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草食の角(艸鬼)[Story+image]

ウチには、ちょっと変わった系図がある
はじまりが、鬼になっているのだ
家系図なんて おおかたは金を払って
デッチ上げてもらうものらしいが、
わざわざ鬼につなげるだろうか?

ま、専門家に見せれば
何かわかるかも知れないが
偽造品だといわれてもおもしろくないし
かといって、本物と云うことになれば
話を聞きつけたマスコミがやってきそうだ
それも困る

ただ、隠しておくには忍びないことが一つある
先祖が鬼にされた経緯についてだ
系図にはそのことが書き添えられていた

先祖は角をもっていたらしい
紛れもなく異形である
昔はカツラもなかったろうし
いいヤスリもなかったろうから
今で云うイジメの対象になったことは
想像に難くない

しかし、とても温和しい性質だったという
鹿や羊のように、と書かれていた
はじめはなんのことかわからなかったが、
角は 猛獣のものではないと云うことだ
他者を襲って食らう猛獣の武器は
鋭い牙と爪であり、角は持っていない

が、心ない人々は
ステレオタイプな鬼のイメージを信じ
あろうことか先祖の口に無理矢理
狼の牙を嵌め込んだのである
そして その牙が取れなくなった
やったほうは軽い気持ちだったかもしれないが
先祖は発狂した
かくして先祖は本物の鬼にされた

こんな話 とても人には云えない
云えないが 先祖の無念を思うと
黙ってもいられない
角と牙では、まるで性格が違うのだ
絶対にイヤなことをされれば
誰だって狂う

それが角のある人間を描いている理由だ
オレの描く人間には角はあるが牙はない
角と牙、その二つは相容れないものであり、
神は両方をもった生き物など創られなかった

もしかしたら 牙を持つ
凶暴な人間がいるのかもしれないが
少なくとも角を持つ人間には牙はない

売れない画家がいくら描こうとも
世間のイメージは少しも変らない?

それはその通りだが
実はもう一つ期待していることがある
鬼にされた先祖の末裔は他にもいるはずで
せめて一族の者には
先祖の姿をただしく伝えたいのだ

ウチのように系図があればいいが
なければ、自分は恐ろしい鬼の末裔だと
そう思うしかないではないか

頭部がふくらんでくるのをたえず気にして
ヤスリで削り落とす度に
自分がいつか鬼に豹変するのではないかと
そんな恐怖に怯える日はもうたくさんだ

白状するか……
他人事のように話してきたが
このオレも 角を与えられし者の一人だ

絵は願いであり夢でもある
オレたちが角を削らずに生きられる
そんな世界の……




節分の鬼のイラストを用意しようとして
こうなったとは云えない……


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