［短編］希望退「天」者たち

今、何書いてるの？

「黒い天使」のお話

なに、それ？　悪魔の使い？

違う。使われてない。自分の意志で、結果的に神に逆らってしまった天使の物語だよ

何、やったの？　人間の女の子に手エ出したとか？

まさか！　いや、半分は当たってるか

駆け落ちしちゃったんだ

駆け落ちはしない！　それと色恋沙汰でもない！

だったら何なのよ

ヨソで云うなよ

はいはい

「マッチ売りの少女」は知ってるな？

お話の？

もちろん。
というか、今どきの若いもんは「マッチ」をリアルで知らんのだな

ワタシは、知ってるよ
おばあちゃん家の仏壇で見たさ
何回か擦らしてもらったよ～

じゃあ、イメージはできるな
マッチ売りの少女は天国に召されたんだが
天国でも　ひとりでマッチを擦ってたんだ

ちょっと待って。意味がわかんない
彼女は、夢を見続けるために
持ってたマッチを全部擦って凍死しちゃったんだよね？
天国に行ったら　その必要がないじゃん
望みが全部かなうんでしょ？

黒い天使……　まだその時は黒じゃなかったけど
その天使もそう思って、声をかけたんだ
実は　その天使にも似たような経験があったんだ
人間だったころ　嫌なことがあって
やけになって川で泳いでたら　溺れてしまった

…………

でも、その時にはまただ死ぬとは決まっていなかったんだ
この世でやり直すか、それとも天国に行きたいか
選ぶことが出来たんだよ

嫌なことがあったから、天国行きを選んじゃったんだ

そういうこと。でも、後悔した。
だから、マッチ売りの少女の気持ちがわかったんだ

で、マッチ売りの少女は、黒い天使になんて返事したの？

わたしは天国で幸せになりたかったんじゃない、て

小さいのに　しっかりしてるね

そういう話じゃない！

わかってるって
天国でお金持ちになるより
今、小金持ちになりたーい　て話でしょ？

それは自分のことだろ！

相手の身になって考えたのに怒らないでよ

それを云うなら
自分の身に置き換えただけだろ
相変わらず　自己チューだなあ

あなたには云われたくないけどねえ～

彼女が云うには
現実の世界で　ほんの少しでいいから
人並みの暮らしがしたかった　それだけだと

じゃあ、天国でマッチ擦って
貧乏でも、おばあちゃん一緒に暮らしてる夢を見てたってこと？

ああ

そりゃあ、せつないね

で、その天使は、彼女とおばあさんを、この世界に連れ戻した

ありゃあ

でも、気持ちはわかるだろ？

わかるけど　不条理だ

ときどき　難しいこと云うなあ

だって、そうでしょ
また、貧乏な暮らしやるんでしょ？

そうだな

おばあちゃんも、そのうち死ぬじゃん

…………

そしたら、またひとりぼっちじゃん！
また、マッチ売りじゃん！

仕方がないだろ！
本人が　そう希望したんだから！

だから、不条理って云ったんだよ

不条理って　そういう時に使う言葉なのか？

よくそんなんで小説家とか云えるね

それも不条理か？

もしかして　あなたも戻ってきたんじゃないの？
天国で人気作家になるよりも
この世で、売れない作家やってたいって

…………

反論しないの？

実はそんな気がしたんだ。この話を書いてる途中で

「黒い天使」って、いいヤツじゃん
皆が皆、天国に行きたいわけじゃないと思うよ

そうだな、案外、多いかもな
貧乏で将来の見込みも無くて、それでよく生きてられるな、ていう人間、結構、いるからな

間接話法っていうやつね

何それ？

なんでもない～
希望して、そういう人生やってるなら、そりゃあ幸せだよ
貧乏でハゲでデブで、歳食ってても～♪

※この短編は、＜星漫画家＞(せいまん☆えか)　さんの漫画作品を拝見して生まれたイメージです。　推しです！　特に、昭和の終わりの若者には～
マンガで世界が変わるかも！｜＜星漫画家＞(せいまん☆えか)　　　　　（63歳オヤジ！です。）｜note

見出し画像は、cectne9さんの作品です。
ありがとうございました。