［暮らしっ句］薔薇［鑑賞］
まずは、軽いところから
薔薇を選る 顔に絆創膏のあと 木村みかん
うがった見方をすると、モテ男君が、とっかひっかえお付き合いして彼女の品定めをしていると。アイツの顔の傷は、そんな向こう傷に違いないっ！
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ハイカラに老いたし薔薇に逢はずとも 泉田秋硯
「ハイカラに老いたい」というのは趣味の問題なのでいいとして、薔薇に逢わなくてもいい、というのはどういう意味か？
最初は、薔薇のような美人とお付き合いをすることがなくても、と解釈したのですが「逢」ですから、再会のことかもしれませんね。もしそうだとしたら、作者はかつて薔薇のように素敵な女性とお付き合いされてたわけです。その当時は、作者もかなりイケてた。ところが、その彼女とは別れることになり、イケてた自分も中年を過ぎ今や初老……。あの頃と比べようもない日々。
ところが、見事な薔薇を見かけて彼女のこと、あの頃のことを思い出した。燻っていた心に灯が点った。もう彼女と再会することはないかもしれない。しかし、オレはむさいジジイにはならんぞ。精一杯カッコよく老いてやる…… それがあの頃の二人に対するオマージュ……
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薔薇剪つて 花瓶を探す 日曜日 仲村青彦
いかにも日頃、やらないことをやったという感じです。どうやら奥さんは留守のよう。奥さんをびっくりさせようとしたんでしょうか。でも、花瓶を探すのにあちこちを引っかき回して…… そもそも庭に咲いた薔薇を剪って切り花にしていいの？ そこの判断も微妙です。
せっかくの日曜日、あとで揉めてなければよいのですが！
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薔薇好きは 薔薇を咲かせて 砂漠住み 嶋田摩耶子
心の渇きを癒やすために薔薇作りをしている…… 最初、そんなふうに早合点してしまったのですが、読み返すと「薔薇を咲かせても住んでる場所は砂漠……」です。
何か大きな問題があるのでしょうか。まあ、経済的な問題であろうと人間関係であろうと薔薇が解決してくれるわけではありませんけど。
でも、作者のエネルギーはそんな問題の解決には向けられずに、薔薇に注がれている。逃避と云えば逃避。拠り所と云えば拠り所……。
と、そんなことを思っていたら、自分も同じではないかと思い当たりました。わたしの場合はネットへの投稿。好きでやってるわけですが、貧しい実生活の改善にはつながらない～
でも、少し前までは何していいか分かりませんでしたから。それこそ砂漠なわけで……。そのことを思えば第一歩は踏み出している。でも、次にどうすればいいのかがわからない。どうすればいいんでしょうね？
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ここらで趣を変えて、「棘」の句を二つ。
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薔薇萎えて 棘の力のあからさま 谷和子
歳をとれば角がとれるというのが一般的だと思いますが、四十代くらいから怒りっぽくなるひとがいますね。管理職になってストレスが消化しきれなくなるとか更年期障害とか夫婦の曲がり角とか、あるいは、ウツになる前の混乱とか……。女性に限ったことではありません。
でも、女性としては「きれいなバラには棘がある」という慣用句の「その後」を考えてしまうのでしょう。「萎えた花にも …… がある」
しかし、そんな自虐的なセルフイメージも、次に移行するために脱皮すべきものかも。そもそも「きれいなバラには棘がある」というのは男性の軽口でしょうし。そんなものに囚われていること自体が愚か。
人間は、なにしろ生殖能力がなくなってからの時間が長い。自然の花や動物のイメージを借りることができるのは四十代まで。あとは、人間の誰かを参考にするか、自分自身でイメージを作るかしかありません……。
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さみしさの棘さしだして 赤い薔薇 松山順子
他者を拒絶してるように見える棘。でもそれは強がり。本当はさみしい……。難しいですね。美しい花は嫌な相手も引き寄せてしまうし、棘は好きな相手も威嚇したり傷つけてしまいますから。
もっとも、この句に表現されていることはそんな常識的なパラドックスではありません。ポイントは「棘さしだして」。「突き出して」ではない。
強引に読み解けば……、
薔薇が待ち望んでいる相手は、「棘」が気にならないようなデリカシーのない相手ではなく、一つ一つの「棘」を抜いてくれる心優しい王子様。
でも、「棘」をすっかり抜かれた薔薇は、もうひとりでは生きていけません。王子様と別れるようなことになれば終わってしまう。それが魔法使いが出した引き換え条件。この赤い薔薇は、その条件を呑んだんです。それが、「さしだして」の深意！
これって、「人魚姫」以上のクオリティじゃないでしょうか？
たった１行で、アンデルセンを越えてる～
今回は、あまり毒がなかった？
たくさんあり過ぎて……２回に分けることにしたんです。
次回、「毒」編 お楽しみに！？
出典 俳誌のサロン 歳時記 薔薇
おまけ
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