[AI]海辺のエチュード № 徘徊
介護施設の研修で「徘徊の薬」を飲まされた。
認知力が低下し 徘徊の気分をリアルに体験できるのだという。
訪問介護ならいざ知らず、
施設の職員にそんな体験が必要だとは思えなかったが、
拒否るのも面倒なので飲んでみた。
何しろ、ククチンの時には壮絶にやりあった。
それをまたこの秋に繰り返すことになるのだ。
引くべきところは引いておいたほうがいい。
薬を飲んで施設の外に出ると、見慣れた海岸が
何もない砂漠の海岸のようになっていた。
はじめは、これこそ自分の見たかった光景だ、
こんな場所をひたすら歩きたかったのだと思ったのだが……
しばらくすると、むしょうに家に帰りたくなった。
見渡す限り海と砂しかなかったはずだったが、
よく見ると遠くに高床式の掘立小屋があるではないか!
そうだった。自分の家はあれだったと思い出した。
社会に適応できない自分は、ついにホームレスとなり、
離島にやってきて、そこで小屋を自作したのだった。
見てるだけで気持ちが高ぶってくる。
何しろ廃材や流木をかき集めて
一から建てた正真正銘のマイホームなのだ。
パートナーと云ってもよかった。
ずいぶん歩いたが、疲れなどまるで感じない。
我が家にさえたどり着くことが出来れば、
それで、すべてが解決するのだから!
あと少し、あと少し……
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