁に押し当てて切っていく

こうして形が整えられた後、洗っていく中で皮の土がとれ、薄皮も取り除いて、やっとお馴染みの白いらっきょうが顔をだしてきます。

6月後半〜:らっきょうを漬ける

さて、ここからが私たち漬けものメーカーの本領発揮。

工場に到着したきたらっきょうを、水洗い、選別して、塩水に1か月ほど漬けておきます。塩度の高く酸素が少ないタンクの中は雑菌が繁殖しにくく、逆に塩分に強い乳酸菌が増えて発酵が進んでいきます。知らない人も多いですが、らっきょうは発酵食品です。

漬け出して一週間もするとタンクの中は発酵の泡でブクブクブク。

泡の中で発酵が進み、様子を見ながら下漬け。この間、塩水を変え二度漬け変えるのがうちの特徴です。大変手間がかかりますが、その分、乳酸菌がしっかりと働いてくれ、らっきょうの持つ辛みが抑えられ、歯応えもよくなっていきます。

新物といわれるらっきょう漬けが出来上がるのは8月ごろ。昔はスーパーで「砂丘らっきょうは漂白されているの?」とよく驚かれたものです。もちろん、これが自然の色。砂丘の宝石といわれる所以です。

真っ白に輝いているらっきょう

ちなみにうちでは年内に収穫したらっきょうは、一度すべて処理し、1年間保存して使用できるように塩漬けにして保管しています。製品に使用するたびに、一定濃度の塩分濃度に下げるために塩抜きをして、製造に取り掛かるので、いつでも最高においしい漬物をお楽しみいただけるのです。


さて、ずいぶん長くなってしまいましたが、らっきょうのこと、少しは知っていただけたのではないでしょうか。産地である鳥取市民ですら、ここまで知っている人は珍しいですが笑 

これからも、マイナー野菜であるらっきょうのこと、どんどん発信していきますね!

らっきょうが食べたくなったらぜひ当店へ。美味しくバラエティ豊かならっきょうを取り揃えております。


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