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[幻聴ラヂヲ]オダチャイルド[短編]

 今回、聞こえてきたのはこの国とよく似ている星の話だった。パラレル・ワールドというやつかもしれない。ただ発信者は放送局ではなく、個人のオタクのような者らしい。
 というわけで信憑性ゼロどころか、マイナス・マックスなのだが、ネタとしてメモしておくことにする。

 ストーリーを理解しやすくするために、この国のことに置き換えて話すことにした。しかしそれは方便であって、あくまでヨソの星のこと。くれぐれも誤解のないように。

◇ ◇◇ ◇◇◇ ◇◇ ◇

 まず、ホンノージの変、その星のエスパーの見立てによると、当日ノブナガは不在だった。当然、殺されようがない。じゃあ、その後どう生きたのか?
 ヨーロッパに渡ったらしい。行き先は宗教都市だ。現地にはノブナガが存在した形跡が今もあるという。ただ、そこで彼が何をやっていたのかはわからない。エスパーは語ってくれなかったそうだ。

 ということで、それだけなら、ったく子供だましのようなネタだが、発信者のオタク君は、エスパーの話とは別の所で、あることに気がついた。

 幕末にやってきた外国商人の某。倒幕の方法論や資金を提供したとされるあの商人の顔がノブナガに似ていることに気づいたのだ。その商人の子息に至ってはうり二つだったそうだ。写真のような精密画のほうである。それを見たオタク君、一気に妄想が広がった。

 ちなみに、エスパーの透視によると、ノブナガの渡欧をお膳立てしたのはミツヒデだという。ホンノウジを襲撃したのが自作自演の芝居だったのか、別の勢力が襲撃したのかはエスパーは語らなかったそうだが、「ノブナガーミツヒデ仲良し説」だ。

 幕末の外国商人の話に戻る。
 彼の秘蔵っ子は、云わずと知れたリョウマである。株式会社の原型を本当に立ち上げてしまった。もし暗殺されなければヤタローよりもはるかにスケールの大きなことをやっていただろう。
 そのリョウマ、ミツヒデの子孫という説がある。この国では今や支持されなくなった説だが、かの星では信じられているようだ。
 ノブナガの子孫っぽい外国商人とミツヒデの子孫っぽいリョウマ。二人の出会いは偶然だろうか? そんな偶然があるだろうか? もし偶然でなければ、二人の関係は時空を越えてつながっているということになる。

織田信長公
https://ameblo.jp/eco-rakuiti/image-11977020928-13189087475.html

外国商人の息子
http://stat.ameba.jp/user_images/20090525/17/marine-16/29/8f/j/o0800096810186329036.jpg

 そのことを念頭に置きつつ、ノブナガの話に戻る。

 ノブナガは渡欧して何をやりたかったのか?

 歴史的な資料が皆無だが、リョウマの生き様を思い浮かべると、なんとなく察しがつく。
 おそらくリョウマと同じように、商売で身を立てることを薦められたのではないか。あなたほどの度量と才覚があれば七つの海をまたにかけて国王以上の財を成せますとかなんとか。宣教師たちは。三角貿易とか植民地経営とか目の眩むようなカラクリを吹き込んだのだろう。
 むろんノブナガはリョウマのような若僧ではなかったから、そんな話に乗ることはなかったが、ただヨーロッパの狡猾さには舌を巻いたのではなかったか。他国や他民族を支配するには、ものすごいノウハウが必要だと悟ったのだと思う。
 そこが朝鮮征伐に乗り出したヒデヨシとの違いだ。実際、ヒデヨシは当初、軍事的には勝利したが統治が出来ずに敗退した。帝国のノウハウがないのだから当然だ。朝鮮出兵はノブナガの計画だったと云うが、ノブナガは宣教師と話すうちにそれが無理だとわかったと思う。

 宣教師はノブナガに問われるままに、ヨーロッパに居る特別な一族や結社の話をしたのだろう。世界支配には膨大な歳月がかかる。当然、一代では成しえない。一族として何十代にも渡って積み重ねていく必要がある。しかし、その途方もない努力をやっている一族や結社がヨーロッパには幾つも実在していると。

 そこまでわかれば二者択一である。このまま極東の支配を完成させて人生を終えるか、それとも世界支配をめぐって熾烈な競争が繰り広げられているヨーロッパの奥の院を自分の目で確かめるか。

