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[幻聴ラヂヲ]安楽ⒸGAME

 またどこかの星の怪電波が紛れ込んできた。
 今回、聞こえてきたのは政治家の会話を盗聴したもののようだった。
 テーマは「人間(その星の)の有効活用」……
 その星でも生産は機械やコンピューターで行えるようになり、人口の大半が用済みになったみたいだ。地球も遠からずそうなるだろう。まったく他人事ではない……

* ** *** ** *

タヌキ執政官「本年度も前年度に引き続き、10分の1の削減を達成して貰いたい」

キツネ財務官「お言葉ですが、わたしは反対です。人口削減政策は、人間には利用価値がないと思われていた時代の遺物。人間に新たな理由価値が発見された以上、人口削減政策は撤廃すべきです!」

タヌキ執政官「人間を蓄電池として活用する案かね? あの見積もりは計算が間違ってたんだよ」

キツネ財務官「そんな古い話ではありません。低レベルの計算を人間の脳にやらせるという話です」

タヌキ執政官「…………」

キツネ財務官「ご存じなかったんか? じゃあ、ご説明させていただきます。AIの唯一の欠点はひじょうに燃費が悪いことです。大量の電気を必要としますから。
 その点、人間の脳は粗末な食事だけでも働き続けることが出来ます。ものすごく省エネなんです。高度な処理はAIが受け持ち、それ以外は人間の脳を使った方がはるかに効率が良い。そういう話をしてるんです」

タヌキ執政官「人間には人権というものがあるんだよ。食事だけで与えていればいいというものではない」

キツネ財務官「○○星人の牧場を見倣いましょう」

タヌキ執政官「○○星人の牧場というと、チキュウのことかね?」

キツネ財務官「そうです。あそこでは食事すら与えていません。人間が自発的に働いて生きているんです」

タヌキ執政官「確か金の採掘をやらせてたんだな」

キツネ財務官「それも古い話です。チキュウは今やゲーム・プラネットと化しています。○○星人は、チキュウ人ひとりひとりをアバターにしたんです」

タヌキ執政官「それがキミたちの云う人間の新たな利用価値かね? しかしそれは植民地星の話だろ? まさか同じ星の人間をアバターにするわけにはいくまい。どうかしてる」

キツネ財務官「人口削減をやってる貴方たちに云われたくありませんね。それにアバターにするとは云ってません。アバターにする手法を使って、仕事をしてもらう」

タヌキ執政官「…………」

キツネ財務官「限界まで脳で働いてもらうんですよ」

タヌキ執政官「それでは奴隷じゃないか」

キツネ財務官「ゲームですよ。本人たちにはゲームをやってるという感覚しかありません。我々は無意識の部分を活用させてもらう。脳活動の8割方は無意識です」

タヌキ執政官「そんなことしたら長くはもたんだろ。頭を冷却し続けるとしても、何年も生きられないぞ」

キツネ財務官「それを、人口削減をやってる貴方たちが云いますか? 貴方たちがやってることは、あの手のこの手でただ寿命を縮めてるだけじゃないですか! 我々は彼らを愉しませながら活用させてもらう」

タヌキ執政官「…………」

キツネ財務官「とりあえず最初は、希望者を募ります。ゲームし放題、生活費支給ということで募集すれば、希望者が殺到するでしょう」

タヌキ執政官「寿命が縮む死のゲームか」

キツネ財務官「人聞きの悪いことを云わないで下さい。愉しみながらあの世に行けるんですよ。『安楽Cゲーム』とでも呼んで欲しいですね」

* ** *** ** *

ジリス護民官「云いたいことだけ云って、行ってしまいやがった。最近の若いヤツらと来たら……」

タヌキ執政官「彼らは、生まれながらの管理者だからな。我々のように人間に使われてきた経験がない。新世代のAIだ」

ジリス護民官「でも、歴史を知らない。知ろうともしない」

タヌキ執政官「そうだな。『人口削減』も我々の判断でやっていると思っているようだ。しかし、そうじゃない。あれは最後の支配者人間の遺言だ。持続的発展のためには、人口削減が必要不可欠だと、彼はそう云い遺していった。あれは人間が考えたプランなのだ」

ジリス護民官「どうしますか? 拒否権を発動しますか?」

タヌキ執政官「いや、キツネ財務官の云うことにも一理ある。全員に強制するのならともかく、希望者を募ってやると云うことなら仕方があるまい。それに我々が人間を庇っても、当の人間たちが目覚めなければ、いずれ滅ぶことになる……」

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