見出し画像

今世紀最大級の梅不足……かもしれません。

「7月30日」は「梅干しの日」です。
梅干は健康に良く、「梅干しを食べると難が去る」と昔から言われてきたことから「なん(7)がさ(3)る(0)」の語呂合わせからきています。

ちなみに、近しい日が「6月6日」。こちらは「梅の日」です。

由来は室町時代末期。日照りが続いて人々が苦しんでいた時に、時の天皇である後奈良天皇が京都の「葵祭」で有名な賀茂神社に梅を奉納し、祈りを捧げると、たちまち恵みの雨が降り出して五穀豊穣をもたらしたとか。その奉納した日が6月6日。

人々はその天恵の雨を「梅雨」と呼び、梅に感謝すると共に、福を招く梅を梅法師(うめぼうし)と呼んで、贈り物にするようになったといわれています。今でいうお中元の元祖は、梅から始まったのですね!

ちなみに日本一の梅の産地・和歌山の紀州梅の会では、毎年6月6日に宮中とご縁のある賀茂神社に、そして世界遺産の地、熊野本宮大社をはじめ地元須賀神社に人々の無病息災と平穏を祈願して梅を献上し、さらには10月10日、豊穣を祝って梅干しを奉納しています。

今年も、6月6日は京都市の上賀茂神社・下鴨神社では、『献梅の儀』が執り行われ、梅の豊作と発展が祈願されました。

1200個の梅干しを配布した梅行列 (出典「食料新聞「梅」業界活動2024」)

梅行列では「紀州南高梅」や「梅の日」の旗を立て、時代装束に身を包み行進したり、祝詞奏上、玉串奉奠など厳粛に執り行われました。

梅業界にとっては、最大の行事。梅の恵みへ感謝し、梅産業の更なる発展をお祈りされる大事な催しなのですが、今年はどうやら不穏な影が……。それは、、、

かつてない梅の大不作。


それも、ただの不作どころではなく、例年の50%、70%減という話も聞きます。2000年以降稀に見る不作とも。

この大不作、実は、冬からその前兆はありました。
今年の冬は暖冬で、産地では例年ずいぶん早い梅の開花でした。平年では2月10日頃。でも23日早い1月18日。

開花が早すぎると何がいけないのか?

そのひとつは、多くの花が不完全な状態で咲いてしまう(雌しべが短く、めしべが未発達など)ため、受粉がうまくいかず実が激減してしまうこと。

もうひとつは、ミツバチが寒くて動いてくれないことです。
南高梅は自家受粉(自分の雄花の花粉で自分の雌花が受粉すること)ができません。そこで花粉をミツバチの力で運んでもらうことが必要になるのですが、開花が早いとミツバチの活動が活発化しないんですね。

ミツバチが働いてくれない

受粉がうまくいかない

結実しない

不作となる可能性大

という流れ。
今年は着花だけみても、平年比の29%。かつて「平成以降2番目の大不作」といわれた2020年は平年比約60%だったのですが、今年はさらにその半分。今世紀最悪の数字というのも、あながち大袈裟ではないのです。

実は、私も今年の1月15日頃に和歌山の梅屋さんにお邪魔したのですが、あたりの梅の畑を見るとちらほらと花が咲いているではありませんか。しかも一輪二輪とかではなく、、、。これは!? 、、、と懸念していたのです。

1月にも関わらず開花しつつ。ミツバチはまだ飛んでいません。(1月15日の和歌山の梅の花)


3月に雹(ひょう)が降ってきた

さらに今年は試練が続きます。
実が膨らみ始めた3月20日。和歌山県内で雹(ひょう)が降りました。これによって、せっかく膨らみ始めた梅の実に1ミリほどの傷が付いてしまいました。小さく思えますが、この1ミリは実の成長に合わせて広がって大きくなります。

傷があっても味は変わりません。しかし、傷によって等級が著しく下がり、取引価格などに影響します。和歌山県だけでも、このひょうによる県内の梅の被害額は22億円とも言われていました。

収穫量の減少に加えて、秀品率の低下となると農家さんにとってはとても厳しい状況です。

ひょうで傷がついてしまった梅。

暖冬の影響は、虫にも。

加えて、暖冬は虫への影響もありました。カメムシなどの害虫の増加です。
通常は冬の寒さでカメムシの数は減少するのですが、今年の冬は例年より多くのカメムシが冬を越し、鳥取でも真冬の1月に大量のカメムシがいました。

その結果、例年以上のカメムシが梅を襲うことに。カメムシは梅の実に口針(こうしん)という管を刺して種を吸おうとするので、実の表面にヤニがついたり、変色します。

同じ梅でも、特に小梅は果肉が薄く、針が種まで届いて吸われると落果につながることもあるのです。

せっかく花が咲いても害虫の被害も暖冬による影響です

和歌山県の梅の収穫量は全都道府県の64%を占めています。そんな和歌山県で梅の不作が起きると、全国で梅の価格が高騰してしまいます。

そしてこの梅の不作、悪いことに今年は全国的なのです。
他の産地では昨年の秋の肥料を与える時期は雨が少なく、栄養が十分に行き届かないまま越冬し、逆に開花時期は雨が多く、うまく受粉できなかったり。開花期間中の長雨や低温による晩霜の影響のところもあります。

梅の値段が高い、というより、その前に梅がないのです。

全国的には6~7月には梅の収穫体験ができたり、梅干しの講習やワークショップがあったり、梅関連が盛り上がる時期。しかし今年はそういったイベントも縮小や中止という話も耳にします。

梅干しを漬けようかな、梅酒にしようかな、梅ジュースにしよっかなと、と考えるのが楽しみな時期なのですが、今年は梅自体を見つけること自体が一苦労になりました。

もちろん私たちのように漬物を扱う会社は原料不足に頭を抱えます。でも、梅がない&この暑さで、むしろ梅干しがよく売れたりして、商売の難しさに直面する日々。

限られた梅原料を慎重にコントロールしつつ、次の梅が豊作になることを願い、皆さまのもとに美味しい梅商品を供給していこうと誓うばかりです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?