 エスパーの透視によると、ノブナガは後者を選んだという。彼の並外れた野望は、世界の支配を構想せずにはいられなかったのだろう。

 大昔から世界支配にチャレンジしていた一族や組織がある…… 世間知らずのものが聞いても戯言でしかないが、この国には数々の証拠がある。ジンジャのルーツ、ショウトクタイシ、アントク……の正体等々、実例を並べられたら、うなるしかない。公家でさえ教えてくれなかったこの国の秘密を宣教師たちが知ってる! それが気にならないとすればそれこそウツケである。
 ノブナガが地球儀を眺めるシーンがドラマではお馴染みだが、その時に考えていたのもそのことだったと思う。「世界はつながってたのか」である。むろん物理的な話ではなく、ルーツが絡み合っていたという意味だ。

 ヨーロッパへの渡航費、滞在費はどうした?

 そこを考えると、この国から仕送りしたとしか思えない。大金を持っていれば殺されてしまえば終わりだからだ。前払いしても同じだ。
 と考えると、少なくともヒデヨシは仕送りを続けたことになり、であれば、ノブナガはヒデヨシに権力を譲ったことになる。
 が、ヒデヨシとて何もなければ約束を反故にしただろう。ヒデヨシの行動を監視していた者たちもいる。誰? たとえばカンベーだ。彼は来栖だが、信者というよりは布教会につながっていた。

 そうか、そういうことだったのだ。

 欧米勢力が介入してきたのは幕末が最初ではなかったのである。ヒデヨシの軍師がカンベーだというのは、布教会がヒデヨシを支援していたのだ。
 タネガシマの鉄砲が爆発的に広がったのと同じように、来栖教も一気に浸透していた。鉄砲の数だけ信者がいた。鉄砲の力に匹敵するくらい諸国の大名は来栖の策謀の恩恵を受けていたのだ。
 そう考えると、カンベーがムラシゲに囚われていたという有名なエピソードも大いに怪しくなる。二人とも来栖だからだ。囚われていたというのは歴史にありがちなカモフラージュで、実はカンベー、ムラシゲと一緒にノブナガを揺さぶっていたのではなかったか。
 そういえば、ムラシゲも生きのびている。あれはこの国の大将の感覚ではない。大将が首を指しだしてほかの命を救ってくれと頼むのがこの国の感覚だ。ムラシゲは、植民地総督のようなつもりだったのではないか。むろん、布教会がそう指導したのだろう。
 ノブナガ包囲網…… 思えば実に怪しい。陰険なヨシアキの策謀? 時代小説を真に受けてると頭が漫画になる。あのホンガンジ勢力だって…… 話が長くなるので割愛するが、すでにノブナガはヨーロッパ勢力の波状攻撃を受けていたのだ。一兵たりとも送り込まずに、現地の諸勢力を自在に操って攻撃させるというその魔法のような手口を目の当たりにしていたからこそ、宣教師の言葉が肚に落ちたのだ。ノブナガは宣教師たちと戦いつつ、世界を学んでいた……。

 オタク君の妄想の結論は、こうだった。

 ノブナガは世界を支配するには、何十代もかかることを悟った。
 常人ならそれは、あきらめる、ということだが、彼は自分もそれをやろうと決意した。

 どうやって?

 そんなことが常人にわかるわけがないが、超富裕層と呼ばれる一族は、すべて代々である。英才教育、政略結婚、閨閥づくり、一般に知られているノウハウはその程度だが、そんなものは氷山の一角でそれこそ魔法のようなノウハウが山のようにあるに違いない。気が遠くなるような話だが、世界支配を実現するためには、それが必要不可欠なのだ。
 自分の志を自分の子孫に確実に継承させる…… あたかも自分が何度も生まれ変わるかのように子孫を動かす……。もしノブナガがヨーロッパでその術を会得していたのなら、ノブナガの志は今も生き続けていることになる。いうなれば、オダチャイルドとでもいうべき一族がひそかに形成されて力を伸ばしているのではないか。 

 まったく根拠のない絵空事?

 そうかもしれない。しかし、ノブナガの肖像画に似ている人物が世界のキーパーソンとして現れたら、その時はこの話を思い出して欲しい。国籍や人種に惑わされず、面長で大きな鼻、それこそがノブナガの分身だ!

◇ ◇◇ ◇◇◇ ◇◇ ◇

 以上、どこかの星のオタク君のトンデモ話でした~


写真は、稲垣純也さんの作品です。ありがとうございました。

 

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