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[伝奇]不死の国[幻聴ラヂヲ]

今日も聞こえてきたどこかの星の怪電波

その星には、魔性の国、というのがあるらしい。
それはそれは穏やかな気候に恵まれ、美しい土地なのだが、それが故にか、幾度もの侵略にさらされてきた。

不思議なのは、その後のことである。
いずれの侵略者もしばらくすると、穏やかなやさしい性格になり、元々いた先住民の性格に似てきて、そこの土地の伝統や文化を半ば以上受け継ぐのだそうだ。
それだけではない。土地への愛情が高じて、あたかも自分たちの祖先がこの国を作ったと思い込む。まあ、人間誰しも己を正当化したいから、その気持ちはむしろ自然ではあるのだが。

しかし、それでは終わらない。また新たな侵略者がやってきたからだ。

どうなったか?

なんと、また同じことが繰り返された!

その後も…… さらにその後も…… 

そのことに気づいたのは一人の変わり者だった。彼の趣味は古い神様を捜すことだったのだが、古い神様とは要するに征服された人々の神であり、期せずして侵略の歴史と、その後を知ることになった。
彼の流れ着いた場所が「神」以前のアニミズムの土地であり、近くには、隠された王を祀る場所があったというから、見えざるチカラに操られていたのかもしれない。

暑い日、木陰で休んでいると、こんな考えがふってきた。

この土地に暮らすようになった人々が、侵略と被征服者のことをすっかり忘れてしまうのは、この地に宿る魔力のせいではないか。なぜなら、侵略者は同じ民族ではないからだ。それなのにどの侵略者も一様に、すっかり過去のことは忘れて、自分たちは太古の昔からここに暮らしてきたと思い込む。
そんな偶然などあるものか……

その地は、今また何度目かの侵略にさらされていて、彼も大いに憂いていたが、この地の魔力に思い当たると、少し気持ちが軽くなった。

百年後には、違う肌や髪の色の人たちが暮らしているかもしれない。
しかし、もう百年も経てば、彼らはきっとこう思っているはずだ。
ここの風土と伝統はすばらしい。「この地に先祖代々暮らす自分たち」は、きっと特別な民だ。なんとしてもここを守り続けていかねば、と。

そして、彼らの中からもきっと変わり者が現れる! そいつはオレのように古い神にひかれ、やがては「神」や「王」が何度も何度も上書きされていることに気づくに違いない。

かつてこの地に、一度も侵略したことのない人たちがいた。
不死の魔法をかけたのは、おそらく彼らだ。
どれ、未来の変わり者のために目印を残しておいてやるか。
ここだよ、ここにいたんだよ…




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